【増田俊也 口述クロニクル】
写真家・加納典明氏(第28回)
作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。
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加納「親父にはジレンマがあったと思う。画家になりたいけど食わせなきゃいけない子供が5人いる。兄貴に私に妹、妹、弟です」
増田「それは重い」
加納「そういう中で、その日暮らしですよ。国民全体が貧しい時代ですしね。俺の家もずいぶん貧乏した。その代わり、他の家と違って、そんなものにお金使うのかというものに使ったりして、そういう意味では、親父はちょっと変わった目で見られてた」
増田「名古屋にいて、文化的なものに触れられる環境があった。当時の地方じゃ、そういう家庭ってなかなかないですよね」
加納「そうですね、思想的な部分も含めて親父は筋金が入ってたと思う。ヘーゲルとか、哲学書を随分読み込んでました。そういう意味では、俺は親に恵まれました。親によって道は作られたと言ってもいいぐらい、その取っかかりはあった」
増田「大変な影響を生涯を通じて受けたわけですね」
加納「そうですね。親父の現実を見ながら、俺の中で今でも消えないものはいっぱいありますから。
増田「個展を開くということは、販売もしてるのですか?」
加納「もちろんです。俺には写真家というベースがあって何十年とやってきてるわけですから、写真材料がネガとして大量にある。それをAdobe Photoshopで起こして絵にしていく。同年代で俺ぐらいPhotoshop*をいじれる人いないと思いますね。いわゆるデッサンづくりですけど、絵画の」
※Photoshop(フォトショップ):米国Adobe社が開発販売しているフォトレタッチソフト。デザイナーなどプロクリエイターのシェアは圧倒的である。同社のIllustratorやInDesignとの連携能力が強く、印刷出版界でもデファクトスタンダード。
増田「デジタルを駆使してるんですね。どうやってそれを絵画に?」
最先端から絶対に降りたくない
加納「そこでもう一枚、元の写真を絵にしていくわけですね。新しいその原画というか、キャンパスにプリントするんです。それに今度アクリルで絵の具を施していく。
増田「難しそうですね」
加納「そうやって絵筆を走らせるっていうことは、おそらく俺だけじゃなくてやってるけど、写真家で俺ぐらいやってる人は見たことないですね」
増田「そもそも80歳をこえる加納さんからPhotoshopという言葉が出ること自体が驚きですね。普通その年齢でやらないですよ」
加納「デジタル分野に触って、クリエイターとして逃げたくないと思っていますね。それをどこまで深められるか挑戦を続けたい」
増田「いや、驚いたな。まったく枯れてない」
加納「それは最先端でいたいですよ。俺にPhotoshopをイジらせたらハンパじゃないですよ、本当に。負けたくない。新しい技術を使ってオリジナルの絵を作る、これが本当に面白いんだ」
増田「すごいバイタリティですね。若いクリエーターたちに聞かせたいですよ。今の子たちは、小説家や漫画家も含め、みんな若くして降りていくから」
加納「もったいないと思うんだよ。現実にあるその技術を使ってみないっていうのは。
増田「普通は、もう懐古臭というか、昔は良かったとか言いつ、60歳ぐらいでみんなそう言ってる。若い人についていけないとか」
加納「俺は絶対に最先端から降りたくない。文句があればやってみろよという感じですよ」
(第29回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。
(増田俊也/小説家)