【私が生きるクスリ】
松尾貴史さん
(タレント・俳優/64歳)
◇ ◇ ◇
コラム集の出版や映画出演など多岐にわたり活躍する松尾貴史さん。“生きるクスリ”は、違うストレスのかけ方と宝くじの当せんイメージという。
昨年、血管が血栓で詰まっている箇所を広げるためバルーンを入れる手術を2回やりました。8月に右半身、12月に左半身で、血管の何十カ所かを。そんなに詰まりそうな箇所があったとは驚きです。もちろん今は体調いいです。
体に一番よくないのはストレスですよね。だから、僕の考える“生きるクスリ”は、とにかく我慢しないこと。イヤなことははっきりと「イヤです」と言い、思ったことをため込まない。仕事でもそうです。僕は外見的には頑張っているように見えますけど、あまり頑張っていないんです(笑)。わかりやすく言うとリラックスしています。それが大事。プライベートでも食べたい時は食べ、飲みたい時は飲むようにしてますから。
人間は何をしても、ストレスが生まれるものです。肉親が死ぬという大きなストレスから、風呂に入れない小さなストレスまでさまざま。毎日夫婦で暮らすのもストレスだし、1人暮らしもストレス。
大切なのは同じストレスをかけ続けず、違うストレスを自分にかけること。仕事でイヤなヤツと一日ずっと一緒にいなければならないのは「不健康なストレス」。そういう時は違う人と仕事して別のストレスをかける。人って普段の生活でなるべくストレスが強くならないように、いろいろ整備して生きていると思うんです。電車の何両目に乗ればエスカレーターが近くて乗り換えにストレスがないとか小さいことも考えながら。それでも細かくストレスがたまっていくから、旅行とか普段とまったく違うことをしてバランスをとる。これが大事ですね。
僕は仕事を選ばないんで、どんなジャンルもやります。いろんなことをやった方が悪いストレスにならないから。
■座右の銘は「不謹慎・無意味・中途半端」
マジメな人は1つのことを我慢しますし、頑張ってしまいますよね。同じストレスになれていく。僕はそれががんになるもとだと考えているくらい体に悪いと思います。少しズレますが、上役の秘密を守るために自分を追い込む人はマジメなんでしょうね。すごいストレスだと思います。
僕の座右の銘は「不謹慎・無意味・中途半端」。不謹慎は「不真面目でいいんだ」ということで、無意味は僕のやっていることなんて、宇宙から見ればチリにもならないちっぽけなことだということ。中途半端は「100点でも0点でもなく1点から99点までの間なら全部及第点だよ」という考え方。これ以上じゃなきゃダメというハードルは設けない。人からの評判や世間体を気にして生きるより自分が楽しければいいやと。
日常の小さなことで「幸せだなあ」と感じられればいい
僕は「死ぬこと以外かすり傷」という言葉が好き。
あと、僕の睡眠薬代わりは宝くじなんです。睡眠薬は体によくないから、宝くじを10枚3000円買って、すべて1等が当たると想定して、眠る時に何に使うかイメージするんです。
人は眠る時に脳のステージにいろんなイメージをのせるんですが、心配事や腹が立つことをそのステージに置くと寝られないと。かといって、楽しいことを探そうにも寝る時にはなかなか見つからない。
僕は毎晩「10億円を何に使おうか、1億は親に小遣いで渡して、子供に1億、残りは船買って世界一周の旅……」とイメージするとすぐ眠れちゃうんです。
「そんなこと考えてたら興奮して眠れない」と言う人がいますが、興奮はしませんよ、まず当せんしないんだから。遊びでイメージするだけでいいんです。
赤ちゃんがおっぱい飲んでいる途中で眠ってしまうのはセロトニンという幸福物質が出るからといいますから、セロトニンが出るようにすれば大人もいい具合に眠れる。
ラジオで「眠れない時にどうしてるか」という話題になった時にこの方法を話したら、ゲストで来られた睡眠を研究されているドクターに「今まで聞いた民間の方の対処法で一番優れてる!」といい評価をいただきました。これも僕の生きるクスリ。ストレスなく、眠れますので試してください。
(聞き手=松野大介)
▽松尾貴史(まつお・たかし) 1981年にデビュー以降ジャンルを問わず活躍。新刊「違和感にもほどがある!」(毎日新聞出版)発売中。1月17日公開の映画2本に出演。「敵」(主演・長塚京三/原作・筒井康隆) 「サンセット・サンライズ」(主演・菅田将暉/脚本・宮藤官九郎)