先ごろ開催された第79回カンヌ国際映画祭のカンヌ・プレミア部門に選出され、現地では出演者の宮舘涼太が海外のマスコミ取材の席で、華麗なターンを披露して注目を浴びた、黒沢清監督の「黒牢城」(6月19日公開)。これは直木賞と山田風太郎賞を受賞し、国内の4大ミステリー大賞を史上初めて制覇した米澤穂信の時代小説を映画化した、黒沢監督初の時代劇。

本木雅弘、菅田将暉、吉高由里子という豪華スターの競演だけでなく、ミステリーとしても人間ドラマとしても、見ごたえのある作品になっている。


 戦国時代、織田信長に仕えていた武将・荒木村重(本木雅弘)が反旗を翻し、有岡城で織田軍と対峙する。織田側では天才軍師・黒田官兵衛(菅田将暉)を村重の説得に向かわせるが、説得は失敗。官兵衛は有岡城の地下牢に幽閉されてしまう。村重と家臣は籠城戦を展開し、毛利の軍勢の援軍を待つことにする。やがて城の中で不審な怪死事件が次々に起こり、村重はその解明に乗り出していく。


 密室殺人や犯行時刻のトリックなど、これまで時代劇では描くのが難しいと思われたミステリーの手法を取り入れ、荒木村重が事件の概要を調査する刑事役、黒田官兵衛を事件の核心を突く探偵役に据えて、有岡城という限定された空間の中で、城内にいる人々を容疑者に推理劇が展開する。


 それだけでなく、家臣たちから戦に勝つ能力は認められているが、いまひとつ人望がないことに不安を抱えている村重。自分が有岡城から戻らないことで、織田側へ人質に出した息子の命が心配な官兵衛の、時とともに揺れ動く関係性も見どころ。誰が犯人かわからず、家臣たちに疑惑の目を向ける村重は官兵衛の頭脳を頼り、官兵衛は息子の命を危険にさらした村重に、複雑な思いを抱く。事件を解く彼らが心をひとつにしたバディーでないところに面白さがある。


 誰も信じられない村重が、唯一気を許せるのが吉高由里子演じる側室の千代保。

献身的に村重を支える彼女は、武家の妻として頼もしく見えるが、過去には壮絶な体験をしてきて、奥行きのあるキャラクターになっている。黒沢監督にインタビューする機会があったが、「吉高さんは演技が的確で、非常にうまい」と言っていて、大河ドラマ「光る君へ」(2024年)を経て、演技的に深度が増した彼女の表現に、物語が進むにつれて惹き込まれる人は多いだろう。


 他にも村重の家臣役で宮舘涼太、オダギリジョー、青木崇高、ユースケ・サンタマリアなどが出演し、城を守るスナイパーの雑賀衆の一人で柄本佑が登場するなど、出演陣は豪華そのもの。また作品の作りとして黒沢監督は、黒沢明監督の「蜘蛛巣城」(1957年)などを参考に、オーソドックスな時代劇を目指したという。一方で本作はミステリーの謎を話し合う会話劇でもある。村重と官兵衛が話す広大な地下牢をはじめ、通常の時代劇とは違った広い空間が出てくるが、その中で人物が動き回りながら芝居をするのは、黒沢映画の特徴。初の時代劇でも自分のスタイルを貫いて、動くことによってキャラクターの魅力を際立たせる監督の演出が印象的だ。


 ミステリー時代劇としては2月に公開されて続映している「木挽町のあだ討ち」もあり、間もなく興行収入10億円に手が届くスマッシュヒット。時代劇といえば血なまぐさいチャンバラやウエットな人情劇だったのは昔の話。ミステリー時代劇は別の面白さを提供している、本作も流れに乗ることができるか。その可能性は十分に感じられる、娯楽大作になっている。 


(金澤誠/映画ライター)


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