【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ~んぶ話しちゃう!」】
作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。
◇ ◇ ◇
増田「最近、YouTubeで昔のコント55号のコントを何本か見たんですが、深夜に1人でゲラゲラ笑ってしまいました。とにかく面白い。ぜひ55号の再放送もやってほしいですね」
萩本「でも俺からするとね、いまネットで見れるのはVTRがあるときのものだから『なんでそうなるの?』(正式名は『コント55号のなんでそうなるの?』)でのコントだと思うのね。でも正直言って55号で一番面白くないのが『なんでそうなるの?』のときのもの」
※『コント55号のなんでそうなるの?』:1968年から日本テレビ系列で放送された人気バラエティー番組。当時のテレビ界では異様な速度感を持った番組だった。それ以前のテレビ喜劇はクレージーキャッツ、寄席芸、舞台コントの延長線にあり、比較的段取りが見えていた。しかしコント55号は、暴走・脱線・怒鳴り・身体ギャグ・アドリブ風の崩壊を前面に出し、その混乱そのものを笑いにした。
増田「そうなんですか」
萩本「皆さん55号が最高の時でないのを見て『面白い!』って言ってくれるけど、もっと前のを見てほしかったなという思いがある」
増田「もっと前のものというと」
萩本「VTRがない時がおかしかったんだよね」
増田「じゃあテレビにもネット上にもないんですか」
萩本「ないない。VTRがないから」
増田「ネット上のものもものすごく面白いですけどね。ゲラゲラ笑いながら見ちゃう」
「『浅草にいた』って言うなって」
萩本「その時の55号に近いコントを半年間やったけど、3本ぐらいじゃないですか。昔の55号に近いのをやったのは。他はごめんなさいねって感じ。
増田「お二方とも大ブレークもして、そのあとは坂上二郎さんは俳優でも活躍して」
萩本「はい。二郎さんは俳優やるのが夢だったからずっと。昔のコメディアンは『なるべくコメディアンと言わずに俳優って言え』って先輩から言われてきたからね。『なんでですか?』って聞いたら『コメディアンっていうと安いから俳優って言え』って」
増田「そんな時代だったんですね」
萩本「うん。だから『浅草にいた』って言うなって先輩に言われてたの。テレビ行ったら『浅草にいた』って言うと損になるから。だから、私は逆に『僕は浅草にいました』って」
増田「むしろ誇りを持って」
萩本「そうそう。みんな先輩全員が俳優さんになってますから。コメディアンで一生通した人ってね、ほとんど消えてるからいないんですよ」
増田「なるほど。そういう構造があったんですね」
萩本「だから、僕は俳優は絶対しないっていう気持ちだったの。コメディアンのギャラを高くすることが目標だった。そういう点では、なんかやり遂げた感じする。
増田「先ほどの話じゃないですけど、みんないい大学を出て、お金を稼ぐためにお笑い芸人になるっていうような今、もうその辺りの一流企業に就職するよりは」
萩本「そうそう。全然いいです、もう。全然」
増田「そうでしょうね」
萩本「私はもう、そのコメディアンが低いって言った時に、なるほどなと思って。一番狙ったのが、子供たちがテレビ見てて、あ、欽ちゃんになりたい、笑いをやりたいっていう人を増やせばいいんじゃないかなって。それですごいダメなやつを(番組に)使ったってのは、誰でもできるよってのを伝えたかったんだね。自分がダメなヤツだったから。〝俳優さんは結構大変だよ、笑いは何にもできない人でもできるよ〟って言ったら本当に殺到しちゃったんだよね。簡単にできると思って。実際、簡単にできるから」
増田「いや、簡単じゃないですよ。簡単じゃない。
萩本「うん。それはだからそれはやっぱりあのコント55号でツッコミっていうのをやったもんだから。それが生きたね」
(つづく =火・木曜公開)
▽はぎもと・きんいち 1941年、東京都生まれ。高校卒業後、浅草での修行を経て、66年にコント55号を結成。故・坂上二郎さんとのコンビで一世を風靡した。その後、タレント、司会者としてテレビ界を席巻し、80年代には週3本の冠番組の視聴率がすべて30%を超え、「視聴率100%男」の異名をとった。社会人野球「茨城ゴールデンゴールズ」の初代監督、2015年には73歳で駒澤大学仏教学部に入学するなど挑戦を続け、25年10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」は今年4月からSEASON3に突入した。
▽ますだ・としなり 1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。

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