クラブとサッカー選手の間の契約延長は、信頼と期待を形にする重要な決断だ。しかし、それが必ずしも成功を約束するわけではない。


全盛期にクラブをけん引していた選手が、新契約後に成績やプレーの質が大きく下がるケースは、ファンにとってもクラブにとっても苦い現実だ。その背景には年齢やプレッシャー、クラブの方針、チームメイトの変化などさまざまな要因が絡み合う。

プレミアリーグでも、新契約を結んだ直後にパフォーマンスが目に見えて低下し、かつての輝きを取り戻せないままキャリアの転機を迎えた選手たちがいる。ここでは4人の選手を取り上げ、それぞれの事例を紹介していきたい。

プレミアリーグで契約延長後に劇的に衰えた4人の有名選手

メスト・エジル(アーセナル)

長期政権をとったアーセン・ベンゲル監督(1996-2018)がアーセナルで過ごした晩年、チームは2人の最も優れた選手が契約満了を迎えるという厳しい事態に直面していた。

1人目は、2014年から2018年まで在籍したFWアレクシス・サンチェス(現ウディネーゼ・カルチョ)だ。ベンゲル監督はサンチェスをはライバルのマンチェスター・ユナイテッドに去らせ、後に見事な判断であったことが証明されているが、当時それは苦渋の決断であり、サポーターからは不評を買うものであった。

もう1人のクラブになくてはならない存在であったMFメスト・エジル(2023年引退)に対しては、2018年1月にサンチェスが退団してから10日後、当時29歳でクラブ史上最高額の年俸で3年半の契約延長を結んだ。そして、ベンゲル監督はエジルに対してもサンチェスと同じことをしていた方が良かったのかもしれないという意見がある。

エジルは契約延長後も活躍を見せてはいたが、全盛期に比べると得点に関与するプレーは望めなくなっていった。結局、2019年に元チームメイトであったミケル・アルテタ監督がアーセナルに就任すると、追い出されるような格好で契約は6か月早く終焉をむかえ、トルコのフェネルバフチェへ移籍。クラブが契約延長時に思い描いていたような結果にはならなかった。

プレミアリーグで契約延長後に劇的に衰えた4人の有名選手

ピエール=エメリク・オーバメヤン(アーセナル)

FWピエール=エメリク・オーバメヤン(現アル・カーディシーヤ)は、アーセナルがUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場圏外から遠ざかっていた苦しい時代のクラブを象徴する選手の1人。ベンゲル監督の晩年からウナイ・エメリ監督(現アストン・ビラ)が指揮していた2018/19シーズン、そしてアルテタ監督の初期まで所属した(2018-2022)。


平凡なチームにあっても、オーバメヤンのパフォーマンスは並外れていた。特にアルテタ監督が指揮を執り始めた最初の半年間は重要なゴールを連発し、2019/20シーズンのFAカップ優勝という快挙を達成。中位に位置したシーズンの中で、クラブを救う存在だったのは間違いなかった。ゴールへの嗅覚とペナルティーエリア内での圧倒的な活躍ぶりから、オーバメヤンが苦境から引き上げる象徴的な選手と見なされたのも無理はない。

しかし、2020年9月に31歳で3年契約を結んだ後、オーバメヤンの全盛期が過ぎていることが急速に明らかになってしまった。また、キャプテンでありながらの遅刻での規律違反や、新型コロナ感染でのチーム離脱とさまざまな要素が重って次第に構想外となり、契約はなんと18か月も早く解除に。2022年2月、バルセロナに移籍した。大胆な契約解除の決断には賛否両論あったが、時間が経つにつれて正当化される結果となった。

プレミアリーグで契約延長後に劇的に衰えた4人の有名選手

マーカス・ラッシュフォード(マンチェスター・ユナイテッド)

2022年のFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会後、2022/23シーズンリーグ中盤戦の約6週間は、FWマーカス・ラッシュフォード(マンチェスター・ユナイテッド)が、欧州で最も好調な選手といわれた時期であった。そして間違いなく現在も続くユナイテッドでのキャリアにおける最高の時期であった。

同時期のラッシュフォードは、56試合に出場してキャリア最高の30ゴールを記録すると同時に9アシストをマーク。カラバオカップ決勝のニューカッスル・ユナイテッド戦(2-0)ではゴールを決め、当時のエリック・テン・ハフ監督就任初シーズンにチームは3位と躍進し、クラブ内得点王でもあった。ユナイテッドの個人賞、サー・マット・バスビー年間最優秀選手賞を初受賞してシーズンを終えた。


この結果、2023年夏にユナイテッドがラッシュフォードを破格の高額年俸で引き留めるのは当然の成り行きだった。2028年までの契約を当時のプレミアリーグ最高の年俸で契約。しかし、残念ながらパフォーマンスは翌2023/24シーズンになると急に落ち込み、43試合出場8ゴール5アシストと、前シーズンと比較すると散々な結果に終わった。

そして今2024/25シーズン、ラッシュフォードはルベン・アモリム監督の下で冷遇されている。ユナイテッドの幹部にとって、彼の将来をどうするかは頭の痛い問題となっており、その最大の障害が高額な給与であることは明白だ。円満な退団への道筋は、いまだ見えていない。

プレミアリーグで契約延長後に劇的に衰えた4人の有名選手

デレ・アリ(トッテナム・ホットスパー)

2018年にトッテナム・ホットスパーがMFデレ・アリ(現無所属)に長期かつ高額な契約を与えたのは、理にかなった判断と考えられていた。現アメリカ代表のマウリシオ・ポチェッティーノ監督がトッテナムを率いていた時代(2014-2019)の中でクラブが最も輝いていた2018/19シーズンにおいて、アリは驚異的な活躍を見せていた。

アリは、2018/19シーズンCL決勝のスターティングメンバーとして出場。クラブ史上初のCL決勝進出という驚くべき結果の一方で、アリを含めた個々の選手のパフォーマンスやポチェッティーノ監督が進めるプロジェクトには問題が明らかにあったが、その問題点は快進撃の成功によって見えにくくなっていた。

その結果、トッテナムは2019/20シーズンに入ると失速し、リーグ開幕から12戦で3勝と絶不調に陥ると、まず、ポチェッティーノ監督が解任された。ジョゼ・モウリーニョ監督(現フェネルバフチェ)が就任したが、アリの事態を好転させることはなかった。
当時の様子はドキュメンタリーシリーズ『オール・オア・ナッシング:トッテナム・ホットスパーの再興』にも描かれている。

アリはその後、エバートン(2022-2024)へ移籍したもの、自身のキャリアを再起させるには至らず。現在無所属の状況が好転することを願いたい。
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