サウジで建設中のスペイン高速鉄道、運行開始までに駅舎が出来るところは皆無とほぼ確定

 本サイトでも度々報じているスペインが受注したサウジの高速鉄道(AVE)、「ハラマイン高速鉄道」(参照:「スペインが受注したサウジの高速鉄道計画が難航。原因は『砂漠の砂』」、「砂問題で難航中のサウジ高速鉄道。建設を請け負うスペインのコンソーシアムは内部分裂状態に」、「スペイン受注のサウジ高速鉄道。砂漠の砂、コンソーシアムの内部分裂に加えて巨額の未払金発覚」)

 過去の記事の見出しを並べただけでもその混乱ぷりが伝わってくるが、この「砂漠の砂」問題、2012年に受注して建設工事が続けられているがいまだに解決しないままでいる。

 その為、今年3月にスペイン企業12社から成るコンソーシアムは線路に積もった砂の量によって時速120km、50km、5kmという3段階のスピードで走行することを決定したという。砂の溜まり具合が線路を覆うほどでない場合は時速150km、線路をほぼ覆うだけの溜まり具合であれば時速50km、そして線路を完全に覆う高さだと時速5kmとされた。5kmというのはほぼ歩行に匹敵するスピードである。一方、砂の堆積問題のない箇所は最高時速350kmの走行になっている。(参照:「El Independiente」)

◆アイデアは出ても何も実行されず

 コンソーシアムの間でも、砂の問題を解決せねばならないエンジニア企業Inecoに他社から批判が集まっているという。コンソーシアムの中の3社が当初線路の傍に防禦壁を設けるという提案をしていたが、現在もそれが実行に移されていない。また、他にもさまざまなアイデアは出ている。例えば、段差の砂を高く積んで、その背後に塹壕のような堀りを設けるという案。他には、砂漠で生息できる植物を植林するというのは効果があるということは他の砂漠で実証されているという。しかし、それが成長するまで時間がかかるという理由で植林も実施されていないなど、対策は色々あっても何も実行に移されていないというのが現状であるという。

 Ineco側が対策で出してきたのは、線路に一定間隔でセンサーを設置して砂の溜まり具合を事前にチェックすると言うプランだ。しかし、センサーも砂の影響で機能しないということが判明している。その為、結果的には砂の溜まり具合を列車の運転手が見て判断するということになったようだ。そして、それは運転手がやるべき業務ではないとして不満も出ているという。

 サウジ側から今回のプロジェクトのスーパーバイザーとして認定されているドイツ鉄道ドイチェ・バーンもスペインのコンソーシアムがこの砂の問題を解決できないにも関わらず、できるだけそれを表沙汰にせず沈黙を守ろうとしている姿勢を強く批判している。

◆プロジェクト参加企業では賃金未払いも

 この問題に加えて、昨年10月からサウジ側でコンソーシアムに1億ユーロ(130億円)の支払いが遅延している影響で、このプロジェクトに参加している一部企業で従業員に給与が払えず問題になっていることも明るみになっている。

 9月11日に予定されている双方のトップレベルの会合でこの問題を解決させたいとコンソーシアムは望んでいる。

 一方、工事は現在順調に進んでおり、年内に運行が可能になる予定だとしている。当初、線路の土台の建設を担当した中国とサウジのジョイントベンチャー企業に完成の遅れが出た上に、砂の堆積問題などが理由で、今年1月から運行予定だったのが遅れていた。サウジ側の了解を得て2018年3月15日までに運行するとこととなった。コンソーシアム内部でもトップが代わってから工事は予想していた以上のスピードで進み、年内の運行が可能になっている。

◆サウジ側の施工する工事にも問題が……

 また、この問題とは別に、駅の建設の遅れも問題になっている。ジェッダ駅と空港を繋ぐ駅を加えて全部で5つの駅が建設されており、総工費は20億ユーロ(2600億円)。メディナ駅が一番最初に完成する予定だというが、工事が著しく遅れているのだ。

 これはサウジ側が建設を担当していて、スペインのコンソーシアムは関与していない。高速列車が運行開始するまでに駅の建物が完成するところは皆無だと推測されている。メッカ駅はゴールド、メディナ駅はグリーン、ジェッダ駅はパープル、アブドラ前国王に因んだKAEC駅はブルーとシルバーがそれぞれ基調色となっている。どれもサウード家の豪勢さを誇る豪華な建物になるとしているが、完成しないのであればあまり意味がないだろう。

 メッカ駅とメディナ駅は、アルカイダのリーダーだったウサマ・ビン・ラディンの家系グループの企業が建設の担当をしていたが、会社は倒産して8万人を解雇するというハプニングもあった。現在はトルコとサウジの企業によるジョイントベンチャーで建設が続けられている。

 このプロジェクトの受注にはスペイン王家から当時国王のフアン・カルロス1世が態々サウジを訪問してアブドゥラ前国王(当時国王)と会談してAVEの受注を背後から支援したという経緯もあった。ライバルはフランスの高速列車であった。オファー価格はフランスのそれよりもスペインが2割安価であったそうだ。

 あの時点では、勿論、砂漠の砂の問題がこうまで複雑になるとは誰も想像していなかったようである。


<文/白石和幸  Photos by courtesy of Foster + Partners LtD>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

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2017年9月6日の国際総合記事

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