
計算の速い子供が数学者に向いているのではないという話
プロのピアニストは、たいてい幼少のころからピアノを始める。
しかし、習い始めて最初の1,2年にやるバイエル~ブルクミュラーあたりは、音楽的な感性を養うというよりは、譜面通りに指を動かして音が鳴らせるかの勝負である。いわば、譜面に書かれた音符をモグラに見立てて、そのモグラを叩(たた)く、モグラ叩(たた)きゲームである。それは本人の音楽的才能や音楽的な素質とは何ら関係がない。モグラ叩(たた)きゲームがうまいか下手かというだけのことである。言うまでもなく頭の回転の速い子供や、ゲーム慣れしている子供はこういうゲームじみたことはすこぶる得意である。
そんな彼ら(彼女ら)は、たちまち、バイエル~ブルクミュラーを終わらせるが、だからと言って、彼ら(彼女ら)が音楽家としての資質に恵まれているとは限らない。逆に、バイエル~ブルクミュラーを終わらせるのに時間がかかったからと言って、彼(彼女)に音楽家としての資質や才能がないのかと言えば、そんなことは全くない。しかし、レッスンがあまりにも進まないと初期の段階で自分には音楽の才能がないのではないかと間違って信じ込んでしまう。そして、レッスンが嫌になって、ブルクミュラーに到達する前にピアノを習うのをやめてしまう。これでは、眠った才能は開花する前に摘み取られてしまう。