2024シーズン明治安田J3リーグは全日程を終了し、圧倒的強さで優勝し1年でのJ2復帰を決めた大宮アルディージャと、2位のFC今治の、来季J1昇格が決定した。しかし残りの昇格1枠を目指し、J3では初となるJ2昇格プレーオフが残されている。
プレーオフ進出を決めた3位のカターレ富山と4位の松本山雅には、準決勝において「引き分けでも決勝進出」というアドバンテージがある。しかし、タイムアップの笛が鳴るまで何が起きるか分からないのがプレーオフだ。
一方で、昇格クラブやJFL(日本フットボールリーグ)降格クラブも含め、各クラブが来2025シーズンへ向けて動き出している。プロ初指導となるルーキー監督から、指導歴10年を超える大ベテラン監督まで、多士済々の指揮官が揃うJ3。ここでは監督人事にフォーカスし、既に始まっているシーズンオフの動きについて深堀りしたい。
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昨2023シーズンにヴァンラーレ八戸に就任しチームをクラブ史上最高の7位に押し上げると、今2024シーズンも最終節まで昇格プレーオフ争いを展開し、11位という成績を収めた石崎信弘監督。1995年、当時JFLのNEC山形(翌年から「モンテディオ山形」に改称)で監督業をスタートさせ、指揮したクラブは実にのべ12。試合数も通算800試合にも上る、Jリーグの生き字引だ。
2013年には、中国超級(1部)杭州緑城(浙江)で当時の岡田武史監督に請われる形でユースチームの監督も務めた。その練習は、選手個人のフィジカルとテクニックを徹底的に磨き上げる基礎的なメニューで、川崎フロンターレ時代に指導を受けた中村憲剛氏に「キツかったが、あの練習が僕の土台となっている」と言わしめるほどだ。
八戸は、全Jクラブ最低クラスの1億2,000万円程度のチーム人件費。ホームスタジアムのプライフーズスタジアムも、サッカー専用だが収容人数は約5,000人と、こぢんまりとしたものだ。
2019シーズンからJ3に参戦した後は、毎年監督をすげ替えてきたが、2シーズン目を完走した時点で、クラブ最長記録を更新している石崎監督。
最終節前日の11月23日に続投が発表された。来2025シーズンも引き続きJ2昇格を目指すことになるが、“その日”のために、スタジアム拡張などハード面の充実は急務だ。
開幕から低空飛行を続け、最終節を待たずにJFL降格となってしまったいわてグルージャ盛岡。総得点「27」も総失点「80」もリーグワーストで、得失点差「-53」では言い訳のしようもないだろう。
チーム人件費はJ3中位の約2億5,000万円だが、トップスコアラーにして背番号10を与えられたナイジェリア出身のMFオタボー・ケネスは5ゴールに終わった。22歳の彼に攻撃陣を引っ張る役割を与えるには、やや若すぎた印象だ。
星川敬監督は、現役時代、読売ユースから1995年にヴェルディ川崎に入団。当時はカズ(三浦知良)、ラモス瑠偉、武田修宏らが集うスター集団で、1試合も出場することなく2年で引退。指導者の道を進むことになるが、2009年初監督を務めた女子サッカーの日テレベレーザでは「クラブの秩序と統制を乱す」行為をしたとして2010年7月に解任された。見込みのある若手選手に海外移籍を勧めたというのが、その真相のようだ。
その直後の11月、同じく女子のINAC神戸レオネッサの監督に就任。
INAC神戸の監督を勇退した後は、イングランド、ポーランド、スロベニア、ラトビアで監督やコーチを務めた。帰国後ポゼッションを重視する手腕が買われ、2022シーズンからY.S.C.C.横浜の監督に就任。2023シーズン途中で解任されるが、2024シーズン盛岡で、中三川哲治監督、神野卓哉監督と2度の監督更迭の末、8月に指揮官に指名された。
しかし、第13節以降一度も最下位脱出がならないまま、第37節奈良クラブ戦での敗戦(1-2)でJFL降格が決まってしまった盛岡。GK大久保択生やDF西大伍、MF水野晃樹、FW都倉賢といったJ1経験のあるベテランも多く在籍していたが、就任当時すでに崩壊状態にあったチームを救うことはできなかった。
その手腕を発揮する間もないままシーズンが終わってしまった感があり、続投というフロントの決断にも納得はできる。しかしながら、毎日のように選手の契約満了のニュースが発信されている現状を見ると、来季2位以上を目指すことになるJFLを戦えるだけの戦力を揃えることができるのか。クラブの顔だったオーナー兼社長の秋田豊氏が退任することが決まっている中、フロントの底力が問われている。
11月17日、ホームでのアスルクラロ沼津戦(とうほう・みんなのスタジアム)を2-1で制し、J2昇格プレーオフ進出をほぼ確定させた翌日の18日、寺田周平監督の続投を発表した福島ユナイテッド。
現役時代は身長189cmを誇る長身を生かし、川崎フロンターレのDFとして活躍し、身長183cmの伊藤宏樹、187cmの箕輪義信と組んだ3バックは「川崎山脈」と呼ばれた。
現在49歳の寺田監督は引退後、川崎のコーチを務め(2020-23)、今季から福島の監督に就任。初の監督業への挑戦となったが、J3の中でも下位の人件費のチームを率い、攻撃的サッカーを志向しながら結果も出したことで、鬼木達監督が退任した川崎の次期監督候補にも名前が挙がった。
福島は当然ながらJ2昇格を目指してプレーオフに挑むのだが、例え敗退して来季もJ3を戦うことになったとしても、ポジティブに捉えることもできる。長期的視点に立てば、J2に昇格して守備に追われるよりも、寺田監督が理想とする攻撃的なチームを構築するにあたっては却って良いのではないか。
16ゴールを記録した生え抜きFW塩浜遼や、背番号10を背負うFW森晃太、滝川二高時代に2010年の全国高校サッカーで得点王に輝いたFW樋口寛規を軸に、川崎からのレンタル選手の19歳MF大関友翔、20歳の左サイドバックDF松長根悠仁らが噛み合うチーム構成。好成績に繋げたが、沼津戦でもゴールを決めた大関と松長の去就が、来2025シーズンの福島の命運を握っている。
まさに「圧倒」といえる強さだった大宮アルディージャ。開幕10戦を7勝3引き分けで第5節に首位に立つと、その座を一度も譲ることなく独走。シーズンを通して2敗しかせずに、2位のFC今治に勝ち点差15を付け、他チームのサポーターに「なぜこのチームがJ3に降格したのか?」と感じさせるほどの昇格劇だった。
リーグ最少タイの総失点「32」という守備の固さはもちろん、リーグ最多の総得点が「72」でありながら、トップスコアラーはFW杉本健勇の10得点。2桁得点は彼のみで、どこからでも得点できるのがチームの強みだ。長澤徹監督は、かつてクラブ最高成績でJ1昇格プレーオフに導いたファジアーノ岡山時代(2015-18)と同様、選手にはハードワークを求め、堅実なチームを作り上げた。
Jリーグ初となる外資系企業がオーナーとなり、「レッドブル」主導で改革が加えられていくことになる大宮。早速、チームの呼称も「RB大宮アルディージャ」となり、エンブレムも変更され、長らくマスコットだったリスの「アルディ」も姿を消した。
今季7ゴールを記録したMFアルトゥール・シルバ、さらに夏の移籍で加入したFWファビアン・ゴンザレスやMFオリオラ・サンデーという強烈な外国人選手を揃えているが、守備陣に目を移すと、19歳のユース育ちのDF市原吏音や、明治大出身の大卒ルーキーDF村上陽介が中心となっており、経験値の観点でやや不安を残す。中盤を司るMF小島幹敏やMF泉柊椰もJ2でどれだけやれるかも未知数だ。テクニカルダイレクター(TD)に就任した元ドイツ代表FWマリオ・ゴメス氏がどんな補強をするかに注目が集まる。
Jリーグでは珍しく、NPO法人が運営しているクラブであり、そのルーツは1964年にまでさかのぼるY.S.C.C.横浜。1986年に現在の呼称に改称。設立当初は育成年代のクラブとして存在し、後になってトップチームが設立され、神奈川県リーグ、JFLを経て、2014シーズンからJ3入りした異色のクラブだ。
NPO法人ゆえチーム人件費はJ最低で、大型補強はおろかアマチュア選手も混在。8位に食い込んだ2021シーズン以外は2桁順位が続いたが、ニッパツ三ツ沢競技場をホームに“横浜第3のクラブ”として存在感を示してきた。しかし今2024シーズン、ついに降格圏内の19位に沈み、12月1日と12月7日、JFL2位の高知ユナイテッドを相手にホーム&アウェイで開催されるJ史上初のJ3・JFL入れ替え戦に臨む。
JFL降格ならもちろん、J3に残留したとしても、FC琉球時代(2022-23)にも結果を残せなかった倉貫一毅監督を続投させるメリットは見当たらない。先立つもののないクラブであるため、残留に成功すれば続投という線もあり得るが、降格となれば今季限りでの退任が濃厚だろう。
元日本代表MF望月重良氏が中心となり、2008年2月創設されたSC相模原。神奈川県リーグ、関東リーグをそれぞれ2年で駆け抜け、2013シーズンにはJFL参入。
2020シーズン三浦文丈監督の下で2位につけ2021シーズンをJ2で戦うことになり、時を同じくしてDeNAが株式19%を取得しトップスポンサーに。チームは1年でJ3に降格してしまったが、経営面では安定を手にした。しかしそれが成績に反映されていないのが現実だ。2021シーズン途中に三浦監督を更迭し、高木琢也監督を招聘。翌2022シーズンも高木監督を解任し、薩川了洋監督を途中就任させた。
そして2023シーズン、「3年計画」と銘打ち人気解説者だった元日本代表MF戸田和幸氏を監督に抜擢。しかし18位という成績に終わり、翌2024シーズン途中17試合を消化し6勝4敗7引き分けの9位というタイミングで突然解雇する。スポーツダイレクター(SD)平野孝氏は「総合的な判断」としたが、この不可解な人事には様々な憶測が流れた。
平野氏と言えば、クラブ創設者の望月氏と清水商業高校の先輩後輩にあたる。この2人と現U-23日本代表監督の大岩剛氏は、名古屋グランパス所属時に、怠慢な練習態度や若手選手へのイジメなど、規律を乱したとして揃って解雇されるという“事件”を引き起こしている。大岩氏はジュビロ磐田に、望月氏と平野氏は京都サンガへの移籍を余儀なくされた。
望月氏と平野氏の“悪友”ともいえる関係が今でも残り、平野氏がオーナー企業の意向を受け戸田監督追放を画策したというのが“定説”となっているが、こんな経緯があったことで、後任選びが難航したことは想像に難くない。恐らく何人かの候補に断られた上で、Y.S.C.C.横浜(2019-21)でも長野パルセイロ(2022-23)でも結果を出せなかったシュタルフ悠紀リヒャルト監督に落ち着いた。
火中の栗を拾った形のシュタルフ監督は、外国人選手もいない中、経験不足のチームを率い中位をキープ。まずはミッションをこなしてみせたが、DeNAがバックについていながら、このチームでJ2昇格が狙えるかと問われれば疑問だ。相模原が飛躍するためには、監督や選手どうこうではなく、まずはフロント改革から着手しなければならないだろう。
現役最後に所属したアスルクラロ沼津で2年目の指揮を執る、日本サッカー界のレジェンド中山雅史監督。沼津は開幕10戦で6勝2敗2引き分けの滑り出しで、一時は2位をひた走っていたものの、終盤戦の大ブレーキでプレーオフ進出を逃した。
しかし、就任1年目13位だったチームを、終盤戦まで昇格争いを展開(最終順位は10位)するまでに引き上げた中山監督と、ジュビロ磐田時代の後輩でもある鈴木秀人ヘッドコーチによるチーム改革が順調に進んでいることを証明する2024シーズンでもあった。
清水エスパルス、磐田、藤枝MYFCに続く「静岡第4のJクラブ」として2014シーズンにJFL入りし、2017シーズンにJ3に昇格。いきなり3位の好成績を残したものの、その後は低迷期に入り2桁順位が続いていた。
今季プレーオフ進出は確実かと思われていたが、第25節FC今治戦から第28節FC大阪戦での4連敗で勢いが削がれると徐々に順位を落としていき、第37節福島ユナイテッドとの大一番で逆転負け。7位以下が確定してしまう。
平均年齢25歳と若いチームであることで、昇格争いのプレッシャーにも敗れてしまった印象だが、別の視点から見れば、まだまだ伸びしろを感じさせるチームでもある。そして何よりも、指揮官はサッカーに興味のない人でも知っている“ゴン中山”だ。その事実だけで大きな宣伝効果もあり、沼津にJクラブがあることを知ってもらえることに繋がっている。
【4-1-2-3】のフォーメーションで攻撃的スタイルを標榜し、中山監督の後輩でもある筑波大卒のルーキーFW和田育がチーム得点王(11得点)となるまでに成長したことで、来2025シーズン以降も期待が持てる陣容となっている。
1990年「長野エルザ」の名で発足し、2007年に「AC長野パルセイロ」と改称。2011年にJFLに参戦し、2014シーズンからJ3に参戦している同クラブ。いきなり2位の好成績を挙げその後も1桁順位が続いたが、昨2023シーズン14位、今2024シーズンはついに18位と、ギリギリで残留を決めた。
昨シーズン途中から就任した高木理己監督は、市立船橋高校から帝京大に進むと、大学卒業と同時に選手としてのキャリアに終止符を打ち、指導者の道を進んだ“プロ監督”だ。京都サンガ(2011-13)、ガイナーレ鳥取(2014-15)、湘南ベルマーレ(2016)でコーチ経験を積み、2021シーズンに鳥取、2023シーズンにはFC今治の監督を歴任。今治の監督解任後すぐに、長野からのオファーを受け、3クラブ目の監督に就任した。
今シーズンは、序盤戦から中盤戦にかけては上位も伺う位置にいたチームだったが夏場に急失速。第37節のギラヴァンツ北九州戦の1-1ドローでJ3残留を決めたものの、14試合勝ちなしでのフィニッシュでは、その能力に「?」が付けられてもおかしくないだろう。
プロ入り後の総得点が「10」だったFW浮田健誠が13ゴールを記録し、27歳にしてブレークを果たしたものの、上位カテゴリーのクラブから誘いを受、“個人昇格”する可能性もある。もしそうなれば、チームは一から作り直しだ。来2025シーズン、その中心に高木監督がいる可能性は低いだろう。
わずか2シーズンだったが、J1を経験した松本山雅(2015、2019)。2019シーズン17位でJ2に降格すると、坂道を転げ落ちるように2021シーズンにはJ2最下位となりJ3に降格。以降、2022シーズン4位、2023シーズン9位の成績に終わり、8年に渡り監督を務めた反町康治監督(現清水エスパルスGM)が勇退すると、その後、布啓一郎監督(2020)、柴田峡監督(2020-21)、名波浩監督(2021-22)と指揮官交代が続いた。
昨2023シーズンに就任した日本サッカー協会(JFA)元技術委員長の霜田正浩監督も、同シーズン9位という結果に終わり、また更迭かと思われたがフロントは続投を決断。この選択が奏功し、今2024シーズン4位でプレーオフ進出を果たした。
霜田監督は27歳にして指導者に転向し、主に育成年代の指導には定評があったが、2009年原博実氏からの熱烈な誘いによってJFA入り。技術委員として、日本代表監督にアルベルト・ザッケローニ氏招聘を実現させた立役者となり、ザッケローニ監督の下では対戦相手のスカウティングに従事。2013年にはU-20日本代表監督も務め、2014ブラジルW杯を最後に退任したザッケローニ監督の後任としてハビエル・アギーレ氏招聘も成功させた。
しかし2016年にJFA会長に田嶋幸三氏が就任すると、技術委員長から「ナショナルチームダイレクター」なる降格人事を突きつけられた霜田監督。JFAを後にすると、レノファ山口(2018-20)、ベトナムのサイゴンFC(2021)、大宮アルディージャ(2021/22)の監督として現場復帰。いずれも求められる結果は出せなかったが、捲土重来を期して臨んだ松本でプレーオフ進出を果たし、汚名を返上した。
J3随一の人気を誇り、平均でも6,000人強、長野パルセイロとの「信州ダービー」となればホームスタジアムのサンプロアルウィンに1万4,000人以上の観衆を集める松本。外国人がスペイン人GKのビクトルのみという準国産チームでありながら、13ゴールを記録したFW浅川隼人、MF村越凱光を中心に、中盤にはMF山本康裕、最後尾にはDF高橋祥平といったベテランを配し、連敗が1度しかないバランスの取れたチームを作り上げ、霜田監督自らの手腕を証明してみせた。
11月16日のホーム最終戦(岐阜メモリアルセンター長良川競技場)と、第37節大宮アルディージャ戦(2-2)で、ゴール裏とバックスタンドも覆うビッグフラッグでチームを鼓舞したことで話題を呼んだFC岐阜。惜しくもドローに終わり、他会場の結果によりプレーオフ進出の望みが断たれたが、最後までサポーターを楽しませた2024シーズンだった。
天野賢一監督は、古河一高(古河第一高校)時代全国高校サッカーに出場し、筑波大に進学。しかしプロへの道を選ばずに院進し、学生コーチとして指導者の第一歩を歩み出す。2000年にFC東京入りして育成年代の指導を担当し、2004年に新設されたFC東京U-15むさしの初代監督に就任した。
2008年に浦和レッズに移籍し、ユースのコーチに就任。2011年にはトップチームのコーチを務めた。その後、流通経済大学でコーチを務めた後、2019年にギラヴァンツ北九州のヘッドコーチに就任。小林伸二監督兼スポーツダイレクターの右腕としてチームをJ2に導く一助となり、2021年にはS級ライセンスを取得。2022年にはJ3に降格したチームの監督に昇格したが13位に終わり、北九州を去っている。
翌2023シーズンからFC岐阜のヘッドコーチに就任し、辞任した上野優作監督の後を継いで監督に就任した天野監督。同シーズン8位にまで持ち直し、今2024シーズンは昇格争いを演じるまでに押し上げた。Jリーグはもちろん、JFL、プロ化前のJSL(日本サッカーリーグ)、海外クラブも含め、選手経験のないままJクラブの監督を務めている稀有な存在だ。
地域リーグやJFLでのプレー経験もあり、19ゴールで得点王を獲得したFW藤岡浩介の決定力を生かし、リーグ2位の17ゴールを記録。チーム総得点「64」は大宮アルディージャに次ぐリーグ2位タイの数字だ。しかしながら守備にやや難があり、第26節松本山雅戦から第29節北九州戦までの4連敗と、2度の3連敗が最後に響いてしまった格好だ。
来2025シーズン、再度昇格争いに加わるためには守備面の改善が急務だ。終盤戦の快進撃には目を見張るものがあり、2位で昇格を決めたFC今治を4-1で粉砕し、プレーオフ進出を決めたFC大阪相手にも2-0で完勝している。2020シーズンからJ3を戦っている岐阜。一時は大きく観客動員を減らしたが、その数も戻りつつある。サポーターを魅了する攻撃サッカーで、来季も上位戦線を賑わせそうだ。
カターレ富山は、2007年に北陸電力サッカー部アローズ北陸とYKK APサッカー部が合併して誕生した。小田切道治監督は、その一方のYKK APに所属(2006-07)し、合併を体験したプレーヤーの1人だった。
強豪の富山第一高校から、当時J1の京都パープルサンガ(現京都サンガFC)に入団したものの、1試合も出場することなく1999年にJ2ヴァンフォーレ甲府に移籍。翌年にはJFLのジャトコに移り4シーズンを過ごした後、2004年に地元であるYKK APに加入。キャリアの終盤にはチーム合併やJ2昇格を経験するなど、浮き沈みの激しい現役生活だった小田切監督。
引退後すぐ、富山のジュニアユースのコーチから指導者キャリアをスタートさせ、2022シーズン途中解任された石﨑信弘監督の後を継ぐ形でトップチームの監督に就任する。当時、J3で8年目を過ごしていたが、2022シーズンは6位、2023シーズンは3位、そして今2024シーズンも3位でフィニッシュし、初開催のJ2昇格プレーオフの切符を手にした。
富山のターニングポイントは、2021年に社長として招聘した左伴繁雄氏の就任だ。同氏は45歳の若さで横浜F・マリノスの社長に就任してJ1連覇を達成すると、2008年に湘南ベルマーレから常務取締役のオファーを受け、これを機に日産自動車を退社し「サッカークラブのプロ経営者」の道を進む。2015年に湘南を退職したタイミングで、清水エスパルスから誘いを受け社長に就任。チームは初のJ2降格を経験するが、“昇格請負人”の小林伸二監督を招聘して1年でのJ1復帰に繋げた。
2020年1月に清水の社長を退任した後は、プロバスケットボールBリーグ「ベルテックス静岡」のスーパーバイザーを務めていたが、2021年カターレ富山に請われ再びJの舞台に戻ってきた左伴氏。日本サッカー界の名物社長である。赴任する先々で結果を残すだけではなく、指導者や選手、サポーターからも愛されるキャラクターで、特に監督を選ぶ目には定評がある。小田切監督も、その目にかなった1人だ。
8ゴールを記録した地元出身のFW碓井聖生、7ゴールのMF安光将作を中心に、10番を背負うブラジル人FWマテウス・レイリアが絡む攻撃陣と、ベテランDF脇本晃成と今瀬淳也が最終ラインを締めている。他にも将来有望な若手も控えており、小田切監督もローテーションさせながら試合経験を積ませ、誰が先発でも遜色ないチームに変貌を遂げた。
11年ぶりのJ2へリーチをかけた富山だが、その裏にはチーム強化の才がある社長と、“ミスター・カターレ”ともいえる指揮官の存在があるのだ。
昨2023シーズンJ2最下位に終わり、今年開場した新本拠地の金沢ゴーゴーカレースタジアムをJ3で迎えることになってしまったツエーゲン金沢。
新指揮官として、大宮アルディージャ(2017)、ヴァンフォーレ甲府(2019-21)、ジュビロ磐田(2022)、ベガルタ仙台(2022-23)と豊富な指導経験を持つ伊藤彰監督にチーム再建を託したものの、夏場以降に失速し、早々に昇格争いから脱落。結局、13勝14敗11引き分けの12位に終わった。
夏の移籍で加わったFW田口裕也や、シャドーストライカーとして覚醒した20歳のMF梶浦勇輝、ベテランFW杉浦恭平、ブラジル人FWマリソンの攻撃陣を生かしきれなかった印象だ。
金沢は元来、監督をコロコロ変えるクラブではなく、2014シーズンのJ3昇格以来、伊藤監督でまだ3人目。最終節前日の11月23日に続投が発表されたものの、J3では上位に位置する約3億5,000万円のチーム人件費に見合わない結果だったことで、来2025シーズンは自らの首を賭けた戦いとなる。
奈良クラブは、1991年「都南クラブ」として産声を上げた。関西リーグ(2008-14)、JFL(2015-22)と徐々にステージを上げ、昨2023シーズンからJ3に参戦している。
J3初年度5位という好成績を上げたものの、今2024シーズン途中降格圏に沈んだことで、JFL時代の2021シーズンから指揮を執ったスペイン人のフリアン・マリン・バサロ監督を解任。2019シーズン、J2京都を指揮した中田一三監督を招聘した。
しかし、なかなか勝ち星に恵まれず、第23節アスルクラロ沼津戦から第35節福島ユナイテッド戦まで13戦勝ちなしを記録してしまう。残留を争う他チームも勝ち点を伸ばせなかったことで、辛うじて来季もJ3を戦うことになったが、中田監督にとっては、監督として4年のブランクは大きかったと言わざるを得ない(途中、清水エスパルスでコーチを務めていたとはいえ)。
とにかく接戦に弱く、13敗中10敗が1点差負け。13ゴールを記録したMF岡田優希の決定力頼みのチームだった。フリアン政権時の4バックを捨て、3バックに変更したことである程度失点は減ったものの、残留を決めるのがやっとだった事実を鑑みると、新たな指揮官を迎え入れる可能性は高いだろう。
FC大阪は1996年に創設。大阪府リーグに所属していたアマチュアクラブを母体に、2018年“大阪第3のJクラブ”として法人化され、東大阪市の花園ラグビー場に本拠地とする。2020年にJリーグ百年構想クラブに承認され、翌2021年にはJ3ライセンスが交付された。そして2022年、JFLで2位に入りJ3に昇格する。本格的にJを目指してからJ3に参戦するまでわずか4年というスピード出世ぶりだ。
J3で1年目となる昨2023シーズンは志垣良監督の下11位に終わったものの、失点数はリーグで3位の少なさと、堅い守備が特徴のチームだった。昨季、一度は不交付となったJ2クラブライセンスも、今年9月になって交付され、5位からの昇格を目指す。
今2024シーズン、指揮を執った大嶽直人監督は、志垣前監督が築いた堅守をベースに手堅く勝ち点を稼いだ。総得点「42」はプレーオフ進出チームの中で最低ながらも、総失点「30」は大宮アルディージャと並びリーグ最少だ。
粘り強さは一級品で、スコアレスドローは実に8試合。第4節FC岐阜戦から第7節FC今治戦まで4試合連続スコアレスドローを演じ、2015年のブラウブリッツ秋田以来のJリーグタイ記録に。しかし、第30節FC琉球戦から第37節SC相模原戦まで5勝2敗1引き分け(うち6試合で完封)で乗り切り、プレーオフ進出を決めた。
とにかく「堅実」という言葉がピッタリのチームカラーで、得点も失点も少なく派手さには欠けるが、鹿児島ユナイテッド(2022-23)でも1年目3位、2年目2位という好成績を収めた元日本代表DFでもある大嶽監督に導かれ、今季プレーオフで敗退したとしても、来季以降もJ2昇格のチャンスはあるだろう。
ガイナーレ鳥取は、元日本代表FWにして、日本が初めてW杯出場を決定付けたVゴールを決めたことでも知られる“野人”こと岡野雅行氏が代表取締役ゼネラルマネジャー(GM)を務めていることでも知られている。1億5,000万円程度のチーム人件費でやり繰りし、一度も降格圏に順位を落とすことなく2024シーズンを乗り切った。
“兄貴分”的存在だった、唯一の日本代表経験者であるMF長谷川アーリアジャスールの引退は痛いが、東大サッカー部や関東リーグの東京ユナイテッドでコーチ経験を積み、短期間ながらヴィッセル神戸も率いた元日本代表DFの林健太郎監督が率いる。
第14節SC相模原戦から第18節FC岐阜戦まで6連敗を喫しながらも、中盤戦から終盤戦にかけ2度の3連勝を上げるなど波のあるチームだったが、見方を変えれば、勢いに乗れば手が付けられないポテンシャルを秘めるともいえる。
来2025シーズン続投が決まっている林監督は、まずはリーグワースト2位の総失点「65」をいかに減らすかから着手し、連敗しないチームの構築から始めるべきだろう。
今2024シーズン16位という成績にも関わらず、11月9日に米山篤志監督の来季続投を早々に発表したカマタマーレ讃岐。2017年にS級ライセンスを取得した米山監督は、町田ゼルビアのコーチ(2020-22)を経て、2023シーズンから讃岐の監督に就任したが、1年目も今季も16位と、特筆すべき成績を挙げられずにいる。
元々、地元出身の北野誠監督が、2010年の四国リーグからJ2昇格まで9シーズンにもわたって監督を務めた。北野監督が勇退すると、今度は毎、監督を代える負のスパイラルに陥り、J3でも7シーズン連続で2桁順位に終わった。
チーム人件費はJ3最低レベルとあって、現実的な目標がJ3残留にあることは明らかだ。米山監督の続投も、将来的なJ2昇格を見据えたものではないだろう。チームのトップスコアラーが36歳のベテランMF川西翔太(5ゴール)である事実がそれを証明している。
来季から使用する「甲冑」をコンセプトとした新デザインのユニフォームがお披露目されたが、上位進出のためには、レンタル加入を含めて若い才能を発掘していく必要がありそうだ。
服部年宏監督は、2022-2023シーズンにJ3福島ユナイテッドで監督を務めたものの、1年目11位、2年目15位と、お世辞にも成功とは言い難い成績に終わった。しかし今2024シーズンは、2度にわたって日本代表を率いて2度のW杯を経験した岡田武史オーナーの下、FC今治の監督として捲土重来を期して臨み、就任1年目でJ2昇格という大仕事を成し遂げた。
開幕4連勝後に2連敗2連続引き分け、第11節大宮アルディージャ戦から第14節福島ユナイテッド戦まで4連敗と序盤戦は安定しない戦いが続いたが、夏場に一気に調子を上げ、第17節SC相模原戦から第28節松本山雅戦まで12戦負けなし(9勝3引き分け)。第28節に首位に立った後はその座を守り続け、カターレ富山の急追を凌ぎ切り、2014年に岡田氏がオーナーに就任して10年で悲願のJ2昇格を果たした。
監督業を始めた福島時代は理想と現実の狭間で苦しんでいる印象だったが、今治では19ゴールを決め得点王を獲得したブラジル人FWマルクス・ヴィニシウスの決定力を最大限に生かしたサッカーで他を圧倒。それなりの“駒”を与えれば結果を出す指揮官であることを自ら証明し、福島時代の汚名をそそいでみせた。
2023年にオープンした今治里山スタジアム(現アシックス里山スタジアム)は、収容人数約5,000人にも関わらず平均3,700人もの観衆を集め、今治の地にしっかりと根を下ろした。同スタジアムはJ1基準である、1万5,000席まで増築される計画もあるという。
終盤までプレーオフ進出を争ったものの、結果的に7位に終わったギラヴァンツ北九州。2016シーズンJ2最下位でJ3に降格すると、J2とJ3を行ったり来たりの“エレベータークラブ”となってしまった感がある。2023シーズンはJ3最下位となるが、JFL優勝がアマチュアのHonda FCで、2位のブリオベッカ浦安もJ3クラブライセンスを申請していなかったため“命拾い”した形だ。
今2024シーズンから指揮を執る増本浩平監督は、2023年にS級ライセンスを取ったばかりのいわば“新人監督”だ。湘南ベルマーレユース、東京農業大学を経て、JFLのSC鳥取(2007年「ガイナーレ鳥取」に改称)に入団したものの、わずか3年で現役生活にピリオドを打ち指導者に転身。横河武蔵野や松本山雅でコーチ経験を積み、2023シーズンに鳥取の暫定監督として就任時18位だったチームを6位まで引き上げた手腕を買われ、北九州の監督に抜擢された。
昨シーズンは運良くJFL降格を免れたものの、落ちるところまで落ちたチームを浮上させただけではなく、セレッソ大阪のユース育ちながら8度の移籍を繰り返してきた33歳のFW永井龍に背番号10を託し、チーム総得点の3分の1の14ゴールを記録するチームのエースとして再生させた増本監督。
チーム在籍4年目の主将MF井澤春輝を中心に夏場に快進撃を見せたが、終盤の息切れでプレーオフにはあと一歩届かなかった。しかし、増本監督の手腕は称賛に値するもので、まだ2試合を残しての続投発表(11月15日)にも納得だ。
テゲバジャーロ宮崎は、2014シーズンから九州リーグに参戦、2017年に石崎信弘監督の下でJFL昇格を成し遂げ、2021シーズンからJ3に戦いの場を移している。同シーズンはJFL時の倉石圭二監督がS級ライセンスを所持していなかったため、内藤就行監督が就任。いきなり3位という好成績を挙げるが、なぜか監督を交代させ、その後毎年監督交代を繰り返すことになる。
今2024シーズン就任した大熊裕司監督。リーグ戦初勝利まで実に8戦を要し、中盤戦まで下位を抜け出せず、終盤の追い上げで何とかJFL降格は免れたものの、15位に終わった宮崎。最終節翌日に発表された続投発表のニュースには、サポーターも納得できないだろう。
12ゴールを記録したFW橋本啓吾と、夏の移籍で獲得し8ゴールを記録したFW武颯を中心とした攻撃陣は魅力的だった。しかし、第19節FC大阪戦から第24節長野パルセイロ戦まで6連敗、第25節いわてグルージャ盛岡戦から第28節FC琉球戦まで4連勝と、安定感のなさが目立ち、コンスタントに実力を発揮できないままシーズンを終えてしまった印象だ。
FC琉球は、2003年に沖縄県初のJ参入を目指し創設され、その後解散することになる沖縄かりゆしFCを退団した選手によって結成された。初代監督は沖縄出身の日系二世にして、長く読売クラブで活躍した与那城ジョージ監督だ。JFL時代にもヴェルディ川崎などで活躍した元日本代表DF石川康氏をゼネラルマネージャー(GM)に任命したり、元日本代表のフィリップ・トルシエ監督を総監督に抜擢したり、周囲を驚かせる人事を行ってきた。
2013シーズンのJFLで11位ながらも、2014シーズンから新たに発足したJ3参戦を認められた「J3オリジナル12」の1つ。2022シーズンに4年間守り抜いてきたJ2の座から滑り落ち、昨2023シーズンも17位、今2024シーズン14位と精彩を欠いている。また2021シーズン以降、監督の途中解任を繰り返している。
今2024シーズン指揮を執った金鍾成監督はシーズンを完走し一時は昇格圏にも浮上した。しかし、まだ3試合を残しわずかながら昇格プレーオフ進出の可能性がある11月5日に、今季限りでの退任が発表された。直後の第36節大宮アルディージャ戦でのドロー(1-1)で、昇格の望みが完全に断たれた。
シーズンを通して【3-4-3】か【3-5-2】のフォーメーションを敷き、攻撃的サッカーを目指したものの接戦に弱く、下位チーム相手に勝ち点を取りこぼしたことが最後に響いた。
クラブは今季開幕前、“面白法人”を自称する鎌倉市が本社のIT企業・株式会社カヤックが筆頭株主となる。スポーツビジネスに参入した同社は、沖縄に子会社の株式会社アルファドライブを設立するなど、その本気度が伝わってくる。
来2025シーズンの新監督として、5月にS級ライセンスを取得したばかりで、浦和ユースの監督を務めていた平川忠亮氏の就任が内定している。今回の監督交代劇もクラブ改革の一環と思われ、奮闘していた金監督にとっては気の毒だが、新オーナーがどういったクラブ運営をしていくのか、来季以降のチーム編成にも注目したい。
プレーオフ進出を決めた3位のカターレ富山と4位の松本山雅には、準決勝において「引き分けでも決勝進出」というアドバンテージがある。しかし、タイムアップの笛が鳴るまで何が起きるか分からないのがプレーオフだ。
一方で、昇格クラブやJFL(日本フットボールリーグ)降格クラブも含め、各クラブが来2025シーズンへ向けて動き出している。プロ初指導となるルーキー監督から、指導歴10年を超える大ベテラン監督まで、多士済々の指揮官が揃うJ3。ここでは監督人事にフォーカスし、既に始まっているシーズンオフの動きについて深堀りしたい。
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ヴァンラーレ八戸:石崎信弘監督
評価:★★★☆☆/続投可能性:100%昨2023シーズンにヴァンラーレ八戸に就任しチームをクラブ史上最高の7位に押し上げると、今2024シーズンも最終節まで昇格プレーオフ争いを展開し、11位という成績を収めた石崎信弘監督。1995年、当時JFLのNEC山形(翌年から「モンテディオ山形」に改称)で監督業をスタートさせ、指揮したクラブは実にのべ12。試合数も通算800試合にも上る、Jリーグの生き字引だ。
2013年には、中国超級(1部)杭州緑城(浙江)で当時の岡田武史監督に請われる形でユースチームの監督も務めた。その練習は、選手個人のフィジカルとテクニックを徹底的に磨き上げる基礎的なメニューで、川崎フロンターレ時代に指導を受けた中村憲剛氏に「キツかったが、あの練習が僕の土台となっている」と言わしめるほどだ。
八戸は、全Jクラブ最低クラスの1億2,000万円程度のチーム人件費。ホームスタジアムのプライフーズスタジアムも、サッカー専用だが収容人数は約5,000人と、こぢんまりとしたものだ。
2019シーズンからJ3に参戦した後は、毎年監督をすげ替えてきたが、2シーズン目を完走した時点で、クラブ最長記録を更新している石崎監督。
この低予算クラブで結果を出したことで、66歳となった現在でも存在感を示している。戦術家というよりモチベーター色が強く情にも厚いことで、同監督を慕い「一緒に戦いたい」と移籍してくる選手がいるほどだ。
最終節前日の11月23日に続投が発表された。来2025シーズンも引き続きJ2昇格を目指すことになるが、“その日”のために、スタジアム拡張などハード面の充実は急務だ。
いわてグルージャ盛岡:星川敬監督
評価:★☆☆☆☆/続投可能性:100%開幕から低空飛行を続け、最終節を待たずにJFL降格となってしまったいわてグルージャ盛岡。総得点「27」も総失点「80」もリーグワーストで、得失点差「-53」では言い訳のしようもないだろう。
チーム人件費はJ3中位の約2億5,000万円だが、トップスコアラーにして背番号10を与えられたナイジェリア出身のMFオタボー・ケネスは5ゴールに終わった。22歳の彼に攻撃陣を引っ張る役割を与えるには、やや若すぎた印象だ。
星川敬監督は、現役時代、読売ユースから1995年にヴェルディ川崎に入団。当時はカズ(三浦知良)、ラモス瑠偉、武田修宏らが集うスター集団で、1試合も出場することなく2年で引退。指導者の道を進むことになるが、2009年初監督を務めた女子サッカーの日テレベレーザでは「クラブの秩序と統制を乱す」行為をしたとして2010年7月に解任された。見込みのある若手選手に海外移籍を勧めたというのが、その真相のようだ。
その直後の11月、同じく女子のINAC神戸レオネッサの監督に就任。
後に2011年のドイツ女子W杯を制したなでしこジャパンの主将としてバロンドーラ―(FIFA世界最優秀選手)となるMF澤穂希やFW川澄奈穂美、FW大野忍などを擁し、なでしこリーグと皇后杯の2年連続2冠を達成し、黄金時代をもたらす。
INAC神戸の監督を勇退した後は、イングランド、ポーランド、スロベニア、ラトビアで監督やコーチを務めた。帰国後ポゼッションを重視する手腕が買われ、2022シーズンからY.S.C.C.横浜の監督に就任。2023シーズン途中で解任されるが、2024シーズン盛岡で、中三川哲治監督、神野卓哉監督と2度の監督更迭の末、8月に指揮官に指名された。
しかし、第13節以降一度も最下位脱出がならないまま、第37節奈良クラブ戦での敗戦(1-2)でJFL降格が決まってしまった盛岡。GK大久保択生やDF西大伍、MF水野晃樹、FW都倉賢といったJ1経験のあるベテランも多く在籍していたが、就任当時すでに崩壊状態にあったチームを救うことはできなかった。
その手腕を発揮する間もないままシーズンが終わってしまった感があり、続投というフロントの決断にも納得はできる。しかしながら、毎日のように選手の契約満了のニュースが発信されている現状を見ると、来季2位以上を目指すことになるJFLを戦えるだけの戦力を揃えることができるのか。クラブの顔だったオーナー兼社長の秋田豊氏が退任することが決まっている中、フロントの底力が問われている。
福島ユナイテッド:寺田周平監督
評価:★★★★☆/続投可能性:100%11月17日、ホームでのアスルクラロ沼津戦(とうほう・みんなのスタジアム)を2-1で制し、J2昇格プレーオフ進出をほぼ確定させた翌日の18日、寺田周平監督の続投を発表した福島ユナイテッド。
現役時代は身長189cmを誇る長身を生かし、川崎フロンターレのDFとして活躍し、身長183cmの伊藤宏樹、187cmの箕輪義信と組んだ3バックは「川崎山脈」と呼ばれた。
現在49歳の寺田監督は引退後、川崎のコーチを務め(2020-23)、今季から福島の監督に就任。初の監督業への挑戦となったが、J3の中でも下位の人件費のチームを率い、攻撃的サッカーを志向しながら結果も出したことで、鬼木達監督が退任した川崎の次期監督候補にも名前が挙がった。
続投のニュースには、サポーターも一安心したことだろう。
福島は当然ながらJ2昇格を目指してプレーオフに挑むのだが、例え敗退して来季もJ3を戦うことになったとしても、ポジティブに捉えることもできる。長期的視点に立てば、J2に昇格して守備に追われるよりも、寺田監督が理想とする攻撃的なチームを構築するにあたっては却って良いのではないか。
16ゴールを記録した生え抜きFW塩浜遼や、背番号10を背負うFW森晃太、滝川二高時代に2010年の全国高校サッカーで得点王に輝いたFW樋口寛規を軸に、川崎からのレンタル選手の19歳MF大関友翔、20歳の左サイドバックDF松長根悠仁らが噛み合うチーム構成。好成績に繋げたが、沼津戦でもゴールを決めた大関と松長の去就が、来2025シーズンの福島の命運を握っている。
大宮アルディージャ:長澤徹監督
評価:★★★★★/続投可能性:90%まさに「圧倒」といえる強さだった大宮アルディージャ。開幕10戦を7勝3引き分けで第5節に首位に立つと、その座を一度も譲ることなく独走。シーズンを通して2敗しかせずに、2位のFC今治に勝ち点差15を付け、他チームのサポーターに「なぜこのチームがJ3に降格したのか?」と感じさせるほどの昇格劇だった。
リーグ最少タイの総失点「32」という守備の固さはもちろん、リーグ最多の総得点が「72」でありながら、トップスコアラーはFW杉本健勇の10得点。2桁得点は彼のみで、どこからでも得点できるのがチームの強みだ。長澤徹監督は、かつてクラブ最高成績でJ1昇格プレーオフに導いたファジアーノ岡山時代(2015-18)と同様、選手にはハードワークを求め、堅実なチームを作り上げた。
Jリーグ初となる外資系企業がオーナーとなり、「レッドブル」主導で改革が加えられていくことになる大宮。早速、チームの呼称も「RB大宮アルディージャ」となり、エンブレムも変更され、長らくマスコットだったリスの「アルディ」も姿を消した。
クラブとしても生まれ変わったことで、J2を戦う来シーズン、他クラブは警戒心を持って挑んでくるだろう。
今季7ゴールを記録したMFアルトゥール・シルバ、さらに夏の移籍で加入したFWファビアン・ゴンザレスやMFオリオラ・サンデーという強烈な外国人選手を揃えているが、守備陣に目を移すと、19歳のユース育ちのDF市原吏音や、明治大出身の大卒ルーキーDF村上陽介が中心となっており、経験値の観点でやや不安を残す。中盤を司るMF小島幹敏やMF泉柊椰もJ2でどれだけやれるかも未知数だ。テクニカルダイレクター(TD)に就任した元ドイツ代表FWマリオ・ゴメス氏がどんな補強をするかに注目が集まる。
Y.S.C.C.横浜:倉貫一毅監督
評価:★☆☆☆☆/続投可能性:30%Jリーグでは珍しく、NPO法人が運営しているクラブであり、そのルーツは1964年にまでさかのぼるY.S.C.C.横浜。1986年に現在の呼称に改称。設立当初は育成年代のクラブとして存在し、後になってトップチームが設立され、神奈川県リーグ、JFLを経て、2014シーズンからJ3入りした異色のクラブだ。
NPO法人ゆえチーム人件費はJ最低で、大型補強はおろかアマチュア選手も混在。8位に食い込んだ2021シーズン以外は2桁順位が続いたが、ニッパツ三ツ沢競技場をホームに“横浜第3のクラブ”として存在感を示してきた。しかし今2024シーズン、ついに降格圏内の19位に沈み、12月1日と12月7日、JFL2位の高知ユナイテッドを相手にホーム&アウェイで開催されるJ史上初のJ3・JFL入れ替え戦に臨む。
JFL降格ならもちろん、J3に残留したとしても、FC琉球時代(2022-23)にも結果を残せなかった倉貫一毅監督を続投させるメリットは見当たらない。先立つもののないクラブであるため、残留に成功すれば続投という線もあり得るが、降格となれば今季限りでの退任が濃厚だろう。
SC相模原:シュタルフ悠紀リヒャルト監督
評価:★★☆☆☆/続投可能性:30%元日本代表MF望月重良氏が中心となり、2008年2月創設されたSC相模原。神奈川県リーグ、関東リーグをそれぞれ2年で駆け抜け、2013シーズンにはJFL参入。
これも1年で突破し、2014シーズンにはJ3にまで到達した。
2020シーズン三浦文丈監督の下で2位につけ2021シーズンをJ2で戦うことになり、時を同じくしてDeNAが株式19%を取得しトップスポンサーに。チームは1年でJ3に降格してしまったが、経営面では安定を手にした。しかしそれが成績に反映されていないのが現実だ。2021シーズン途中に三浦監督を更迭し、高木琢也監督を招聘。翌2022シーズンも高木監督を解任し、薩川了洋監督を途中就任させた。
そして2023シーズン、「3年計画」と銘打ち人気解説者だった元日本代表MF戸田和幸氏を監督に抜擢。しかし18位という成績に終わり、翌2024シーズン途中17試合を消化し6勝4敗7引き分けの9位というタイミングで突然解雇する。スポーツダイレクター(SD)平野孝氏は「総合的な判断」としたが、この不可解な人事には様々な憶測が流れた。
平野氏と言えば、クラブ創設者の望月氏と清水商業高校の先輩後輩にあたる。この2人と現U-23日本代表監督の大岩剛氏は、名古屋グランパス所属時に、怠慢な練習態度や若手選手へのイジメなど、規律を乱したとして揃って解雇されるという“事件”を引き起こしている。大岩氏はジュビロ磐田に、望月氏と平野氏は京都サンガへの移籍を余儀なくされた。
望月氏と平野氏の“悪友”ともいえる関係が今でも残り、平野氏がオーナー企業の意向を受け戸田監督追放を画策したというのが“定説”となっているが、こんな経緯があったことで、後任選びが難航したことは想像に難くない。恐らく何人かの候補に断られた上で、Y.S.C.C.横浜(2019-21)でも長野パルセイロ(2022-23)でも結果を出せなかったシュタルフ悠紀リヒャルト監督に落ち着いた。
火中の栗を拾った形のシュタルフ監督は、外国人選手もいない中、経験不足のチームを率い中位をキープ。まずはミッションをこなしてみせたが、DeNAがバックについていながら、このチームでJ2昇格が狙えるかと問われれば疑問だ。相模原が飛躍するためには、監督や選手どうこうではなく、まずはフロント改革から着手しなければならないだろう。
アスルクラロ沼津:中山雅史監督
評価:★★★☆☆/続投可能性:90%現役最後に所属したアスルクラロ沼津で2年目の指揮を執る、日本サッカー界のレジェンド中山雅史監督。沼津は開幕10戦で6勝2敗2引き分けの滑り出しで、一時は2位をひた走っていたものの、終盤戦の大ブレーキでプレーオフ進出を逃した。
しかし、就任1年目13位だったチームを、終盤戦まで昇格争いを展開(最終順位は10位)するまでに引き上げた中山監督と、ジュビロ磐田時代の後輩でもある鈴木秀人ヘッドコーチによるチーム改革が順調に進んでいることを証明する2024シーズンでもあった。
清水エスパルス、磐田、藤枝MYFCに続く「静岡第4のJクラブ」として2014シーズンにJFL入りし、2017シーズンにJ3に昇格。いきなり3位の好成績を残したものの、その後は低迷期に入り2桁順位が続いていた。
今季プレーオフ進出は確実かと思われていたが、第25節FC今治戦から第28節FC大阪戦での4連敗で勢いが削がれると徐々に順位を落としていき、第37節福島ユナイテッドとの大一番で逆転負け。7位以下が確定してしまう。
平均年齢25歳と若いチームであることで、昇格争いのプレッシャーにも敗れてしまった印象だが、別の視点から見れば、まだまだ伸びしろを感じさせるチームでもある。そして何よりも、指揮官はサッカーに興味のない人でも知っている“ゴン中山”だ。その事実だけで大きな宣伝効果もあり、沼津にJクラブがあることを知ってもらえることに繋がっている。
【4-1-2-3】のフォーメーションで攻撃的スタイルを標榜し、中山監督の後輩でもある筑波大卒のルーキーFW和田育がチーム得点王(11得点)となるまでに成長したことで、来2025シーズン以降も期待が持てる陣容となっている。
長野パルセイロ:高木理己監督
評価:★★☆☆☆/続投可能性:50%1990年「長野エルザ」の名で発足し、2007年に「AC長野パルセイロ」と改称。2011年にJFLに参戦し、2014シーズンからJ3に参戦している同クラブ。いきなり2位の好成績を挙げその後も1桁順位が続いたが、昨2023シーズン14位、今2024シーズンはついに18位と、ギリギリで残留を決めた。
昨シーズン途中から就任した高木理己監督は、市立船橋高校から帝京大に進むと、大学卒業と同時に選手としてのキャリアに終止符を打ち、指導者の道を進んだ“プロ監督”だ。京都サンガ(2011-13)、ガイナーレ鳥取(2014-15)、湘南ベルマーレ(2016)でコーチ経験を積み、2021シーズンに鳥取、2023シーズンにはFC今治の監督を歴任。今治の監督解任後すぐに、長野からのオファーを受け、3クラブ目の監督に就任した。
今シーズンは、序盤戦から中盤戦にかけては上位も伺う位置にいたチームだったが夏場に急失速。第37節のギラヴァンツ北九州戦の1-1ドローでJ3残留を決めたものの、14試合勝ちなしでのフィニッシュでは、その能力に「?」が付けられてもおかしくないだろう。
プロ入り後の総得点が「10」だったFW浮田健誠が13ゴールを記録し、27歳にしてブレークを果たしたものの、上位カテゴリーのクラブから誘いを受、“個人昇格”する可能性もある。もしそうなれば、チームは一から作り直しだ。来2025シーズン、その中心に高木監督がいる可能性は低いだろう。
松本山雅:霜田正浩監督
評価:★★★★★☆/続投可能性:90%わずか2シーズンだったが、J1を経験した松本山雅(2015、2019)。2019シーズン17位でJ2に降格すると、坂道を転げ落ちるように2021シーズンにはJ2最下位となりJ3に降格。以降、2022シーズン4位、2023シーズン9位の成績に終わり、8年に渡り監督を務めた反町康治監督(現清水エスパルスGM)が勇退すると、その後、布啓一郎監督(2020)、柴田峡監督(2020-21)、名波浩監督(2021-22)と指揮官交代が続いた。
昨2023シーズンに就任した日本サッカー協会(JFA)元技術委員長の霜田正浩監督も、同シーズン9位という結果に終わり、また更迭かと思われたがフロントは続投を決断。この選択が奏功し、今2024シーズン4位でプレーオフ進出を果たした。
霜田監督は27歳にして指導者に転向し、主に育成年代の指導には定評があったが、2009年原博実氏からの熱烈な誘いによってJFA入り。技術委員として、日本代表監督にアルベルト・ザッケローニ氏招聘を実現させた立役者となり、ザッケローニ監督の下では対戦相手のスカウティングに従事。2013年にはU-20日本代表監督も務め、2014ブラジルW杯を最後に退任したザッケローニ監督の後任としてハビエル・アギーレ氏招聘も成功させた。
しかし2016年にJFA会長に田嶋幸三氏が就任すると、技術委員長から「ナショナルチームダイレクター」なる降格人事を突きつけられた霜田監督。JFAを後にすると、レノファ山口(2018-20)、ベトナムのサイゴンFC(2021)、大宮アルディージャ(2021/22)の監督として現場復帰。いずれも求められる結果は出せなかったが、捲土重来を期して臨んだ松本でプレーオフ進出を果たし、汚名を返上した。
J3随一の人気を誇り、平均でも6,000人強、長野パルセイロとの「信州ダービー」となればホームスタジアムのサンプロアルウィンに1万4,000人以上の観衆を集める松本。外国人がスペイン人GKのビクトルのみという準国産チームでありながら、13ゴールを記録したFW浅川隼人、MF村越凱光を中心に、中盤にはMF山本康裕、最後尾にはDF高橋祥平といったベテランを配し、連敗が1度しかないバランスの取れたチームを作り上げ、霜田監督自らの手腕を証明してみせた。
FC岐阜:天野賢一監督
評価:★★★☆☆/続投可能性:90%11月16日のホーム最終戦(岐阜メモリアルセンター長良川競技場)と、第37節大宮アルディージャ戦(2-2)で、ゴール裏とバックスタンドも覆うビッグフラッグでチームを鼓舞したことで話題を呼んだFC岐阜。惜しくもドローに終わり、他会場の結果によりプレーオフ進出の望みが断たれたが、最後までサポーターを楽しませた2024シーズンだった。
天野賢一監督は、古河一高(古河第一高校)時代全国高校サッカーに出場し、筑波大に進学。しかしプロへの道を選ばずに院進し、学生コーチとして指導者の第一歩を歩み出す。2000年にFC東京入りして育成年代の指導を担当し、2004年に新設されたFC東京U-15むさしの初代監督に就任した。
2008年に浦和レッズに移籍し、ユースのコーチに就任。2011年にはトップチームのコーチを務めた。その後、流通経済大学でコーチを務めた後、2019年にギラヴァンツ北九州のヘッドコーチに就任。小林伸二監督兼スポーツダイレクターの右腕としてチームをJ2に導く一助となり、2021年にはS級ライセンスを取得。2022年にはJ3に降格したチームの監督に昇格したが13位に終わり、北九州を去っている。
翌2023シーズンからFC岐阜のヘッドコーチに就任し、辞任した上野優作監督の後を継いで監督に就任した天野監督。同シーズン8位にまで持ち直し、今2024シーズンは昇格争いを演じるまでに押し上げた。Jリーグはもちろん、JFL、プロ化前のJSL(日本サッカーリーグ)、海外クラブも含め、選手経験のないままJクラブの監督を務めている稀有な存在だ。
地域リーグやJFLでのプレー経験もあり、19ゴールで得点王を獲得したFW藤岡浩介の決定力を生かし、リーグ2位の17ゴールを記録。チーム総得点「64」は大宮アルディージャに次ぐリーグ2位タイの数字だ。しかしながら守備にやや難があり、第26節松本山雅戦から第29節北九州戦までの4連敗と、2度の3連敗が最後に響いてしまった格好だ。
来2025シーズン、再度昇格争いに加わるためには守備面の改善が急務だ。終盤戦の快進撃には目を見張るものがあり、2位で昇格を決めたFC今治を4-1で粉砕し、プレーオフ進出を決めたFC大阪相手にも2-0で完勝している。2020シーズンからJ3を戦っている岐阜。一時は大きく観客動員を減らしたが、その数も戻りつつある。サポーターを魅了する攻撃サッカーで、来季も上位戦線を賑わせそうだ。
カターレ富山:小田切道治監督
評価:★★★★☆/続投可能性:90%カターレ富山は、2007年に北陸電力サッカー部アローズ北陸とYKK APサッカー部が合併して誕生した。小田切道治監督は、その一方のYKK APに所属(2006-07)し、合併を体験したプレーヤーの1人だった。
強豪の富山第一高校から、当時J1の京都パープルサンガ(現京都サンガFC)に入団したものの、1試合も出場することなく1999年にJ2ヴァンフォーレ甲府に移籍。翌年にはJFLのジャトコに移り4シーズンを過ごした後、2004年に地元であるYKK APに加入。キャリアの終盤にはチーム合併やJ2昇格を経験するなど、浮き沈みの激しい現役生活だった小田切監督。
引退後すぐ、富山のジュニアユースのコーチから指導者キャリアをスタートさせ、2022シーズン途中解任された石﨑信弘監督の後を継ぐ形でトップチームの監督に就任する。当時、J3で8年目を過ごしていたが、2022シーズンは6位、2023シーズンは3位、そして今2024シーズンも3位でフィニッシュし、初開催のJ2昇格プレーオフの切符を手にした。
富山のターニングポイントは、2021年に社長として招聘した左伴繁雄氏の就任だ。同氏は45歳の若さで横浜F・マリノスの社長に就任してJ1連覇を達成すると、2008年に湘南ベルマーレから常務取締役のオファーを受け、これを機に日産自動車を退社し「サッカークラブのプロ経営者」の道を進む。2015年に湘南を退職したタイミングで、清水エスパルスから誘いを受け社長に就任。チームは初のJ2降格を経験するが、“昇格請負人”の小林伸二監督を招聘して1年でのJ1復帰に繋げた。
2020年1月に清水の社長を退任した後は、プロバスケットボールBリーグ「ベルテックス静岡」のスーパーバイザーを務めていたが、2021年カターレ富山に請われ再びJの舞台に戻ってきた左伴氏。日本サッカー界の名物社長である。赴任する先々で結果を残すだけではなく、指導者や選手、サポーターからも愛されるキャラクターで、特に監督を選ぶ目には定評がある。小田切監督も、その目にかなった1人だ。
8ゴールを記録した地元出身のFW碓井聖生、7ゴールのMF安光将作を中心に、10番を背負うブラジル人FWマテウス・レイリアが絡む攻撃陣と、ベテランDF脇本晃成と今瀬淳也が最終ラインを締めている。他にも将来有望な若手も控えており、小田切監督もローテーションさせながら試合経験を積ませ、誰が先発でも遜色ないチームに変貌を遂げた。
11年ぶりのJ2へリーチをかけた富山だが、その裏にはチーム強化の才がある社長と、“ミスター・カターレ”ともいえる指揮官の存在があるのだ。
ツエーゲン金沢:伊藤彰監督
評価:★★☆☆☆/続投可能性:100%昨2023シーズンJ2最下位に終わり、今年開場した新本拠地の金沢ゴーゴーカレースタジアムをJ3で迎えることになってしまったツエーゲン金沢。
新指揮官として、大宮アルディージャ(2017)、ヴァンフォーレ甲府(2019-21)、ジュビロ磐田(2022)、ベガルタ仙台(2022-23)と豊富な指導経験を持つ伊藤彰監督にチーム再建を託したものの、夏場以降に失速し、早々に昇格争いから脱落。結局、13勝14敗11引き分けの12位に終わった。
夏の移籍で加わったFW田口裕也や、シャドーストライカーとして覚醒した20歳のMF梶浦勇輝、ベテランFW杉浦恭平、ブラジル人FWマリソンの攻撃陣を生かしきれなかった印象だ。
金沢は元来、監督をコロコロ変えるクラブではなく、2014シーズンのJ3昇格以来、伊藤監督でまだ3人目。最終節前日の11月23日に続投が発表されたものの、J3では上位に位置する約3億5,000万円のチーム人件費に見合わない結果だったことで、来2025シーズンは自らの首を賭けた戦いとなる。
奈良クラブ:中田一三監督
評価:★★☆☆☆/続投可能性:50%奈良クラブは、1991年「都南クラブ」として産声を上げた。関西リーグ(2008-14)、JFL(2015-22)と徐々にステージを上げ、昨2023シーズンからJ3に参戦している。
J3初年度5位という好成績を上げたものの、今2024シーズン途中降格圏に沈んだことで、JFL時代の2021シーズンから指揮を執ったスペイン人のフリアン・マリン・バサロ監督を解任。2019シーズン、J2京都を指揮した中田一三監督を招聘した。
しかし、なかなか勝ち星に恵まれず、第23節アスルクラロ沼津戦から第35節福島ユナイテッド戦まで13戦勝ちなしを記録してしまう。残留を争う他チームも勝ち点を伸ばせなかったことで、辛うじて来季もJ3を戦うことになったが、中田監督にとっては、監督として4年のブランクは大きかったと言わざるを得ない(途中、清水エスパルスでコーチを務めていたとはいえ)。
とにかく接戦に弱く、13敗中10敗が1点差負け。13ゴールを記録したMF岡田優希の決定力頼みのチームだった。フリアン政権時の4バックを捨て、3バックに変更したことである程度失点は減ったものの、残留を決めるのがやっとだった事実を鑑みると、新たな指揮官を迎え入れる可能性は高いだろう。
FC大阪:大嶽直人監督
評価:★★★★☆/続投可能性:90%FC大阪は1996年に創設。大阪府リーグに所属していたアマチュアクラブを母体に、2018年“大阪第3のJクラブ”として法人化され、東大阪市の花園ラグビー場に本拠地とする。2020年にJリーグ百年構想クラブに承認され、翌2021年にはJ3ライセンスが交付された。そして2022年、JFLで2位に入りJ3に昇格する。本格的にJを目指してからJ3に参戦するまでわずか4年というスピード出世ぶりだ。
J3で1年目となる昨2023シーズンは志垣良監督の下11位に終わったものの、失点数はリーグで3位の少なさと、堅い守備が特徴のチームだった。昨季、一度は不交付となったJ2クラブライセンスも、今年9月になって交付され、5位からの昇格を目指す。
今2024シーズン、指揮を執った大嶽直人監督は、志垣前監督が築いた堅守をベースに手堅く勝ち点を稼いだ。総得点「42」はプレーオフ進出チームの中で最低ながらも、総失点「30」は大宮アルディージャと並びリーグ最少だ。
粘り強さは一級品で、スコアレスドローは実に8試合。第4節FC岐阜戦から第7節FC今治戦まで4試合連続スコアレスドローを演じ、2015年のブラウブリッツ秋田以来のJリーグタイ記録に。しかし、第30節FC琉球戦から第37節SC相模原戦まで5勝2敗1引き分け(うち6試合で完封)で乗り切り、プレーオフ進出を決めた。
とにかく「堅実」という言葉がピッタリのチームカラーで、得点も失点も少なく派手さには欠けるが、鹿児島ユナイテッド(2022-23)でも1年目3位、2年目2位という好成績を収めた元日本代表DFでもある大嶽監督に導かれ、今季プレーオフで敗退したとしても、来季以降もJ2昇格のチャンスはあるだろう。
ガイナーレ鳥取:林健太郎監督
評価:★★★☆☆/続投可能性:100%ガイナーレ鳥取は、元日本代表FWにして、日本が初めてW杯出場を決定付けたVゴールを決めたことでも知られる“野人”こと岡野雅行氏が代表取締役ゼネラルマネジャー(GM)を務めていることでも知られている。1億5,000万円程度のチーム人件費でやり繰りし、一度も降格圏に順位を落とすことなく2024シーズンを乗り切った。
“兄貴分”的存在だった、唯一の日本代表経験者であるMF長谷川アーリアジャスールの引退は痛いが、東大サッカー部や関東リーグの東京ユナイテッドでコーチ経験を積み、短期間ながらヴィッセル神戸も率いた元日本代表DFの林健太郎監督が率いる。
第14節SC相模原戦から第18節FC岐阜戦まで6連敗を喫しながらも、中盤戦から終盤戦にかけ2度の3連勝を上げるなど波のあるチームだったが、見方を変えれば、勢いに乗れば手が付けられないポテンシャルを秘めるともいえる。
来2025シーズン続投が決まっている林監督は、まずはリーグワースト2位の総失点「65」をいかに減らすかから着手し、連敗しないチームの構築から始めるべきだろう。
カマタマーレ讃岐:米山篤志監督
評価:★★☆☆☆/続投可能性:100%今2024シーズン16位という成績にも関わらず、11月9日に米山篤志監督の来季続投を早々に発表したカマタマーレ讃岐。2017年にS級ライセンスを取得した米山監督は、町田ゼルビアのコーチ(2020-22)を経て、2023シーズンから讃岐の監督に就任したが、1年目も今季も16位と、特筆すべき成績を挙げられずにいる。
元々、地元出身の北野誠監督が、2010年の四国リーグからJ2昇格まで9シーズンにもわたって監督を務めた。北野監督が勇退すると、今度は毎、監督を代える負のスパイラルに陥り、J3でも7シーズン連続で2桁順位に終わった。
チーム人件費はJ3最低レベルとあって、現実的な目標がJ3残留にあることは明らかだ。米山監督の続投も、将来的なJ2昇格を見据えたものではないだろう。チームのトップスコアラーが36歳のベテランMF川西翔太(5ゴール)である事実がそれを証明している。
来季から使用する「甲冑」をコンセプトとした新デザインのユニフォームがお披露目されたが、上位進出のためには、レンタル加入を含めて若い才能を発掘していく必要がありそうだ。
FC今治:服部年宏監督
評価:★★★★★/続投可能性:90%服部年宏監督は、2022-2023シーズンにJ3福島ユナイテッドで監督を務めたものの、1年目11位、2年目15位と、お世辞にも成功とは言い難い成績に終わった。しかし今2024シーズンは、2度にわたって日本代表を率いて2度のW杯を経験した岡田武史オーナーの下、FC今治の監督として捲土重来を期して臨み、就任1年目でJ2昇格という大仕事を成し遂げた。
開幕4連勝後に2連敗2連続引き分け、第11節大宮アルディージャ戦から第14節福島ユナイテッド戦まで4連敗と序盤戦は安定しない戦いが続いたが、夏場に一気に調子を上げ、第17節SC相模原戦から第28節松本山雅戦まで12戦負けなし(9勝3引き分け)。第28節に首位に立った後はその座を守り続け、カターレ富山の急追を凌ぎ切り、2014年に岡田氏がオーナーに就任して10年で悲願のJ2昇格を果たした。
監督業を始めた福島時代は理想と現実の狭間で苦しんでいる印象だったが、今治では19ゴールを決め得点王を獲得したブラジル人FWマルクス・ヴィニシウスの決定力を最大限に生かしたサッカーで他を圧倒。それなりの“駒”を与えれば結果を出す指揮官であることを自ら証明し、福島時代の汚名をそそいでみせた。
2023年にオープンした今治里山スタジアム(現アシックス里山スタジアム)は、収容人数約5,000人にも関わらず平均3,700人もの観衆を集め、今治の地にしっかりと根を下ろした。同スタジアムはJ1基準である、1万5,000席まで増築される計画もあるという。
ギラヴァンツ北九州:増本浩平監督
評価:★★★☆☆/続投可能性:100%終盤までプレーオフ進出を争ったものの、結果的に7位に終わったギラヴァンツ北九州。2016シーズンJ2最下位でJ3に降格すると、J2とJ3を行ったり来たりの“エレベータークラブ”となってしまった感がある。2023シーズンはJ3最下位となるが、JFL優勝がアマチュアのHonda FCで、2位のブリオベッカ浦安もJ3クラブライセンスを申請していなかったため“命拾い”した形だ。
今2024シーズンから指揮を執る増本浩平監督は、2023年にS級ライセンスを取ったばかりのいわば“新人監督”だ。湘南ベルマーレユース、東京農業大学を経て、JFLのSC鳥取(2007年「ガイナーレ鳥取」に改称)に入団したものの、わずか3年で現役生活にピリオドを打ち指導者に転身。横河武蔵野や松本山雅でコーチ経験を積み、2023シーズンに鳥取の暫定監督として就任時18位だったチームを6位まで引き上げた手腕を買われ、北九州の監督に抜擢された。
昨シーズンは運良くJFL降格を免れたものの、落ちるところまで落ちたチームを浮上させただけではなく、セレッソ大阪のユース育ちながら8度の移籍を繰り返してきた33歳のFW永井龍に背番号10を託し、チーム総得点の3分の1の14ゴールを記録するチームのエースとして再生させた増本監督。
チーム在籍4年目の主将MF井澤春輝を中心に夏場に快進撃を見せたが、終盤の息切れでプレーオフにはあと一歩届かなかった。しかし、増本監督の手腕は称賛に値するもので、まだ2試合を残しての続投発表(11月15日)にも納得だ。
テゲバジャーロ宮崎:大熊裕司監督
評価:★★☆☆☆/続投可能性:100%テゲバジャーロ宮崎は、2014シーズンから九州リーグに参戦、2017年に石崎信弘監督の下でJFL昇格を成し遂げ、2021シーズンからJ3に戦いの場を移している。同シーズンはJFL時の倉石圭二監督がS級ライセンスを所持していなかったため、内藤就行監督が就任。いきなり3位という好成績を挙げるが、なぜか監督を交代させ、その後毎年監督交代を繰り返すことになる。
今2024シーズン就任した大熊裕司監督。リーグ戦初勝利まで実に8戦を要し、中盤戦まで下位を抜け出せず、終盤の追い上げで何とかJFL降格は免れたものの、15位に終わった宮崎。最終節翌日に発表された続投発表のニュースには、サポーターも納得できないだろう。
12ゴールを記録したFW橋本啓吾と、夏の移籍で獲得し8ゴールを記録したFW武颯を中心とした攻撃陣は魅力的だった。しかし、第19節FC大阪戦から第24節長野パルセイロ戦まで6連敗、第25節いわてグルージャ盛岡戦から第28節FC琉球戦まで4連勝と、安定感のなさが目立ち、コンスタントに実力を発揮できないままシーズンを終えてしまった印象だ。
FC琉球:金鍾成監督
評価:★★☆☆☆/続投可能性:0%FC琉球は、2003年に沖縄県初のJ参入を目指し創設され、その後解散することになる沖縄かりゆしFCを退団した選手によって結成された。初代監督は沖縄出身の日系二世にして、長く読売クラブで活躍した与那城ジョージ監督だ。JFL時代にもヴェルディ川崎などで活躍した元日本代表DF石川康氏をゼネラルマネージャー(GM)に任命したり、元日本代表のフィリップ・トルシエ監督を総監督に抜擢したり、周囲を驚かせる人事を行ってきた。
2013シーズンのJFLで11位ながらも、2014シーズンから新たに発足したJ3参戦を認められた「J3オリジナル12」の1つ。2022シーズンに4年間守り抜いてきたJ2の座から滑り落ち、昨2023シーズンも17位、今2024シーズン14位と精彩を欠いている。また2021シーズン以降、監督の途中解任を繰り返している。
今2024シーズン指揮を執った金鍾成監督はシーズンを完走し一時は昇格圏にも浮上した。しかし、まだ3試合を残しわずかながら昇格プレーオフ進出の可能性がある11月5日に、今季限りでの退任が発表された。直後の第36節大宮アルディージャ戦でのドロー(1-1)で、昇格の望みが完全に断たれた。
シーズンを通して【3-4-3】か【3-5-2】のフォーメーションを敷き、攻撃的サッカーを目指したものの接戦に弱く、下位チーム相手に勝ち点を取りこぼしたことが最後に響いた。
クラブは今季開幕前、“面白法人”を自称する鎌倉市が本社のIT企業・株式会社カヤックが筆頭株主となる。スポーツビジネスに参入した同社は、沖縄に子会社の株式会社アルファドライブを設立するなど、その本気度が伝わってくる。
来2025シーズンの新監督として、5月にS級ライセンスを取得したばかりで、浦和ユースの監督を務めていた平川忠亮氏の就任が内定している。今回の監督交代劇もクラブ改革の一環と思われ、奮闘していた金監督にとっては気の毒だが、新オーナーがどういったクラブ運営をしていくのか、来季以降のチーム編成にも注目したい。
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