10月27日の明治安田J2リーグ第36節で、2位の清水エスパルスは、J3降格圏内に沈む栃木SCを1-0で下し、3季ぶりのJ1昇格を決めた(カンセキスタジアムとちぎ)。

前週20日のJ2第35節では、昇格プレーオフ圏内を目指し5連勝中のモンテディオ山形を相手に、今2024シーズン初めてホームのIAIスタジアム日本平での敗戦を喫し、山形に6連勝を許した清水(1-2)。
エースFW北川航也が先制ゴールを決めたにも関わらず、終盤7分間で2失点し逆転されるという嫌な負け方から、秋葉忠宏監督が戦術的にも精神的にも、いかに立て直したかがポイントとなる試合でもあった。

ここでは清水がJ1昇格を決めた栃木戦を振り返ると共に、来2025シーズンJ1の舞台に向けて抱える不安要素について掘り下げる。

J1昇格を果たした清水エスパルスが抱える不安要素とは…

J1への返り咲きを決めた栃木戦

スターティングメンバーとシステムを大幅に変更し、FWカルリーニョス・ジュニオを1トップに、MF乾貴士、MFルーカス・ブラガをシャドーに配置。守備にもテコ入れを施し、3バックに変更。右ウイングのDF北爪健吾と左ウイングのDF吉田豊を起点としたサイド攻撃からゴールに迫る狙いだ。

しかし、立ち上がりから、J2残留へ向けて勝つしかない栃木の勢いに戸惑うことになる。いきなり前半3分、栃木MF南野のCKのこぼれ球に対し、MF石田凌太郎が弾丸ミドルシュートを清水ゴールに突き刺す。

ところがこの日、負傷欠場のGK権田修一に代わって、今季リーグ戦初出場初先発の沖悠哉の前に位置していた栃木FW矢野貴章がオフサイドを取られ、ゴールが取り消されるという幸運も味方する。

この“失点”によって浮き足立ったのか、栃木のハイプレスによって、清水DF陣が危険なボールロストを犯すシーンが続いたが、何とか無失点で前半を終えた。シュート数は清水の4本に対し、栃木は7本。どちらのチームが昇格・残留争いをしているのか分からないといった印象だった。

それでも秋葉監督はハーフタイムに動くことはなかったが、セットプレーでスコアを動かす。MF宇野禅斗のCKにDF住吉ジェラニレショーンが右足で合わせ、先制に成功する。


この日の清水は、控えにDFの選手を入れていなかったため、後半20分にMF矢島慎也とMF西澤健太が、後半25分にはFW北川航也とFWドウグラス・タンキと次々と投入され、攻撃の圧を強めていく。

ところが、後半28分には沖が遅延行為でイエローカードを提示され、後半38分には北川が接触プレーの際、相手選手を蹴り上げる報復行為によって一発退場。この主将の愚行によって、残り時間は守り一辺倒にならざるを得なくなり、アディショナルタイム8分を何とか凌ぎ切った清水が薄氷の勝利を手にし、J1の舞台への返り咲きを決めた。

J1昇格を果たした清水エスパルスが抱える不安要素とは…

このチームではJ1で戦えない

前節、敗戦を喫した山形戦、そしてこの日の栃木戦も、内容度外視で勝利だけを求める相手の気迫に押されるシーンが目立った清水。この日敗れた横浜FC(対ファジアーノ岡山2-4)に代わって首位に立ち、自力でのJ2初優勝も見えてきたが、同時に課題も残された一戦だった。

ネガティブな意味で「相手のサッカーに合わせてしまう」悪癖は相変わらずだ。加えてこの日は、メンバーを大幅に変えたことによってパスミスも目立ち、サイドの攻防でも劣勢に立たされる時間帯も多かった。昇格の瞬間を見届けようと宇都宮まで足を伸ばした大勢のサポーターも、嬉しい反面、このチームではJ1で戦えないと実感したはずだ。

来季2025シーズンから3季ぶりにJ1の舞台で戦うこととなった清水だが、開幕戦にどういったスターティングメンバーとなるのか、全く見えてこない。今季からゼネラルマネージャー(GM)に就任した反町康治氏がどんな補強をしてくるのかという希望と同時に不安も抱えているのだ。

この日のスタメンのうち、MFルーカス・ブラガ(レンタル元=ブラジル・サントス)、MF宇野禅斗(町田ゼルビア)、DF住吉ジェラニレショーン(サンフレッチェ広島)、MF中村亮太朗(鹿島アントラーズ)、DF蓮川壮大(FC東京)と、実に5人ものレンタル選手が名を連ね、チームの主軸を成している。

これらの選手が来季、全てレンタル元へと戻れば、大きくチームを作り直す必要に迫られる。この日も安定したプレーぶりでチームを落ち着かせたボランチの宇野と中村が移籍となればなおさらだ。


J1昇格を果たした清水エスパルスが抱える不安要素とは…

ポスト乾は?

加えて、すっかりチームの顔となった乾は来年には37歳を迎える。2018FIFAワールドカップロシア大会では日本代表をベスト16に導き、ドイツのボーフムを皮切りに、フランクフルトを経てスペインに渡り、エイバルやベティス、アラベスと渡り歩き、ラ・リーガにおける日本人選手初の100試合出場、2桁得点、2桁アシストを記録した名ウインガーの乾。

清水で3年目を迎えた今季は、トップ下に“モデルチェンジ”し、持ち前のテクニックのみならず前線でのチェイシングでもチームを助けた。

しかし不安点もある。現在の乾のプレースタイルがJ1のプレー強度に耐え得るのか。今季もフル出場時には後半30分過ぎには“ガス欠”を起こすことも多かった。昇格を逃した昨2023シーズンには“戦術・乾”とまで呼ばれるほど重要なピースだったが、やはり加齢による衰えは隠し通せない。

「ポスト乾」として真っ先に名前が挙がるのは、この日も途中出場し終盤戦のラッキーボーイとなっていた矢島だが、いかんせんJ1での実績に欠ける。

J1昇格を果たした清水エスパルスが抱える不安要素とは…

レンタル選手中心編成のツケ

FWに関しては、主将の北川を筆頭にカルリーニョス・ジュニオ、ドウグラス・タンキ、アブドゥル・アジズ・ヤクブといった助っ人外国人もおり粒揃いなのだが、その他のポジションに関して言えば補強ポイントだらけなのだ。

J2降格後の清水の補強戦略は、秋葉監督が過去に指導した“チルドレン”を加入させる傾向にあったが、舞台がJ1となるとそれにも限界があるだろう。他クラブへレンタルしている選手に目を向けても、所属クラブで活躍しているのは、町田で覚醒し韓国代表のレギュラーにまで上り詰めたFWオ・セフンと、藤枝MYFCのFW千葉寛汰くらいで、補強ポイントとも異なる。

2シーズン連続でJ2を戦うことになったことで、今季レンタル選手を中心にチーム編成せざるを得なくなったツケが返ってきているというのが、現在の清水の台所事情だ。

前述したFW陣と、元日本代表の権田が君臨するGK以外はガラリと選手が入れ替わる可能性もある清水。
これまでは秋葉監督主導で選手補強が行われてきた印象があるが、「恩返し」と語り生まれ故郷である清水に戻ってきた反町GMと、アルビレックス新潟時代の教え子でもある秋葉監督のタッグが、来季“新生清水”をサポーターに示すことができるのか。腕の見せ所だ。
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