スポーツジムは月額1500円からと垣根が低い一方、ケチャップを野菜と主張するデブが幅をきかす肥満大国アメリカ

スポーツジムは月額1500円からと垣根が低い一方、ケチャップを野菜と主張するデブが幅をきかす肥満大国アメリカ
月額1000円台からと、日本よりはるかにリーズナブルなアメリカのジム。しかし健康体と肥満体の二極化が激しい

 筆者は元々「態度」、「声」とともに、日本の一般女性からすると規格外の「図体」をしていたのだが、渡米後、その体はさらに「わがまま化」し、この2年で12キロも肉を肥やしてしまった。声を大にして言い訳すると、筆者が太ったのは、とある病気のせいであり、決して、決してアメリカの油や砂糖に屈したわけではない。

 学生の頃は、大きなテニスの試合に出ては貪欲にボールに食らいつく、いわゆる「動けるデブ」だったのだが、今では床に落ちたフライドポテトを拾うだけで、どこかの内臓から変な声が聞こえ、椅子から立たずに冷凍庫のアイスを取ろうとすれば、背中がつるようになった。さすがにこのまま治った病気を言い訳にして体を大きくし続ければ、一時帰国時の際、あまりの変わりように入管に止められるのではと、先日ようやく重い腰をあげ、ニューヨークのとあるジムに通うことにした次第である。

 そんな筆者が勝手に定義していることがある。アメリカ、特にニューヨークに住んでいる“ハイソ”な人間の3大健康生活は、以下のような特徴がある。

1.色とりどりの野菜が入ったサラダボールをサングラスして外で食べる
2.巨大なペットボトルに入っているお洒落な水を持ち歩き、浴びるように飲む
3.女性は体のラインが見事に出る黒スパッツ姿、男性はほぼ裸のタンクトップ姿でジムに通う

 今回アメリカでジム通いを始めることで、筆者もこの黒スパッツになるべきかどうか、相当迷った。一度は覚悟を決めたものの、家からジムまでの10ブロック(約1キロ)を歩く恥ずかしさ以上に、顔見知りのドアマンがいるエントランスを横切る勇気が出ず、結局スパッツの上から短パンを履くというズルをして向かうに至った。

 統計調査企業Statistaによると、アメリカには36,540店舗ものスポーツクラブが存在する。筆者の住んでいるニューヨークのマンハッタンには、ヨガやジム、フィットネスクラブなどが、1ブロックに1軒、多いと3軒並んでいるところもあり、ニューヨーカーの健康意識の高さが伺える。

 ◆事前予約で会員の友人は無料! ヨガ教室は7ドル

 そんなアメリカのジムだが、日本のそれと比べると、明らかに違う点が1つある。それは「ハードルの低さ」だ。

 日本でジムに行こうとすると、一番安いプランでも6,000円は下らず、相場は10,000円前後といったところだろう。しかし、ニューヨークでは、安いところだと15ドル(1,500円前後)ほどで通えるのだ。こうした超低価格のジムには、スタジオやプール、サウナなどは設けられていないが、マシーンで体を鍛えたい人にとって、「はじめの一歩」が小幅で済むのは、実に嬉しい。

 筆者が通うことにしたジムの月会費は、25ドル(約2,700円)。にも関わらず、ニューヨーク市周辺にある50店舗以上の同列店に行き放題で、事前予約すれば会員ではない人を無料で1人同伴できる。さらに、ジムへの入会手続きも、日本のような印鑑や通帳(元々存在しないが)、身分証明書などの持参や、面倒な申込用紙への記入は必要なく、受付にある機械の画面に顔写真、名前、住所などを登録し、支払いに使うカードを通せば、その場で全ての手続きが完了するのだ。

 実際の利用時にも、ハードルの低さは感じられる。

 例えば、先述したような他店舗を利用できるプランに入ると、その日の活動動線によって、ジムを自由に使い分けることができる。そのためか、街をランニングしている途中にふらっとジムに寄る人も多く、入口からマシーンへ直行し、筋トレが終われば、再びランニングに戻っていく利用者をよく目にする。

 また、早朝5時ごろから営業していたり、店舗よっては、平日は24時間オープンの場所もあるため、“ハイソ”に「ストイックさ」が兼ね備わる人は、仕事の前に最寄りのジムで汗を流してから会社へ向かうこともできる。筆者が通うジムは年中無休でもあるため、なぜか定休日になると体が「ジム日和」になるという日本の「ジム利用者あるある」も、ここには存在しない。

 こういったスポーツクラブの他にも、ニューヨークには登録や予約なしで行ける1レッスン7ドル程度のヨガ教室なども点在しており、ニューヨーカーにとって運動は、「コーヒー」を飲むのと同じくらいの感覚で、生活に溶け込んでいるのだ。

◆冷凍食品企業が冷凍ピザを野菜であると主張!

 先述した“ハイソ”な条件に挙げた「サラダボール」も少し紹介しておこう。

 ニューヨークには「サラダボール専門店」が至る所に存在し、昼時になると店内はその「一球」を求めてサラリーマンが長い行列を作る。サラダの「葉っぱ」の種類から、トッピング、ドレッシングに至るまで自分で選べるため、好きな野菜だけを食べられるのがいい。

 こうしたサラダボールをランチに選ぶと、むろん、メインがサラダになるのだが、その付け合わせにはスープやパンひとかけ、さらには「さすがはアメリカ」ともいうべきか、ポテトチップスのミニ袋が付いてくることもある。せっかく健康的なものを食べているのに、そこらへんは全く意味が分からない。

 一方、肥満大国という真逆の顔も持つアメリカでは、やはり油っこい料理やジャンクフードが数多く存在する。ファストフード店はマクドナルドだけでも全米に14,000店舗あまり。全世界に展開する35,000店舗の半分弱がアメリカにあることになる。

 現在アメリカでは、国民の実に3人に1人以上が肥満であるとされているが、どれだけジムの料金を下げても、施設内を見てみれば、利用者のほとんどは「標準体型」か「筋肉質」で、筆者が見る限り、本当に痩せないといけない人はジムには来ていない。

 これに対し各州や市では様々な対策を取り組んでいる。2015年、カリフォルニア州のバークレー市ではソーダ税、アリゾナ州・ユタ州・ニューメキシコ州にまたがるナバホ自治区ではジャンクフード税が導入され話題となった。

 ある日、某ファストフード店で「忙しくて仕方ないけど、最近ここのハンバーガーばかりで飽きた」とぼやくアメリカ人の友人に、筆者が「野菜を食べろ」と諭したところ、「ケチャップもフライドポテトも野菜じゃないか」というまさかの反論に遭った。筆者は笑いながら「さすがアメリカ」と受け流そうとしたのだが、実は彼の言葉には根拠があったのだ。それは、2011年、アメリカの議会が「ピザは野菜である」と認定したと騒ぎになったことにある。

 当時ファーストレディだったミシェル・オバマ夫人が、ジャンクフードばかりを食べ、肥満化する子どもの食環境を改善するべく立ち上がったのだが、これに冷凍食品企業が猛反発。8分の1カップ(大さじ約2杯)のトマトペーストは、他の野菜2分の1カップの栄養価と等しいというデータから、同量のトマトペーストを使用した公立学校の学食で支給されている「冷凍ピザ」は、「野菜(料理)だ」と議会で認定され、物議をかもしたのだ。

 この裏には、やはりと言うべきか、冷凍食品企業の利権が絡んでいるのだが、大さじ2杯のトマトペーストを使う料理が「野菜」であると主張する声もあれば、わざわざ早朝からジムへ行き、仕事前に汗を流そうとするサラリーマンもいることを考えると、この国の「健康」のバラつきが滑稽にみえて仕方ない。なるほど、前出のポテトチップスのミニ袋も、野菜と処理すれば合点がいく。

 だが、日本の「生活保護」に近い「フードスタンプ(低所得者向け食料支援サービス)」の受給者と肥満の多い地区に、ある一定の相関があることや、公立学校で増える肥満児とジャンクフード支給、そしてジムに肥満がいないという現状を見ると、皮肉なことを言っている場合でも無いような気がしてならない。先進国の肥満、貧困、ジャンクフードの蔓延は、同じ「健康問題」という枠の中で静かに国民を蝕み続けている。

【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。その傍ら日本語教育やセミナーを通じて、60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流を持つ。ニューヨーク在住。

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