【その日その瞬間】


 プリンセス天功さん
 (イリュージョニスト)


  ◇  ◇  ◇


 イリュージョニストの引田天功の2代目、プリンセス天功さんは世界各国で数々のイリュージョンを披露している奇才。今も危険と隣り合わせの日々を送るが、ステージについては克明に記憶しているという。

興味深いイリュージョンの現場とは……。


 私にとって青天の霹靂は2代目引田天功になったことです。最初はCBSソニーからアイドル歌手(朝風まり)としてデビューしたので、まさかマジシャン、イリュージョニストになるなんてまったく思っていませんでした。2代目を引き継ぐことになって人生が180度、いや360度、グルグル1周するくらい変わった。それに一番驚いたのは私自身です。


 2代目に選ばれたのは女の子の弟子は私一人だったことや、男性よりは女性の方が興味を持ってもらえるという周囲の期待もあったからです。初代の親族の方にも「頑張ればできる」とポンと軽くトロッコを押し出すような感じで言われ、やるしかない状況でした。


 そして決まったその日から徹底的に勉強を始めました。マジックのための分厚く何巻もある「ターベルコース」という百科事典があります。まずそれを手に入れ、頭に叩き込みました。


 それから手先で行うマニュピレーション、イリュージョン、手妻といわれる魔術や奇術、手品、さらに中国やエジプトの何千年の歴史があるマジック……。さらに初代が持っていた資料や世界各国から送ってもらった文献のコピーも全部揃えて。

それは1日24時間勉強しても終わらないくらい膨大な量で、今も勉強中です。


 最初は何も知らないし、マジックの技術もありません。例えば、初代は瞬時に20羽のハトを出すマジックをやっていました。わかりにくいかもしれませんが、一つネタをバラしますと、あれは糸をどう操るかなんです。ハトを飛ばすために、糸に1~80番の番号が振ってあります。その糸が何番なのか触っただけで瞬時に取らないといけない。


 でも、空中に湿気があると糸が手にくっついて取ることができなかったりします。ですから湿った環境なのか、カラカラに乾燥した環境なのか、それに合わせて糸の素材を選ぶところから始まる。そういう細かい技術を習得しないとマジックは失敗します。ものすごく計算してやらないといけない。


 それでも、勉強して習得すればいいので、恐れのようなものはなかったですね。むしろ悩んだのはコミュニケーションです。

例えば、アメリカに行った時です。アシスタントがつねに10人、20人います。日本人なら大丈夫でも、外国人ではそうはいかない。仮に彼らが失敗したら私がカバーしないといけないことが多いんです。そのために180度に目くばせできる訓練をしておくとか、まるでアスリート並みと言っていいくらい訓練しました。



「ウオータータンク」では救急車で5回運ばれた

 ネタによっては大変な思いもしました。水が入ったタンクから抜け出す「ウオータータンク」というネタがあります。イリュージョン、マジック的ではないのですが、初代天功は危険なことをしてそこから脱出することが得意で、それを冒険と言っていた。ウオータータンクは初代に倣って私が冒険としてやっているネタです。


 ウオータータンクでは水中に入って3分間息を止めていないといけません。普通、人は水中で3分も息を止めることはできません。では、海女さんはどうやって息を止めているのか。

まずそこから勉強です。でも、とても3分止めていることはできない。止めることができるのはMAX30秒くらいです。それなのになぜ、海女さんは3分止めていることができるのか……。海女さんの呼吸法を研究したり、いろんなところに話を聞きに行って研究したり。それでもうまくいかない。習得するのは苦しかったですね。


 ある時は公演が毎日毎日続いて風邪をひき、やっている最中にせき込んでしまい、水を飲み、溺れた状態になってしまいました。それを見たスタッフが慌てて緞帳を下ろし、消防の人を呼んで引きずり出してもらい、救急車で運ばれました。そんなことがこれまで5回あります。


 最初にダイナマイトが爆発する中で大脱出をやったのは日本テレビの番組でした。私は爆発の近くにいます。

もちろん隠れる術はあります。ただし、爆発の音を聞きながらやるので耳は隠すことができない。ある時は最初の1発で鼓膜が破れてしまった。2発目からは耳が聞こえないから感覚だけを頼りに最後までクリアしました。終わってアナウンサーから質問された時は「耳が聞こえない」と言うしかなかったですね。


 これまで鼓膜が破れたことは5回。そのたびに鼓膜を張り替えました。日本では手術しないといけないけど、当時アメリカでは障子のような薄いものを鼓膜のところにペッと張ってくれる。それをやってもらうと普通に聞こえるようになるんです。アメリカの医学は進んでました。


 ステージは年間300ステージ、実働は200日です。1年を4分の1に分けてアメリカ、ヨーロッパ、アジア、日本でやっています。

家には地球儀があって、行った場所に針を刺してわかるようにしています。もう地球をほぼ1周、全部回った感じです。やっていないのは海の上くらいですね(笑)。



話題になった北朝鮮の公演

 北朝鮮で公演したことが話題になったこともあります。世界中を回っている中でたまたま中国の上海で公演をやっている時でした。あとからわかったのですけど、金正日総書記の特使だという方がいらして、「次はぜひ、ウチで公演を」と言われたんですね。英語やロシア語も交えて話をしてくれて言いたいことはすごく伝わりました。そして社長やマネジャーともコンタクトが取れて。そして行くことになったら、北朝鮮だったという感じです。


 例えばフランスにも他の国にも北朝鮮の方はいらっしゃるので、お会いすることがあります。ですから、あの時も特別なことには思えなかったですね。


 世界中を回るのでいろんな経験もします。

例えば、食べ物。体調、具合が悪くなり、公演に差し障るので食事には気をつけています。でも、パーティーなどに呼ばれ、現地の物を食べることもあります。その中で一番おいしかったのがオランダで食べたウナギです。「これは何ですか」と聞いたら「ウナギです」と言われ、ビックリしました。蒲焼きみたいなのからお刺し身みたいなものもあって。すごくおいしいんですよ。オランダでウナギなんて聞いたことがないから、おそらく観光客が行くようなお店じゃなく、地元の人が行くようなお店の料理だと思います。


 一昨年からホワイトライオンのKING、シンガー・ソングライターのyucat(ユキャット)さんと「KinG00(キング)」というグループを結成して活動を始めました。私はいろんな動物を飼っていますが、ものすごく欲しかったのがホワイトライオンです。オスの1歳です。体重が150キロくらいです。


 ホワイトライオンのオスはものすごくおとなしくて、1歳半くらいまでにいろんなことをほぼ覚えます。サッカーボールを蹴る、スケートボードに乗る……。スケボーはすごくうまいですよ。音楽も好きでピアノやフルートを聴いたり。嫌いな音楽だと逃げてグルグル逃げ回ったりするけど、クラシックだとおとなしくなったり。もちろんお手やおかわりなんかも。今一番欲しいのはアメリカサイズの一番大きなスケートボードですね(笑)。


 昨年出した「Magical Jungle(マジカル ジャングル)」というCDにはKINGの「ガオー」という声もちょっとだけ入っています。ニャゴニャゴ鳴いてるところもありますけど(笑)。昨年11月には2枚目のシングルの「魔法の月~Magio de la luno」が全世界の共通語、エスペラント語でリリースされました。ぜひ、ご視聴ください。


(聞き手=峯田淳)


◆初代引田天功が1979年12月31日に他界、翌80年12月15日に2代目引田天功を襲名。プリンセス・テンコー(天功)として世界各国でイリュージョンの公演を行っている。「KinG00」としても活動、今月からTOKYO MX「プリンセス天功のアイドルKING」がスタート(毎月1回放送)、レギュラーはレインボータウンFMの「キングのマジカルミュージック」(毎月第3木曜13時30分)。


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