トランプ政権が思い描く、中南米政策の限界点

 選挙期間中、「メキシコからの不法移民を全員追い出す」、「国境に新たに壁を作る」などの“暴言”が注目されたトランプ氏。彼の中のそうした“理想”と現実のギャップについて、日本貿易振興機構(JETRO)ラテンアメリカ研究グループの星野妙子氏が説明する。

「まず理解しておきたいのは、30か国以上ある中南米のなかでもメキシコだけ特殊な立ち位置にあるということです」

 メキシコは輸出の8割、輸入の5割をアメリカに依存しており、アメリカ経済と極めて密接な関係にある。さらに、不法移民を送還する件に関しては「メキシコ人不法移民は650万~700万人と言われています。それだけの人数を送還するのは、あまり現実的ではない。それに不法移民の多くは、いわゆる3K職場で働いています。農場や屠畜場、建設作業現場、レストランやクリーニング店、個人宅のメイドなど、白人の米国人がやりたがらない職場で、アメリカ経済を下支えしているのです」と話す。彼らを送還すれば、雇用主からの反発も必至だ。

◆メキシコ以外の地域で中国が台頭する恐れ

 トランプ氏はさらに、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しを目指すと発言している。

 NAFTAは、アメリカ・カナダ・メキシコの3か国の間で結ばれた自由貿易協定で、’94年から始まった。三国間の関税を多数撤廃し、貿易関係を強化している。

「20年以上が経過し、アメリカとメキシコの経済はほぼ統合されています。自動車産業を例に取ると、NAFTA成立以降、アメリカの自動車メーカーの工場拠点は大型車はアメリカ、小型車はメキシコという住み分けが生まれました。しかし、メキシコの製造拠点をアメリカに戻すとなれば、人件費が跳ね上がり、生産コストや小売価格にまで反映されるでしょう」

 不法移民の送還、NAFTA見直しによって米国に雇用が生まれたとしても、多くは報われない低賃金の労働に違いなく、票を投じた人々が夢見たアメリカンドリームとは程遠いものになりそうだ。

 一方、メキシコ以外の国々との関係は、もともと薄かったものがさらに薄くなると見られる。

「米国は南米の各国とも二国間の自由貿易協定を結んでいます。NAFTAの関税を引き上げればバランス上、二国間協定の関税も引き上げざるをえない。そうなると中国がさらに台頭するでしょう」

’90年代までは中南米ではほとんど存在感のなかった中国が、近年は各国の貿易相手国としてアメリカとトップ争いを続けている。特にブラジルは、輸出入ともに中国が最大の貿易相手国となっている。

「中国経済の発展とともに、ブラジルは中国の食料庫のような役割を果たしました。鉄鉱石や原油、大豆などの一次産品の輸出額が急激に伸びたのです」

 トランプ氏の思い描く「強いアメリカ」は前途多難なようだ。

【星野妙子氏】
日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター・ラテンアメリカグループ上席主任研究員。

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