*15:20JST リソー教育 Research Memo(10):新規事業である「伸芽’Sクラブ」は託児・学童ともに順調に拡大中
■リソー教育<4714>の中長期成長戦略と進捗状況

5. 幼児教育事業の成長戦略と進捗状況
幼児教育事業には2003年に伸芽会を完全子会社化して参入した。伸芽会は創立・創業62年の老舗で、名門幼稚園・小学校へのいわゆる“お受験”の業界において、パイオニア企業であると同時にNo.1の合格実績を誇っている。


幼児教育事業における成長の取り組みは、新規事業である「伸芽’Sクラブ」の拡大・強化だ。

(1) 伸芽’Sクラブの進捗状況
小学校お受験市場は非常に特殊で、それを手掛ける伸芽会事業はヨコ展開(地理的拡大)が難しい。そこで同社が打ち出したのがタテ展開(年齢層の拡大)であり、その具体的なプラットフォームが「伸芽’Sクラブ(しんがーずくらぶ)」だ。

タテ展開を別の言葉で言えば、いわゆる囲い込み戦略と言うことができる。小学校お受験は4歳ころからスタートするがその年齢をさらに下に拡大するという視点と、伸芽会の卒業生(すなわち小学生1年生)を、中学校受験のためのTOMAS(通常は小学校4年生から受験勉強が始まる)に確実につなげるという、2つの視点が骨格となっている。その具体的サービスが伸芽’Sクラブの託児事業と学童保育事業だ。


託児事業は1~3歳児を対象としており、お受験指導の「伸芽会」の1段前の年齢層を取り込む事業だ。特長は1)お受験対応型の長時間託児、2)共働き世帯へのお受験対応のソリューション提供(伝統的に、お受験は母親が専業主婦でないと合格は困難と言われてきた)の2つだ。現在首都圏で6校(2019年2月末現在)を展開しているが、開校と同時に満員・順番待ちという状況が続いている。

学童保育は保育所の小学生版とも言え、保育所ニーズと同様の背景から少子化が進行する現在にあっても成長が続いている。一般的な学童保育は児童福祉法を根拠とし、行政からの補助金が受けられるが、数少ない成長市場であることもあり、学習塾事業者など民間企業の参入も相次いでいる。同社はこの市場に“(中学受験を見据えた)進学指導付きの長時間学童保育”を特長・差別化要因として参入している。
2020年2月期第2四半期の進捗としては4月に池袋東口校、5月に学芸大学校を開校し、2019年8月末時点で15校体制となっている。下期はさらに3校(通期ベースでは5校)の開校を計画している。

弊社では伸芽’Sクラブの教室数は中期的に現状の約3倍、すなわち、託児・学童合計で60教室程度への拡大は十分可能だと考えている。伸芽’Sクラブが既存の「伸芽会」の対象年齢を前後に拡大する位置づけと考えれば首都圏20校の「伸芽会」教室に託児・学童を併設する形での出店が1つの基本形になってくると考えられる。そうなれば2教室×20ヶ所で40校となり、他のターミナル駅・中核駅への出店を合わせれば60校という目標は十分現実的な想定と言えるだろう。

また、TOMAS(現状86校)への準備期間という位置付けからのアプローチでも、TOMASが120校を目指して積極拡大中である現状に照らすと、やはり60教室という数値は十分理にかなうと考えている。
実現するうえでのハードルは、市場性よりも不動産物件の確保や教師人材の確保にあると弊社ではみている。特に人材については、託児や学童で必要とされるスキルは学習塾におけるそれとはまったく異なるため、予想外に高いハードルとなる可能性もあるとみている。

(2) 伸芽会事業の成長シナリオ
お受験業界は、学力テストで合否が決まる中学や高校受験とはまったく様相を異にしている。知能や運動能力、行動観察など評価基準が多岐にわたっており、試験科目も学校ごとにバラバラとなっている。それゆえ、特定の幼稚園や小学校をターゲットにした小規模事業者や個人事業者が乱立している。また市場も東京都内が圧倒的に大きく、それ以外は神奈川・埼玉・千葉の3県と関西圏の一部に限定されている。


こうした市場にあって伸芽会は、関東エリア20教室、関西エリア3教室の合計23教室(2019年2月末現在)を展開し、規模と実績の両面で業界ナンバーワンのポジションにある。

お受験市場の特殊性と少子化トレンドに照らすと伸芽会事業には成長性がないように思えてしまうが、決してそうではないと弊社では考えている。

むしろ少子化ゆえに、今後も緩やかに拡大が続くと弊社ではみている。過去10年くらいの間に大学入試の多様化(推薦入試・AO入試の拡大など)が急激に進んだがそれは一般入試の競争激化を生みだした。また、2020年度からの大学入試制度改革は、その全貌が見えないこともあって、一般入試を避けるマインドが強まっている。こうした環境変化が大学系列の幼稚園・小学校へのお受験熱を高めている状況だ。
一方、大学側でも学生の確保に向けた囲い込み戦略の一環で、系列幼稚園・小学校の強化を図っており、双方の思惑が一致した状況にある。これがお受験市場の拡大を予想する理由だ。

ただし、伸芽会教室数の拡大に対しては、同社は慎重な姿勢を貫いている。首都圏で20校を展開する同社は、地理的に出店余地がないと判断しているためだ。増大する需要に対しては既存教室の増床などで対応していくとみられる。したがって幼児教育事業の成長戦略の中心は前述の伸芽’Sクラブ事業となってくるだろう。


(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)



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