横浜FCは、第35節(10月19日)J2昇格プレーオフを目指すベガルタ仙台戦(ユアテックスタジアム仙台)で今2024シーズンのリーグ戦最多の3失点で敗れ(0-3)、続く第36節(10月27日)ではホームにファジアーノ岡山を迎え4失点(2-4)。
3位の長崎に追い上げられ、10日の結果次第ではプレーオフに回る可能性もありサポーターをやきもきさせたが、何とか逃げ切りに成功した横浜FC。選手やサポーター以上に、四方田修平監督は眠れない日々が続いたことだろう。
ここでは最終節を振り返ると共に、2021シーズンから1シーズンでの昇降格を繰り返す横浜FCが、来2025シーズンJ1残留を可能にするためのポイントを考察する。
横浜FC最終節山口戦
第35、36節ではJ2昇格プレーオフを目指すチームを相手に気迫で後れを取り、よもやの2戦連続の大敗を喫し、前37節の栃木SC戦では、失うものがないイレブンの意地を見せ付けられた形の横浜FC。最終節の山口戦は、「勝てば昇格」というプレッシャーに押し潰されそうになっているチームが普段通りの力を発揮できるかどうかがポイントとなる一戦だった。しかしながらこの日も、立ち上がりから動きが硬く山口に押し込まれ、ポゼッションでも劣勢の時間帯が続く。攻撃でも再三のクロスをゴール前に送るが、山口DFに跳ね返され続けたまま、前半を終了する。
後半、攻勢を強めようとする横浜FCだったが、単調な攻撃に終始し、得点どころか山口のカウンターを浴びるシーンも見られる。四方田監督が動いたのは後半21分。前節に先発復帰を果たしたFW室井彗佑を投入し打開を図るが、試合は膠着状態となっていく。
そして後半35分、指揮官は左ウイングのMF武田英二郎に代えて、DF中村拓海をピッチに送り込み、“引き分けOK”の采配に切り替える。
ラスト4戦未勝利というスッキリしない形だったものの、この順位は長いシーズンの積み重ねの結果だ。加えて、終了間際の横浜FCイレブンのなりふり構わず昇格に懸ける執念のプレーには目を見張るものがあった。
昨2023シーズンたった「1」だった降格枠に入り、3度目のJ2降格の憂き目に遭った横浜FC。しかし、四方田監督が就任した2022シーズンと同様、1年でのJ1復帰を成し遂げてみせた。就任3年で2度の昇格に導いた四方田監督の続投は既定路線だろう。4年目突入となれば、クラブ史上最長を更新する。
DF福森晃斗の動向が大きなウエイト
気になるのは来2025シーズンの横浜FCの陣容だが、前節終了時点でJ2では圧倒的な14アシストを記録しているDF福森晃斗の動向が大きなウエイトを占めている。最終節でもFK、CKのシーンでは、その存在だけで山口イレブンの脅威となっていた。レンタル元である北海道コンサドーレ札幌での福森は、2022、2023シーズンにわたり先発から外れることも多かった事情もあったとはいえ、その正確無比な左足は大きな武器だったはず。その札幌が現在、第34節終了時点で19位と、J1残留へ危機的状況にあることからも、その穴の大きさが分かる。
福森は横浜FCで、高校(桐光学園)の大先輩でもある中村俊輔コーチと出会ったことで、その左足により一層磨きがかかり、31歳にしてキャリアのピークを迎えたかのような活躍ぶりを見せた。
2015シーズン、福森が川崎フロンターレから札幌に移籍したタイミングで、四方田監督が札幌の監督に途中就任し、両者が師弟関係にあること。
しかし、レンタル先で復活した福森を札幌が放っておくはずもなく、仮にJ1に残留できたとしても、レンタルバックを求めてくることは間違いない。もし今オフ、横浜FCが福森を手放さざるを得なくなれば、来季のチーム編成を根底から見直す必要に迫られる。
他にもスタメンに名を連ねることが多い主力のFW髙橋利樹(浦和レッズからのレンタル)、MF中野嘉大(湘南ベルマーレからのレンタル)の去就も気になるところだ。
今季の横浜FCは、MFユーリ・ララ、FWカプリーニ、さらにはシーズン途中に加入したFWジョアン・パウロらの外国人選手が“当たり”だったことも大きかった。彼らが残留すればJ1でも引けを取らない戦いが期待できる上、U-18プレミアリーグEASTで優勝争いしているユースから昇格してくる若い力も加わる。
とはいえ、所属選手のほとんどが、前所属チームで出番を失ったことで横浜FCに流れ着いた“寄せ集め集団”であることに変わりはない。
J1残留を可能にできるかどうかの生命線
横浜FCの親会社「ONODERA GROUP」は、「立喰鮨 銀座おのでら」などのフードサービスを軸とし、メディカル事業やシニアライフ事業を展開。その中のスポーツ事業として、横浜FCのみならずポルトガル2部のUDオリヴェイレンセSADのオーナーとなるなど、グローバルな多角化経営を進めている。2021年から2024年にかけて、豊洲市場の初競りで一番マグロを競り落としたことでも話題になった同社のグループの代表取締役会長兼社長・小野寺裕司氏は、学校や病院の給食、企業の食堂などの運営から始まり、各地の病院給食の管理・運営会社を次々と買収。現在ではグループ売上高1300億円、グループ社員数2万7000人(いずれも2024年4月1日現在)にも上る。
横浜FCを運営する「株式会社横浜フリエスポーツクラブ」も、そのグループの1つなのだが、トップである小野寺氏が“その気”になれば、大型補強も可能なポテンシャルを秘めているのだ。
来季、横浜FCが現実的な目標であるJ1残留を可能にできるかどうかの生命線となるのは、所属チームで控えに甘んじている有力選手を見出し、四方田監督の下で再生できるかがポイントの1つだが、本気でエレベータークラブから脱しようと思うならば、オーナー企業の金庫を開けさせることも重要になってきそうだ。