タイで星を掴んだ男・下地奨が語る「金持ち選手、貧乏選手」(1)

タイで星を掴んだ男・下地奨が語る「金持ち選手、貧乏選手」(1)
現在、タイのプロチーム「BECテロ・サーサナFC」でプレーする下地奨

 数か月前に当サイトで、サッカー選手としては特異な金銭感覚を持つカレン・ロバートを取り上げ好評をいただいたが、取材の際に彼から次のような言葉が出てきた。

 「インドでいえば遊佐君がそうだし、タイなら下地君みたいな選手もいますからね。日本以外にもサッカーで稼げる国が沢山あるということですよ」

 ということで今回はこの「下地君」、下地奨選手にご登場いただこう。2017年6月から、彼はタイ三部のウドンタニFCに所属し、今やJリーグ時代の数倍もの年棒を稼ぎ出すスター選手だ。

 しかし、そんな下地の歩んできた道は、回り道に回り道を重ねたものだ。大学卒業後サガン鳥栖に入団、その後パラグアイ、ブラジルと渡り歩いたが全然稼げず、数年前までは生まれたばかりの子供を抱えていたこともあり銀座でボーイをしていた。そのときに彼が見たのは、「お金をきちんと稼ぎ、かつカッコいい男たち」だった。

 「今まで夢とかなんとか言っていたけど、夢があっても稼げてないオレみたいな男ってカッコ悪いなと思いましたよ。サッカー選手って、少なくともオレの周りにそういうのがいなかったんですよ」

 一体、下地はそんな銀座の男たちのどこを「カッコいい」と思ったのだろうか。

 「当たり前ですけど、銀座で遊んでいる男たちって、きちんと稼いでいるわけですよね。稼いでいるからこそ、当時の僕と違って家族も守れている。でそういう人に限って店の女のコに手を出したりとかお行儀が悪いことはしないんですよ。店のママも楽しませて、場を盛り上げて、さっと引き上げるんだけどボトルは入れて帰って行くみたいな。オレもああならなきゃと思いましたよ」

 同じ意味で、下地は南米で強烈な矛盾を実感していた。

 「ボランティアも否定しませんよ。パラグアイやブラジルで、僕は散々ストリートチルドレンも見てきました。親は何やってんだと思いますよ。救ってあげたいなと思いましたけど、まず僕が救われてないんですよ。稼げてなくて、食えてなくて、自分の子供にひもじい思いをさせているわけですから。やっぱり、まず自分が稼がないと。ボランティアなんかその後ですよね。……って、やっぱりボランティアを否定してるけど」

◆稼げるサッカー選手になる術は指導者は教えてくれない

 こうして銀座のボーイだった下地は、自分なりにお金の勉強を始めた。

 「真っ先に読んだのは、あまりにもベタですけど“金持ち父さん、貧乏父さん”でしたね。当時の僕はブラジルから戻って来たんですけど、本場のブラジルでやっていたんだし、まあ日本でクラブくらいあるだろうと思っていたんですよ。五チームくらい話して、全滅でしたからね。“あ、オレ需要ないんだ”と。預金残高が40何円かで、コンビニでおにぎりも買えないんですよ。しょうがないからヤフオクとかで持ち物売って、ぎりぎり食いつなぎながら、どうせ仕事しないといけないならただのバイトじゃなくて銀座でのほうが面白いかなと。時給は1700円でしたかね。そのときに“金持ち父さん”を読んで、何を書いていたか覚えてないけど衝撃だけはすごかったのを覚えてますよ。」

 筆者が「金持ち父さん」を初めて読んだのは、忘れもしない2000年12月末だった。

 当時米国の大学で学んでいた筆者は、一か月の冬休みに際し、帰国費用とバスによる全米一周旅行の費用を比べてみるとむしろ全米一周のほうが安いことに気付いた。そこで全米を網羅するバス会社・グレイハウンド乗り放題パスを購入し、旅に出た。そして、ボストンのターミナルで買ったのが原書版「金持ち父さん」とその隣にあった「となりの億万長者」だった。

 筆者にとっては「となりの億万長者」のほうがインパクトが大きかったのだが、「金持ち父さん」も十分に衝撃的だった。未だにはっきりと覚えている部分が二カ所ある。

 「貧乏父さんは、子供がいい就職先を得るために履歴書の書き方を教える。金持ち父さんは、銀行から融資を引っ張ってくるための事業計画書の書き方を教える」

 貧乏人と金持ちでは教育と思考の内容が全く違うのだ。筆者に事業計画書の書き方を教えてくれる金持ち父さんはいなかった。……というか、よくよく考えてみると筆者には“父さん”そのものがいなかったが、それはまた別の話だ。

 もう一つはマクドナルドの話だ。

「私がセミナーの受講生に、この中でマクドナルドよりも美味しいハンバーガーを作れる人は手をあげて、というと大部分が自信たっぷりに手を挙げる。でも、ではなぜマクドナルドほどのチェーンを作れていないのかと聞くと、全員下を向く」

 下地は言う。

 「そういうことなんですよ。サッカーでも全く同じなんですよ。たとえばね、僕とクリスティアーノ・ロナウドとでは収入が千倍かそれ以上違いますよね。では僕と彼でフリーキックの精度が千倍違うのか、というとそこまで違うわけではないんですよ。やっぱり彼は世界中が見たいと思っている、注目を惹きつけられるから稼げるんですよ。今思えばですけど、サッカーの指導者って技術がどうとか、テクニックがどうとか、そういうことは沢山教えてくれましたけど、稼げるサッカー選手になるにはという観点からは何も教えてくれなかった気がします」

 次回、下地奨の視点をさらに深堀りしていきたい。

【タカ大丸】
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)は12万部を突破。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。
 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。公式サイト

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