かつての「カオスな電脳街」はいま。安売り家電量販店に押され、苦戦続くタイ「パンティップ・プラザ」

かつての「カオスな電脳街」はいま。安売り家電量販店に押され、苦戦続くタイ「パンティップ・プラザ」
2016年7月時点(リニューアル直前)のパンティップ・プラザ

 国王崩御からもう1か月が経つタイ。

 国民の心情にいまだ混乱はあるものの、日常は崩御翌日でさえ平常だった。在住日本人の中から絶大な支持と尊敬を集めていたプーミポンアドゥンヤデート国王崩御により混乱があるのではないかと予測する声もあったが、少なくとも経済活動に大きな影響はなかった。タイ、特にバンコクは先進国と引けを取らないほど発展していて、高層ビルも乱立し、世界中のブランドや製品が手に入る。これだけの市場規模であることから経済そのものが停滞することを許さなかったのだろう。

 タイの経済活動は2010年くらいを境に様相がだいぶ変わった。amazonなどは進出していないものの、先進国同様にネット通販も充実してきたし、辺鄙な場所に実店舗があってもマップを見れば容易に足を運べる時代になった。かつてのタイではほしいものがあればその製品に関連した問屋街、あるいは専門市場に行かなければならなかった。

 タイ国内のネット発展黎明期のIT関連も同じで、かつては「バンコクの秋葉原」とも呼ばれた「パンティップ・プラザ」に誰もが足を運んだ。素人が見ればジャンク品のようなパーツが所狭しと並べられ、自作パソコンを作るタイの若者や、修理のためにデスクトップの本体を抱えてやってくる会社員らでごった返していたものだ。

 海賊版ソフトも品数豊富に売られていて、呼び込みの店員が汗ばんだ手で客の腕を引っ張る。バンコク在住者はタイ人外国人問わず「パソコンといえばパンティップ」というほどITの聖地であった。

 そんなパンティップも時代の波に押されて訪問者が激減している。

「バンコクの秋葉原」とも言われ、怪しげなパーツやジャンク品が溢れ、国内外のギークから注目を集めていたパンティップだが、近年は訪問者が激減している。全盛期は1日あたり3万人は来場者がいたものが、近年は1万人以下になっている。

 タイの各都市に乱立する商業施設にも最低で1軒は入店しているほど家電量販店が台頭していることが原因のひとつだ。そうした店でパソコンや周辺機器も安く買えるようになったので、わざわざ渋滞の激しい都心にあるパンティップに行く理由がなくなったのだ。

 同時に、購買力が上がったタイ人にとって多少高くとも正規店、あるいは保証制度がしっかりしている量販店を選ぶ傾向になる。観光客にはおもしろく映るパンティップの雑多で怪しげな雰囲気が逆に仇となった。

◆パンティップ起死回生のリニューアル策も……

 そして、パンティップは起死回生の策として、2015年初頭ごろから一部を封鎖しながら、3億バーツ(約12億円)もの費用をかけて内装工事を実施(当初の予算で実際の総工費は不明)。2016年8月8日にリニューアルオープンとなった。来場者目標を1日3.5万人超を目標に、テナントのほかEスポーツの開催にも力を入れる。これによってパンティップは復活できるのか。リニューアルしたパンティップの様子を何度か見に行ってみた。

 まず、8月中旬と9月上旬の時点では入居、あるいは再入居しているテナントは5割もなかった。フロアによっては3割オープンと言ってもいいくらいだ。ほとんど空き家状態では盛り上がろうにも盛り上がらない。かつてはパソコン関連の商品のみを扱うプライドを感じたが、今ではスマートフォンなどの携帯電話ショップも目立つようになっているし、海賊版ソフトのショップは時代の流れとしてリニューアル後はほとんどなくなって、怪しくて雑多な雰囲気は消えた。1階のオープンスペースではイベントを頻繁に開催しているので一見元気なように見えるが、上の階に上がるにつれて閑散とし薄暗い。最上階にはタイでも老舗になるIT量販店「IT CITY」がフロア丸ごと占有しているが、ここも悲しいくらいに人が少なかった。

 さらに、今月11月頭に再度足を運んでみた。入居店舗数はほとんど変わっていない。むしろ、9月にはあった店が撤退しているなど、やはり客足は芳しくないようである。莫大な費用と約18か月の時間をかけて結局パンティップはいまだ復活はしていない状態にある。テナントの従業員に話を聞いても「客はかつてほどは来ていないんだ」と首を振る。長い目で見ればまだどうなるかわからないが、入居テナントには焦りもあって、ほかの商業施設にある家電量販店よりも値引き額やサービスが大きかった。

 例えば、Surface3の64GB版は量販店もパンティップも表示価格は同じだ。取材時でSurface3は18900バーツ(約5.6万円)。パンティップはそこから3000バーツ(約0.9万円)値引きの上、5190バーツ(約1.5万円)の純正キーパッド(タイプカバー)と自宅で使用できる約5000バーツ相当(約1.5万円)のドッグステーションのセットがあり、本体と合わせて20490バーツ(約6.1万円)で販売していた。

 日本でSurface3は64GB の4G LTE+Wi-Fiモデルで88344円(メーカーサイト参照)。Wi-Fiモデルは73500円(アマゾン参照)となる。これはあくまでもタブレットだけの価格で、タイはWi-Fiモデルのみしかないにしても、キーパッドのセットが値引き前で約7万円と安い。OS自体は英語バージョン、キーパッドも日本と規格が違うため使い勝手がやや違うというのを差し引いても、タイの方が手を出しやすい値段設定になっている。

 ほかのメーカーで見てみると「LENOVO YOGA 900S」がタイでは49990バーツ(約14.9万円)で、日本では21.6万円だ。やはりタイの方が安い。スペック表からわかる違いはせいぜいCPUくらいで、日本では「インテル・コアM5-6Y54プロセッサー」を、タイ向けは「インテル・コアM7-6Y75プロセッサー」を使用している(そのため、商品名は同じでも厳密には型番が違う)。同年に発売されたCPUなので大きな性能差はないみたいなので、Surface3同様にインストールされているOSが英語版で、キーのアットマークなどの位置が違うという点はあるにしても、今タイはIT製品が買いやすくなっているのだ。

 ただ、価格はパンティップでも家電量販店でも似たような設定なので、家電量販店がパンティップに値引き合戦を挑んできた場合、パンティップにアドバンテージが今はない。バンコクの秋葉原もしばし苦境が続きそうである。

⇒【画像】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=116904

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM)>

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