2024シーズン明治安田J2リーグは全日程を終了し、優勝した清水エスパルスと2位の横浜FCの来季J1昇格が決定した。しかし残りの昇格1枠を目指し、プレーオフが残されている。


プレーオフ進出を決めた3位のV・ファーレン長崎と4位のモンテディオ山形は、準決勝において「引き分けでも決勝進出」というアドバンテージがあるものの、何が起きるか分からないことは昨季のプレーオフ決勝のアディショナルタイムでの劇的同点劇(東京ヴェルディ対清水/1-1で東京VがJ1昇格)で証明済みだ。

一方で、昇格クラブや降格クラブも含め、各クラブが来2025シーズンへ向けて動き出している。ここでは監督人事にフォーカスし、既に始まっているシーズンオフの動きについて深堀りしたい。

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J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

ブラウブリッツ秋田:吉田謙監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:100%

吉田謙監督は、2020シーズン当時J3のブラウブリッツ秋田の監督に就任し、いきなり圧倒的な強さで優勝を果たしJ2昇格。今季5年目、クラブ史上最高の10位でJ2残留を決めた。

毎年のように戦力が入れ替わりながらも、練習から強度を求め、結束力あるチームを作る手腕は、J2屈指だ。加えて、吉田監督の魅力はその「言葉」だ。その独特過ぎるボキャブラリーと、哲学的な例えを含めたコメントが注目され、2022年には公式グッズとして、日めくりカレンダー「まいにち吉田語録」が発売された。

J2昇格以降は2桁順位が続いているものの、2023シーズンには一時は暫定首位にも立った秋田。今オフも大幅に選手が入れ替わることが予想されるが、攻守が噛み合えば上位戦線を掻き回すだけのポテンシャルを秘めている。来季も試合のみならず、“吉田語録”にも注目だ。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

ベガルタ仙台:森山佳郎監督

評価:★★★★☆/続投可能性:100%

J2リーグ戦を6位で終え、プレーオフ準決勝(12月1日長崎戦)を待たずに最終戦翌日に続投が決定したベガルタ仙台の森山佳郎監督。2021シーズン19位でJ2降格以降、毎年監督を交代している仙台では、指揮官続投自体、渡邉晋監督(2014-19)以来だ。

J1昇格した横浜FCに対しては“ダブル”を達成。
優勝した清水にもホームのユアテックスタジアム仙台で勝利(3-2)。3位の長崎にも1勝1引き分けで、大いに上位戦線を掻き回した仙台。クラブ創立30周年の節目のシーズンで最終節のホーム大分トリニータ戦(2-1)での勝利で、プレーオフ圏内に滑り込んだ。

強化の裏には、2023年6月にGM(ゼネラルマネジャー)に就任した庄子春男氏の存在がある。富士通サッカー部で現役を終え、1995年からは創設間もない川崎フロンターレの運営に携わり、強化本部長を歴任し、エグゼクティブアドバイザーだった2023年3月に退任。故郷である仙台に請われ、フロント入りし、チーク改革を託された。庄子氏の言葉によれば、「リフォームというより建て替え」という状態だったという。抜本的にクラブを変革するべく、前U-17日本代表監督で育成に定評のある森山氏を新監督に招聘。コーチ陣も一新した。

前2023シーズンには16位と何とかJ3降格を免れたチームから、一気にJ1昇格を狙えるチームに変え、プレーオフの結果を待たず森山監督の続投を決めたことで、庄子GMの改革は成功したといっていいだろう。平均観客動員数も、2023シーズンの1万1,215人から今2024シーズン1万2,912人と、前年比約115%で回復し、終盤線のホームゲームではチケット完売も相次いだ。

13ゴールを記録したFW中島元彦や、9ゴールのMF相良竜之介といった若い力がチームを牽引し、伸びしろを感じさせる。
例えプレーオフで敗れたとしても、来2025シーズンは自動昇格の2位以内を狙えるだろう。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

モンテディオ山形:渡邉晋監督

評価:★★★★☆/続投可能性:90%

2014シーズン途中から2019シーズンまで、ライバルであるベガルタ仙台の監督を務めていた渡邉晋監督。2021シーズンにレノファ山口を挟み、2022シーズンモンテディオ山形のコーチに就任、2023シーズン途中に解任されたピーター・クラモフスキー監督の後任として、監督に就任した。

就任シーズン、いきなりチームを5位に押し上げ、昇格プレーオフに導いてみせた(準決勝の清水戦でスコアレスドロー、レギュレーションにより敗退)。そして今2024シーズン終盤、怒涛の9連勝で4位にまで順位を上げ、再びプレーオフ切符をつかむ。

山形はプレーオフ進出チームの中で唯一、外国人助っ人のいないチームだ。この事実だけで、渡邉監督がいかに優れた指揮官であるかを証明している。夏の補強で、鹿島アントラーズから地元出身のMF土居聖真を獲得した第25節以降、12勝1敗1分けという驚異的な成績を収め、土居自身も5ゴールを記録し、チームに貢献した。

正式発表には至っていないが、渡邉監督の続投は既定路線であることは間違いないと思われる。気掛かりな面があるとしたら、J1クラブから引き抜きに遭うケースだろう。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

いわきFC:田村雄三監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:80%

いわきFCは、東日本大震災を機に2012年に前身クラブが創設され、2015年アンダーアーマーの日本法人が運営権を譲り受け、社長に就任した元柏レイソルFW大倉智氏が「いわきを東北一の都市にする」と宣言した上で、福島県リーグからJ2昇格までわずか8年(その間、7回優勝&昇格)で到達した。

県リーグ時代からJFLまでチームを率いていた田村雄三監督がS級ライセンスを取得していなかったため、J3昇格と同時に村主博正氏に監督の座を譲り、自身はスポーツディレクターに就任したが、2023年にS級ライセンスを取得したことと、チームがJ3降格圏に低迷していたことを受け、シーズン途中に再び監督に就任。チームを立て直し、J2残留へと導いた。

充実したクラブハウス「いわきFCパーク」を拠点にフィジカルを徹底的に鍛え上げ、当たり負けしない選手を揃え、福島県1部リーグ時代の2017年の天皇杯では北海道コンサドーレ札幌を相手に5-2で圧勝するなど、これまでにないアプローチでチームを強化してきたが、J2にまでカテゴリーが上がるとフィジカルだけでは通用しなくなり、2023シーズンは18位に終わる。


今2024シーズンは、フィジカルに加え走力にも磨きをかけ、一時は昇格プレーオフ争いも演じたが、最終的には9位でフィニッシュとなった。それでもクラブの歴史そのものでもある田村監督を交代させるメリットは少なく、現体制が継続される可能性は高いだろう。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

水戸ホーリーホック:森直樹監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:100%

2023シーズンから指揮を執っていた濱崎芳己監督の下、悲願のJ1昇格を目指した水戸ホーリーホックだったが、 2024シーズン第12節までで2勝(6敗6引き分け)の序盤戦を受け、5月4日に濱崎監督を解任。ディベロップメント(戦術)コーチを務め、暫定的に指揮を執っていた森直樹氏が昇格する形で新監督に就任した。

正式に森監督が就任した第14節以降、25試合で勝ち点33と持ち直した水戸だったが、J1昇格どころか、J3降格を回避するのがやっとの15位フィニッシュ。本人は「残留を達成したことには満足」としておりチームも続投の方針を固めたとされているが、現実的にはJ1昇格など夢のまた夢で、来季も再びJ2残留がミッションとなりそうだ。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

ザスパ群馬:武藤覚監督

評価:★☆☆☆☆/続投可能性:0%

クラブ名から「クサツ(草津)」を排し、エンブレムも一新して臨んだ2024シーズンのザスパ群馬。1勝10敗3引き分けの成績で第14節を以て、2022シーズンから指揮を執る大槻毅前監督を解任した。ヘッドコーチだった武藤覚氏が監督に昇格したものの、一度も降格圏を抜け出せないまま最下位でJ3降格が決まってしまった。

武藤監督自身は、2010年の南アフリカW杯で日本代表のテクニカルスタッフを務め、2012年にはロンドン五輪ではU-23日本代表のアシスタントコーチも務めた実績もある指揮官だったが、就任当時既に崩壊状態にあったチームを救うことはできなかった。昨2023シーズン、一時期は昇格プレーオフ争いしたとあって期待されて臨んだものの、結果的にはサポーターを落胆させる結果となった。

既に武藤監督の退任が発表されているが、次期監督選び次第ではJ3を戦う来シーズンも苦戦するだろう。群馬の人件費は3億円を少し超える程度で、これはJ3に入っても4~5番目の数字だ。ここを増やせない限り、J3に定着してしまう可能性も高い。


今季限りで20年の現役生活にピリオドを打った地元出身のMF細貝萌が、来季、社長代行兼GM(ゼネラルマネジャー)に就任する人事が発表されたが、クラブのバンディエラである彼にこの重責を負わせざるを得ない事実こそ、群馬が迷走している証拠なのではないか。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

栃木SC:小林伸二監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:100%

田中誠監督と柳下正明ヘッドコーチの新体制でスタートを切った2024シーズンの栃木SC。しかし、守備陣が崩壊し、第15節終了時点で3勝9敗3引き分けの19位に沈み、5月14日に揃って解任。後を引き継いだのが、大分トリニータ(2001-02)、セレッソ大阪(2003-06)、モンテディオ山形(2008-11)、ヴォルティス徳島(2012-15) 、清水エスパルス(2016-17)、ギラヴァンツ北九州(2019-23)とJでの指導歴が豊富な小林伸二監督だ。

それでもなかなか勝ち星に恵まれない日々が続いたが、徐々に守備に改善が見られ、7ゴールを記録したFW南野遥海を中心に、点も取れるチームを作り上げていった。10月27日の第36節清水戦(カンセキスタジアムとちぎ)では、清水のJ1昇格を見届けると同時に8シーズンぶりのJ3降格が決まってしまうという憂き目に遭ったが、翌週11月3日第37節の横浜FC戦(ニッパツ三ツ沢競技場)では、スコアレスドローに持ち込んだことで相手のJ1昇格を阻み、意地を見せた。

栃木イレブンのリバウンドメンタリティーも見事だったが、降格が決まっても選手のモチベーションを維持させた小林監督の手腕も賞賛されるべきだろう。ちなみに、ラスト7戦を1勝1敗5引き分けでシーズンを締めくくっており、フロントもこの手腕を評価した上での続投要請だったと思われる。

小林監督も公式サイト上で、「この責任どう取るべきかというのをずっと考えてきました」と悩んだ末の決断だったことを明かした上で、「戦術をさらに徹底して落とし込むことができれば、今シーズンの負けを引き分けに、引き分けのゲームを勝利にもっていくことができるのではないか」と、早くも視線は来季に向いている。

レンタル選手が多いが故に不確定要素も多いが、監督自身が語るように戦術を徹底させていけば、来季J3の主役を張れるだけのポテンシャルは持っている。なにせ指揮官は、過去に指導した6クラブのうち4度の昇格を達成した「昇格請負人」だ。J通算600試合を超える知将に率いられ、1年でのJ2復帰の可能性も高いのでないだろうか。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

ジェフユナイテッド千葉:小林慶行監督

評価:★★☆☆☆/続投可能性:30%

果たしてジェフユナイテッド千葉はJ1に昇格する気があるのだろうか…。そんな気持ちにさせられる最終節(対モンテディオ山形/0-4)の惨敗劇だった。


2023年、コーチから昇格する形で就任した小林慶行監督。昨2023シーズンは6位で昇格プレーオフに進出し(準決勝で東京ヴェルディに1-2敗退)、今シーズンいよいよ「オリジナル10」の復活かと感じさせたが、ラスト2戦の敗戦によって4位からプレーオフ切符すら逃した。最終戦翌日、島田亮代表取締役は「シーズン終了のご挨拶」と題し、謝罪と感謝の思いを言葉に連ねたが、監督人事には触れなかった。

2006年に日本代表に就任したイビチャ・オシム監督(2003-06)を除けば、ファン・エスナイデル監督(2017-19)、尹晶煥監督(2020-22)と3年毎に監督を代えてきた千葉。前例に従えば、小林監督にもう1年猶予があってもいいだろう。前述2監督よりも好成績を上げているのも事実だ。天皇杯でもJ1のFC東京を破る下剋上を演出した。

それでも小林監督を退任させる可能性は高いとみる。ここ一番の試合をことごとく落とした勝負弱さもさることながら、この順位は23ゴールを記録し得点王を獲得したFW小森飛絢の大活躍によるものだからだ。その小森も、来季はこのチームにはいないだろう。そうなれば、チーム作りを一から始めなければならなくなる。また、自身の限界を知った小林監督の側から辞任を申し出る可能性もある。


来季には16シーズン目のJ2の舞台となる千葉。しかし、このチームから「必ずJ1に上がってやる」という気概は見えない。チーム人件費もJ2中位の8億円強、それでもホームのフクダ電子アリーナはJ1時代と変わらない集客力を誇っている。下手にJ1に昇格してしまったら人件費を上げざるを得ない。そこでフロントはあえて「現状維持」の道を選んでいるといったら言い過ぎだろうか。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

横浜FC:四方田修平監督

評価:★★★★★/続投可能性:90%

昨2023シーズン、たった1枠だった降格枠に入ってしまった横浜FC。しかしフロントは四方田修平監督の続投を決断。結果的にこれが奏功し、最後はギリギリだったが、1年でのJ1復帰を成し遂げた。正式発表はまだないが、引き抜きにでも遭わない限り続投が基本路線だろう。

2021シーズン途中から就任した四方田監督。5年目突入となれば、クラブ最長記録を更新する。4度目のJ2降格を回避するためには、今季の戦力にプラスアルファが必須となる。特に今季、チームのトップスコアラーが、7ゴールを記録した36歳のFW伊藤翔と32歳のFW小川慶治朗では、やや心もとない。失点の少なさ(27)でJ2を乗り切ったものの、同じ戦い方がJ1で通用するかといえば疑問だ。

四方田監督も、それは十分に理解しているだろう。片原大示郎社長と、2024シーズンからGM(ゼネラルマネジャー)に就任した田端秀規氏の腕の見せ所でもある。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

ヴァンフォーレ甲府:大塚真司監督

評価:★★☆☆☆/続投可能性:100%

ヴァンフォーレ甲府は、2022年の天皇杯優勝によってACL(AFCチャンピオンズリーグ)2023/24に出場しラウンド16に進出したことで、2024シーズン開幕前からの始動を強いられたものの、開幕連勝スタートを切った。しかし徐々に息切れし、第15節千葉戦から第21節愛媛FC戦まで勝利なしという結果を受け、7月2日に監督交代を決断する。

篠田善之監督の解任に伴い、コーチから昇格した大塚真司監督だったが、この指揮官交代劇も大きなカンフル剤とはなれず、ラスト10戦3勝6敗1引き分けで14位でフィニッシュした。

ACLに加え、天皇杯とルヴァン杯で16強に勝ち進んでしまったことで過密日程を強いられ、逆にリーグ戦を戦う上で“足かせ”となってしまった格好だが、天皇杯ラウンド16では鹿島アントラーズを相手に1-2の惜敗。ルヴァン杯準々決勝でも川崎フロンターレに合計スコア1-2と、J1クラブにも引けを取らない戦いを繰り広げ、チームのポテンシャルは示した。14位という順位に甘んじるチームではないはずだ。

得点も失点も多く、“撃ち合い上等”の試合が多いが、チーム得点王が40歳のピーター・ウタカでは来季に不安を残す。補強ポイントがあるとすれば、このあたりだろう。

今年、S級コーチライセンスを取得したことで、シーズン終了を待たずして続投が発表された大塚監督。いきなりのJクラブ監督という重責を担うこととなったが、タイミングに恵まれたともいえる。“新人監督”の手腕に注目だ。また、指導者としての経験も豊富で、剛腕GM(ゼネラルマネジャー)としての顔も持つ佐久間悟社長兼GMの辣腕ぶりにも期待したい。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

清水エスパルス:秋葉忠宏監督

評価:★★★★★/続投可能性:90%

昨2023シーズン、昇格プレーオフ決勝(国立競技場/東京ヴェルディ戦1-1でレギュレーションにより東京Vが昇格)で、悲劇を味わった清水エスパルス。例年の清水であれば、ここで監督交代となっていただろう。しかし、山室晋也社長以下フロントは、秋葉忠宏監督との“心中”の道を選ぶ。5年連続でシーズン途中に監督を更迭してきたクラブにとっては英断ともいえる選択だった。

今シーズンは「J1昇格」のみならず「優勝」という目標を立て、クラブ初となる2年連続でのJ2のシーズンに臨んだ。開幕連勝スタートを切ったが、早くも第3節の長崎戦(トランスコスモススタジアム長崎)で1-4の惨敗を喫してしまう。序盤にしてサポーターを不安にさせたが、ここから盛り返し、特に本拠地のIAIスタジアム日本平では、10月20日の第35節山形戦(1-2)で敗れるまで13勝2引き分けという無類の強さを発揮。ホームでの強さが結果的に、横浜FCとのデッドヒートを制し、J2初優勝に繋がった。

まだ正式発表には至っていないものの、続投濃厚の秋葉監督。来季J1初采配となるが、不安点もある。2年連続J2となったことでチームを離れた選手も多く、今季の選手編成は「レンタル選手+外国人+30代以上」が中心となってしまっている点だ。J1に入っても中位に位置する約22億円の人件費を誇る清水だが、再びシーズン途中での監督解任とならないためにも、大幅な補強が必要だろう。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

藤枝MYFC:須藤大輔監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:90%

現役の最後に東海リーグ時代の藤枝MYFCに所属し、J3時代の2021シーズン途中から指揮を執る須藤大輔監督。2018シーズン途中にガイナーレ鳥取の監督に就任した際も、最終的にチームを3位に押し上げた実績がある。シーズン初めから指揮を執った2022シーズンには藤枝はJ3で2位に入り、クラブ初のJ2昇格を成し遂げる。

今シーズンは開幕5戦を1勝3敗1引き分けとスタートダッシュには失敗したが、その後盛り返し、3億円にも届かないチーム人件費の中で、13位という順位は十分に合格点だ。16ゴールを挙げたエースFWの矢村健を中心に、攻撃的サッカーを貫いた。課題があるとすればワースト2位タイの失点数だが、だからといって守備的なチームに変えることは、“サッカーの街”を自負する藤枝市のクラブとして良しとはしないだろう。

エースの矢村はアルビレックス新潟からのレンタルとあって、新潟に戻る可能性も高いが、ほとんどの選手が25歳以下の若いチームでもある。クラブの生き字引といえる須藤監督が新たな才能を発掘し、攻守が噛み合えば、上位を狙えるポテンシャルを秘めている。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

ファジアーノ岡山:木山隆之監督

評価:★★★★☆/続投可能性:60%

今J2最終節、J3降格が決まっている鹿児島ユナイテッドを相手に痛恨のスコアレスドローによって4位から5位に転落し、昇格プレーオフ準決勝をアウェイ(対モンテディオ山形/NDソフトスタジアム山形)で戦うことになったファジアーノ岡山。

開幕から手堅く勝ち点を積み重ね、プレーオフ圏外に落ちることもほぼなく、リーグ戦での連敗もなく、安定した試合運びが光るチームを作り上げたのが木山監督だ。

2022シーズンから指揮を執る木山監督は、2003年母校の筑波大学の監督から指導者キャリアをスタートさせ、水戸ホーリーホック(2008-10)、ジェフユナイテッド千葉(2012)、愛媛FC(2015-16)、モンテディオ山形(2017-19)、ベガルタ仙台(2020)と、Jクラブの指導歴は豊富。岡山でも就任した2022シーズン、3位でJ1参入プレーオフ(1回戦で山形に敗戦)という成績を残した。

監督キャリアのほとんどをJ2で過ごしている木山監督だが、J1昇格の経験は一度もない。“勝負運”のなさは気掛かりだが、J2での戦い方を知り尽くしている指揮官でもある。クラブからの発表がない上、今季3年目とあって、続投はプレーオフの結果次第だろう。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

徳島ヴォルティス:増田功作監督

評価:★☆☆☆☆/続投可能性:100%

徳島ヴォルティスの今シーズンは“迷走”という言葉に尽きる1年だった。リカルド・ロドリゲス監督(2017-20)、ダニエル・ポヤトス監督(2021-22)、ベニャート・ラバイン監督(2023)と、スペイン人監督路線を走っていたものの、2023シーズン途中でラバイン監督を解任すると、吉田達磨監督を迎え、今シーズンも続投させる。

しかし、いきなり開幕3連敗。3月30日の第7節群馬戦(鳴門大塚ポカリスエットスタジアム)で敗れると、ゴール裏のサポーターの怒りが爆発。試合後にも居座り社長に謝罪させた挙げ句、クラブ側もサポーターに言われるがまま、その翌日、吉田監督と岡田明彦強化本部長の退任を発表する。怒りの末に我を失ったサポーターの要求を“丸飲み”した形の前代未聞の人事は、Jリーグ全体にも影響を及ぼしかねない悪しき前例となってしまう。

その後を継いだのがプロ初指導となるヘッドコーチの増田功作監督だ。付け焼刃人事とは思えない手腕を見せ、最終的に8位まで順位を押し上げた。

しかしその間、MF島川俊郎の突然の現役引退(その後、台湾社会人甲級リーグ「台中FUTURO」に加入)やMF西谷和希が練習参加を拒否し契約解除、J3ツエーゲン金沢への移籍といった主力の流出が続き、サポーターから「一体、ヴォルティス内部で何が起きているのか…」と心配の声が上がった。

この混乱はシーズン終了後も続く。最終節を前に増田監督の続投が発表されると同時に、クラブの顔で唯一の日本代表経験者だったFW柿谷曜一朗の退団や、谷池洋平強化部長の退任も明らかとなる。この決断は誰によるものなのか、黒部光昭強化本部長は増田監督の手腕を評価したことを公式サイトで明かしたが、柿谷の退団などの核心には触れなかった。

一部では、吉田監督時代から“吉田派閥”と“反乱分子”に二分されていたとも噂されていた徳島。この人事が“吉田派の一掃”なのだとすれば、来季結果を残さなければ、サポーターの怒りの矛先は黒部強化本部長と増田監督に向かうのは必至だ。徳島フロントは自ら、茨の道を選んだと言えよう。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

愛媛FC:石丸清隆監督

評価:★★☆☆☆/続投可能性:30%

2013シーズンから2014シーズンに愛媛FCを指揮し、2022シーズンに8年ぶりに戻ってきた石丸清隆監督。3年目となる今季は、ラスト11戦勝ちなしで、J2残留ギリギリの17位に終わった。

チームの顔だった元日本代表DF森脇良太の引退と「ポジティブエナジャイザー」就任や、背番号10を背負ったエースFW松田力、今季15試合に出場したFW曽田一騎、ユース育ちのDF三原秀真の退団が既に発表されているが、石丸監督の去就は未だ発表されていない。

2023シーズンはJ3優勝の立役者だった石丸監督だが、クラブ自体2~3年スパンで監督を交代させていることから、若返りと同時に新指揮官を探っている段階という見方もできる。特にラスト10戦で、8敗2引き分けという締めくくり方では、来季続投させることへの不安もあるだろう。

しかも来季は、同じ県のライバル、FC今治がJ2にやってくる。“愛媛ダービー”では、先輩の意地を見せ付けなければならない。新監督を就任させるとすれば、若返ったチームでまずはJ2に定着することを優先した人選となりそうだ。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

レノファ山口:志垣良監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:80%

東福岡高卒業後、イングランドに渡り選手生活を全うした後、指導者のキャリアもスタートさせた異色の経歴を持つレノファ山口の志垣良監督。日本では、ヴァンラーレ八戸(2022)、FC大阪(2023)の監督を経て、今シーズンから山口の監督に就任した。

最終的には息切れしたが、一時は昇格プレーオフも視野に入る快進撃を見せた山口。最終節では、J1昇格が懸かった横浜FCを相手に粘り強い守備を見せ、スコアレスドローに持ち込んだ。8ゴールを記録したユース育ちのFW河野孝汰や、7ゴールのFW若月大和といった若い力を生かしたチーム作りは評価されるべきで、4億円程度のチーム人件費以上の成績を残したと言えよう。

J1自動昇格を狙うにはまだ実力不足の感もあるが、優勝した清水とは1勝1敗、2位の横浜FCとは2引き分けと、昇格プレーオフを狙えるだけの力はある。志垣監督の指導によって、まだまだ伸びしろを期待できるチームだ。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

V・ファーレン長崎:下平隆宏監督

評価:★★★★☆/続投可能性:90%

2022シーズンから指揮を執っていたファビオ・カリーレ監督が、2023年12月末突然、レアンドロコーチ、デニスコーチ、セザールコーチらスタッフを引き連れ、ブラジルのサントスFCと契約。二重契約にあたるとして、V・ファーレン長崎はFIFAに提訴するに至った(FIFA側は「裁定できないという」裁定)。

同時にヘッドコーチに就任することが内定していた下平隆宏氏が、急きょ監督に就任。柏レイソル(2016-18)、横浜FC(2019-21)、大分トリニータ(2022-23)に続き、4度目のJクラブの指揮を執ることになった。

スカウトやユース監督、強化担当、ヘッドコーチと様々なキャリアを積んだ上で監督となった下平監督。2019シーズンには横浜FCをJ1昇格に導いた実績もある。いい意味で、これといった指導方針を持たず、柔軟性があり、与えられた手駒でやり繰りするのが得意な指揮官でもある。

長崎では、15ゴールを記録したFWエジガル・ジュニオ、12ゴールのMFマルコス・ギリェルメ、10ゴールのFWフアンマ・デルガドといった強力なブラジル人選手の得点力を発揮させるサッカーに振り切り、総得点はJ2リーグで他を圧倒する「74」、得失点差も「+35」と、いずれもリーグ1位を記録。終盤、横浜FCがもたつく中、5連勝でリーグ戦を締め、惜しくも勝ち点差1で自動昇格には届かなかったが、昇格プレーオフで大本命と目されていることに異論はないだろう。

ルヴァン杯1回戦では浦和レッズを破り、天皇杯でも3回戦でアルビレックス新潟を6-1で粉砕、4回戦では横浜F・マリノスを相手に2-3で敗れたものの、一歩も引かない戦いを見せた。仮にJ1昇格できたとすれば、清水、横浜FC以上にサプライズを期待させるチームで、今2024シーズンの町田ゼルビア以上のインパクトを生み出す可能性もある。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

大分トリニータ:片野坂知宏監督

評価:★★☆☆☆/続投可能性:100%

大分トリニータは、下平隆宏監督の下で2022シーズン5位、2023シーズン9位の成績を収め、今2024シーズンは「J1昇格」を旗印に3シーズンぶりに片野坂知宏監督を復帰させた。

攻守に切れ目のない「シームレスフットボール」を掲げたものの、序盤から低迷して一時は17位にまで順位を落とし、解任も囁かれた。最終的には16位に終わったものの、降格3チームがモチベーションを失い、勝ち点を伸ばせなかったことによるもので、特に総得点は「33」と、降格した栃木SCと同じ、J2ワーストの数字だ。

既に来季続投の方針と報じられ、通算で8シーズン目の指揮が内定している片野坂監督。前政権時(2016-21)の「疑似カウンター」や、前述の「シームレスフットボール」といった、先鋭的な戦術をピッチ上で表現できる選手を揃える作業が先だろう。それが出来なければ、2015シーズン(21位)以来のJ3降格も現実となりかねない。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

ロアッソ熊本:大木武監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:100%

J3時代の2020シーズンからロアッソ熊本の指揮を執る大木武監督。既に来季続投は発表され、クラブ最長記録を更新する6シーズン目の指揮が決まっている。

2021シーズンのJ3優勝のみならず、2022シーズンのJ2リーグ4位というクラブ史上最高の成績を収めた大木監督。ヴァンフォーレ甲府(2002、2005-07)、清水エスパルス(2003)、京都サンガ(2011-13)、FC岐阜(2017-19)と、Jでの指導経験が豊富なだけではなく、2007年には当時の岡田武史監督に「自分にはない考えを持っている」と言わせ、日本代表コーチにオファーされている。2010年南アフリカW杯に帯同し、16強進出に貢献した。

【3-4-1-2】あるいは【3-3-1-3】のフォーメーションを敷き、超攻撃的サッカー志向する。時には大量失点することもあるが、2023年の天皇杯ではクラブ史上初の4強に導くなど“爆発力”も備えるチームに育て上げた。来季も、そのエンタメ性に富んだサッカーでJ2を盛り上げてくれることは間違いないだろう。

J2全クラブ監督の通信簿&続投可能性

鹿児島ユナイテッド:浅野哲也監督

評価:★☆☆☆☆/続投可能性:0%

今2024シーズン、鹿児島ユナイテッドは2019シーズン以来となるJ2挑戦となったが、再び壁に跳ね返され、19位でのJ3降格となった。シーズン途中から指揮を執る大島康明前監督の解任に伴い、浅野哲也監督が5月に招聘された。Jクラブの指揮を執るのは、長野パルセイロ(2017-18)を途中解任された2018シーズン以来だった。

それ以前には、アビスパ福岡(2011)、JFLからJ3へ昇格した当時の鹿児島(2015-16)、そして長野、加えてなでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)の伊賀FCくノ一三重(2013-14)の指導も経験した浅野監督。

鹿児島にとって、Jリーグ入りを果たした功労者であることは間違いないが、J2を戦うにはブランクが長すぎた印象で、8月3日の第25節藤枝MYFC戦(白波スタジアム)から9月22日の第32節栃木SC戦(栃木県グリーンスタジアム)まで8連敗を喫し、この時点で事実上、J3降格は決定的となってしまった。

来2025シーズン、J3を戦う鹿児島の上層部は、新たな監督兼GM(ゼネラルマネジャー)に相馬直樹氏が内定したと発表。しかしながら、この「監督兼GM」という役職、2016シーズンに名古屋グランパスを率いた大物OBの小倉隆史氏の大失敗例が思い起こされる。指導歴もなくいきなり大役を任されることになったものの、17戦未勝利のドロ沼にハマり、8月には早くも休養という名の事実上の解任に追い込まれ、クラブ初のJ2降格に繋がった。小倉氏はその後、名古屋との関わりも断ち、地元三重の東海社会人リーグ1部・FC.ISE-SHIMAの理事長として奮闘している。

相馬氏は、町田ゼルビア(2010、2014-19)、川崎フロンターレ(2011-12)、鹿島アントラーズ(2021)、大宮アルディージャ(2022-23)の監督を歴任してきたが、お世辞にも「成功」とは言い難い成績に終わっている。監督兼GMという大役が務まるのか、期待よりも不安の方が先に立つ。

チーム人件費が3億円にも満たない鹿児島において、多くのポストを用意できない事情もあるだろう。しかし、チーム改革を実績に乏しい監督1人に託すのはリスクが大きすぎる。サポーターはJ2復帰どころか、J3定着、あるいはJFL降格すら覚悟しておく必要があるだろう。
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