トランプの対メキシコ政策によって中国に思わぬビジネスチャンスが……

トランプの対メキシコ政策によって中国に思わぬビジネスチャンスが……
moerschy / Pixabay(CC0 Public Domain )

 21世紀に入っての中国のラテンアメリカ市場での躍進は目覚ましいものがあるが、米国でトランプ大統領の誕生は中国にとって予期しなかった「ご褒美」となるのかもしれない。

 トランプはメキシコそして中米からの移民の不法入国を防ぐ為にメキシコとの国境3000㎞に壁を設けることを計画している。実際にはその3分の1の壁は既に存在している。そして、彼はカナダ、米国、メキシコの間に存在して来た北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを検討する意向をもっている。メキシコとの貿易赤字の是正と米国企業がメキシコに工場を移転させて、米国での雇用の喪失に繋がっているとうのがその見直しの理由だとしている。
 トランプの考えは常に一方通行で、単純そのもの。NAFTAのお陰で米国の遺伝子組み換えのトウモロコシがメキシコ市場を席捲して、メキシコのトウモロコシ生産に従事して来た農業を壊滅させた。メキシコから米国に不法移民を含めメキシコ人の移民が急増したのは正にこの影響であるということをトランプは無視しているため、メキシコ国内では大いに反感を買っているのは既報のとおりだ。

 更に、ラテンアメリカからも参加もある環太平洋経済連携協定(TPP)についてもトランプは発展させる意向をもっていない。保護主義に向かおうとするトランプの考えにはラテンアメリカとの貿易取引の発展には強い関心はないようである。

 これらの要素は正に、中国にとってはラテンアメリカ市場での中国の存在をより高める絶好の機会である。

 そして、ラテンアメリカ市場での中国の存在がさらに加速しそうな要因がある。

 それが、トランプがいままさに壁を設置しようとしている「メキシコ」の存在である。

 端的に言えば、「米国は壁を建設しようとし、一方の中国は架け橋を建設している」ということである。

◆中国が敬遠してきたメキシコの存在

 中国の進出が活発だったラテンアメリカの主要国の中で、これまで忘れられて来た国が一つある。それはラテンアメリカで経済力で第二である大国メキシコだ。トランプの大統領選挙戦中からメキシコは彼の批判の対象にされ、中国からも殆ど相手にされないという厳しい状況に置かれていたのである。

 これまでメキシコが中国から相手にされなかった理由は大きく分けて次の3つである。

●メキシコはNAFTAの加盟国で米国との関係が余りに強い。
●麻薬カルテルが蔓延り治安上の安全が期待できない。
●2014年には中国は高速列車の受注をしておきながら、その後メキシコ政府からキャンセルされた。

 中国のメキシコとの取引が如何に少ないかということを示した数字がある。中国が2013年だけでラテンアメリカおよびカリブ諸国に投資した額は<144億ドル(1兆6560億円)>であるのに対し、2000年から2013年までにメキシコに中国が投資した額は僅かに<2億8100万ドル(323億円)>というだけに終わっているのである。(参照:「El Financiero」)

 メキシコの輸出の8割は米国市場向けである。その中でも成長したのは自動車産業である。NAFTAの取り決めを利用して生産コストの低いメキシコで生産した車が米国に無税で輸入できることから、世界の主要自動車メーカーはメキシコで生産して米国へ輸出するという取引を急成長させた。自動車の部品メーカーも同様の道を歩んで来た。それ以外の商品でも米国企業がメキシコで根を張っての生産が盛んである。その為、中国の企業がメキシコに進出し難いという環境を作っていたのだ。

◆すでに昨冬、油田開発に中国が食指

 メキシコでは麻薬の栽培と密売が盛んで、それをカルテルという麻薬組織が牛耳っている。大きく分けて9つの麻薬組織が存在し、そこからまた分子が分かれて存在している。カルテルは全国レベルで蔓延っており、政治にも介入して各自治の首長を操ったりしている。彼らの指示に従わないのであれば殺害されるだけである。更に警察も給与の2倍以上の報酬を稼ぐことが出来ることからカルテルに密着して協力している警官も多くいる。2007年から2011年までにカルテルが絡んで9万5000人が殺害されている。

 一般の中国企業がメキシコで投資などをして企業経営をするとなると、カルテルからの妨害を警戒せねばらないという状況に追い込まれる可能性がある。これもまた、中国がメキシコへの投資を敬遠していた理由の一つだ。

 他にも、2014年に中国が高速列車の入札で一旦落札しておきながら、その後契約が破棄されたことも中国政府がメキシコへの投資を敬遠する要因となっている。

 しかし、トランプが大統領になるということで、様相は一変した、と中国は見ているようだ。米国とメキシコの関係がこれから疎遠になると見た中国は、メキシコへの投資を見直すことにしたと思われる。その最初の大型投資となったのが、昨年12月にメキシコの石油公社<ぺメックス(Pemex)がメキシコ湾の北に所有する海底油田の開発を中国海洋石油総公司(CNOOC)が担う>ことの合意に達したことである。(参照:「Enernews」)

 対中国包囲網を作るとしてロシアとの関係修復に尽力していると言われるトランプだが、対メキシコ政策が逆に中国を利することになる可能性も秘めているのかもしれない。

<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

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