
◆津波被害の南三陸町、「復興のカギ」に選んだのは「新商店街の建設」
東日本大震災から6年を迎えようとしていた2017年3月3日。津波で甚大な被害を受けた南三陸町志津川地区の中心部がにわかに活気づいた。
この日、2012年2月から営業していた仮設の商店街「南三陸さんさん商店街」が、かさ上げされた新市街地に移転。震災から6年を経てようやく「本設」の商店街として営業を開始したのだ。
町民待望の新商店街は、建築家の隈研吾氏がデザインを手がけたもの。商店街内には仮設店舗から移転する店舗やコンビニ、産直市場など28店が出店。これに合わせてBRTとして復活したJR気仙沼線志津川駅も商店街の隣接地に移転し、開業後初の日曜日となる3月5日は多くの人で賑わった。
南三陸町では、志津川地区のさんさん商店街の後を追うように、町北東部の歌津地区の仮設商店街「伊里前福幸(ふっこう)商店街」もこの4月下旬に本設商店街「南三陸ハマーレ歌津」として生まれ変わる予定で、これらの「かさ上げされた新しい街」の核となる新商店街の誕生は、地域の「商業復興」を強く印象付ける出来事となる。
◆人口減少、競争激化……「商店街受難の時代」
実は、東日本大震災の津波被災地で、町の新たな「核」として多くの賑わいを生み出してきたのが各地の「仮設商店街」であった。そうした各地の仮設商店街も、震災から6年を経て大きな変化を遂げようとしている。
今春は、先述した宮城県南三陸町の「南三陸さんさん商店街」や「伊里前福幸(ふっこう)商店街」に加えて岩手県大船渡市の「おおふなと夢商店街」が「本設」の新商店街へと移行。また、仮設で営業する一部商店がまちの賑わい拠点として新設される商業施設への入居を決めるケースもあるなど、「仮設から本設商店街へ」という流れが顕著になってきている。
しかし、全国各地でこうしたいわゆる「商店街」が苦戦しているのは周知の事実だ。各地で商店街の本設化や商業施設の建設が相次ぐ一方、今後の継続的な集客の確保には不安がつきまとう。
さんさん商店街をはじめとした仮設商店街の多くは、震災以前より続く人口減少や、まちに住み込みで働いていた復旧工事関係者の減少、既存大型商業施設との競争などにより、開業当初と比べるとその利用者数は減少傾向にある。
そのため、仮設商店街に入居していた商店の中には、本設移転により跳ね上がる賃料と売上見込みの兼ね合いから、仮設の退去期限とともに休廃業を決断する商店主も多いという。
さらに、2015年12月に開業した「シーパルピア女川」(宮城県女川町)や、2018年春以降に開業予定の「内湾スロー村(仮称)」(宮城県気仙沼市)、同じく2018年度にリニューアルオープン予定の「道の駅たろう」(岩手県宮古市)など、各地で復興にあわせた「観光型複合商業施設」の整備も盛んになっており、復興の進行とともに被災地広域を舞台とした復興施設同士の「新たな競争」も激化することになる。
特に、女川町のシーパルピアと今回オープンした南三陸さんさん商店街は、東北自動車道仙台宮城IC(仙台市)からの所要時間が大きく変わらないことや、テナント数(女川:27店舗+物産施設「ハマテラス」、南三陸:28店舗)、海の幸を使った名物丼(女川:「女川丼」、南三陸:「キラキラ丼」)の存在など、類似点が多い。
そのため、観光客の移動時間に加えて営業時間などの時間的制約を考慮すると、条件が近いこれらの商業施設同士では「客の取り合い」が起こるものと予想される。
◆イオンと共生、住宅併設……集客確保はあの手この手で
仮設から本設への移行も早々に、厳しい競争に直面することとなる復興商店街。しかし、計画段階からの工夫によって集客獲得のハードルを乗り越えようとする動きもある。
岩手県釜石市に2014年12月に開業した「タウンポート大町」は、2014年3月に地元の誘致で開業したショッピングセンター「イオンタウン釜石」のすぐ隣に出店。イオンとの共同イベントの開催やイルミネーションの点灯など、本来であれば商店街の「敵」にもなりかねない大型ショッピングセンターとの共存を図ることで、広域からの集客確保に努めている。
また、宮城県気仙沼市で今春の開業を目指して工事が進む「南町2丁目地区共同化事業(仮称)」では、24店舗の商店と24戸の災害公営住宅を複合した5階建てビルの低層階(1-2階)に商店街が設置される。この下層階の商店街は、高層階(3-5階)で暮らす住民の消費の場にもなることで、文字通り「足元商圏」を固める狙いだ。
今回オープンした南三陸さんさん商店街の周辺には、こうした大型ショッピングセンターがある訳ではなく、また、足元商圏もそれほど大きくはない。
その一方で、同商店街は、震災復興の過程でかさ上げされた土地に建設されているうえに、震災遺構として保存されている「南三陸町防災対策庁舎」がすぐ近くにある。そのため、商店街への安定した集客、ひいては商店街を核とした新たな街の発展を目指す上では、「復興ツーリズム」で被災地を訪れる客を商店街へと誘導することが欠かせないものとなる。南三陸町や商店街では、語り部プログラムのなかで商店街での買い物を組み込んだプランを設けるなど、観光客を取り込むための施策もおこなっていく方針だという。
東日本大震災の発生から6年を迎え、ようやく「商業復興」の兆しが見えてきている被災地。もちろん、こうした新商店街にとっての一番の「成功の鍵」は、「地元住民に末永く愛される施設となれるかどうか」であることも忘れてはならない。
街の新たな核となる商店街や新施設の集客戦略の成否は、今後10年、20年後の街の賑わい自体をも大きく左右することになるであろう。
参考:
岩手日報,「仮設商店街、集客に正念場 県内『減少』68%実感」、2016.3.18
河北新報,「気仙沼内湾活気再び」,2016.09.09
岩手日報,「大船渡の本設商店街が着工 震災越え来春オープン」,2016.10.04
河北新報,「南三陸の新商店街「ハマーレ歌津」に」,2017.02.10
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」
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