*09:00JST ドラギ政局マジック【フィスコ・コラム】
イタリア首相に就任した前欧州中央銀行(ECB)総裁のドラギ氏への期待が高まっています。ソブリン債危機でユーロを救ったとされる政策手腕は、今でも国際金融市場から高く評価されているためです。
「マジック」でイタリア政局を乗り切れるでしょうか。


イタリアでは4党連立によるコンテ政権で昨年末から新型コロナウイルスの対応をめぐり内部の対立が表面化し、元首相レンツィ氏が率いる少数政党「イタリア・ビバ」が今年1月に政権を離脱。コンテ首相の信任決議は上院で安定多数に達することができず、他党との連立も模索しましたが不調に終わり退陣します。コロナ禍での解散・総選挙を回避するため、白羽の矢が立ったのはドラギ氏でした。


ドラギ氏は1976年に米マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得後、81-91年にフィレンツェ大学教授、84-90年には世銀でエクゼクティブ・ディレクターを歴任。アンドレオッティ内閣で通信事業の民営化を手がけ、ゴールドマン・サックス副会長を経てイタリア中銀総裁、そして2011年に第3代ECB総裁へ就任します。
19年にラガルド氏へバトンタッチするまで金融政策に寄与した人物として知られています。


ドラギ氏がソブリン危機克服の立役者として名を馳せたのは、量的緩和(QE)などを柔軟に取り入れ市場を安定に導いた政策で、その手腕は「マジック」とも称されています。中銀のそうした姿勢は、現在のパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)にも受け継がれています。コンテ政権を形成していた左派寄りの与党4党のほか、中道右派など野党とも良好な関係を構築し、コロナ対応に向け政治情勢の安定化が期待されています。


ドラギ氏の首相就任に思惑が広がった2月初旬の金融市場では、代表的な株価指数イタリア40は昨年3月以来の高水準に浮上。イタリア10年債利回りは0.50%を下抜ける場面もありました。
また、イタリア債とドイツ国債の利回り格差は心理的節目の100bpに向かい2016年以来の最小に。それが好感されユーロも一時強まるなど、金融市場は歓迎ムードに包まれました。


しかし、ドラギ氏は首相として外国人投資家を引き付ける役割も担いますが、もっとすそ野の広い社会保障や外交・防衛といった分野にも目配せし、市場の嫌う政策にも踏み込まなければなりません。とりわけ注目したいのは、外交政策です。例えば、EUが昨年末に中国と締結した包括的投資協定への対応が注目されます。人権意識の異なる中国との関係を構築できなければ、ビジネスチャンスを失うことになるでしょう。



といって、欧米を分断させる思惑でEUにアプローチを試みる中国に「一帯一路」の推進でイタリアは取り込まれ、EU内の結束を歪めた経緯もあります。今年の秋にメルケル政権が退陣するドイツとともに、EU結束に尽力できるかがドラギ首相の命運を分けると考えます。しかも、就任後1年以内に成果を上げないと、政局好きのイタリアでは短命政権に終わるでしょう。


※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。


(吉池 威)



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