「改正鉄道軌道整備法」可決。それでもなお一筋縄ではいかない被災鉄道復旧の現実

「改正鉄道軌道整備法」可決。それでもなお一筋縄ではいかない被災鉄道復旧の現実
2017年7月の九州北部豪雨の影響で現在も添田~夜明間の不通が続くJR九州の日田彦山線。  写真/HAYABUSA / PIXTA(ピクスタ)

 モリカケに働き方改革、カジノ実施法案などが注目されている国会。そんな通常国会会期末の6月15日、とある法律の改正案が参院本会議で全会一致により可決・成立した。その法律とは、鉄道軌道整備法。震災時の鉄道復旧に大きく貢献すると言われているが、その改正の中身はどのようなものなのか?

◆赤字路線の復旧は誰がすべきか

 これまで、災害によって被災した鉄道路線は赤字事業者であれば国の補助を得て復旧することができた。しかし、黒字事業者の運営路線の場合は、被災路線そのものがどれだけの赤字だろうが無関係。国の補助は得られず、それが復旧の足かせになっていたのだ。

 鉄道に詳しくないとピンと来にくいかもしれないが、黒字事業者が運営する赤字路線はかなり多い。そもそも、JR東日本や東海、西日本、さらに大手私鉄各社はいずれも超のつくほどの優良企業だ。鉄道事業に限らず、関連事業を含めれば莫大な黒字を叩き出している企業が多い。

 ところが、これらの事業者が運営する路線にも赤字路線は少なくないのだ。例えば、JR東日本。新幹線や首都圏を走る通勤路線はいずれも黒字だが、東北地方の山奥を走るローカル線はほとんどが大赤字である。そして、こうした路線がひとたび自然災害で被害を受けると、JR東日本が黒字企業であるという理由から国の補助が得られず、復旧が滞ってしまうというわけだ。

 もちろん、「儲かっているんだから、ローカル線くらい復旧させればいいのに」と思うのも無理はない。事業者だって、できれば被災したままの状態で廃止にはしたくないはずだ。ただ、復旧には数億円規模のコストがかかるだけでなく、復旧後もよほど状況が改善されない限り赤字を垂れ流すばかり。民間、それも上場企業であれば、おいそれと復旧に踏み切れないのも理解できる。

 これまでも、こうした制度の壁が理由で復旧に時間がかかったケースがあった。例えば、JR東海の名松線だ。‘09年10月の台風18号で末端区間の家城~伊勢奥津間が長期間不通となっている。JR東海では、当初この区間を廃止してバス転換する意向を示していた。そのまま復旧してもまた自然災害に見舞われれば同じことの繰り返しになるというのがその理由だった。しかし、沿線自治体は反発。結局、沿線自治体が災害不通を繰り返さないための治山治水工事を進めることで、JR東海も路線を復旧させることで合意、‘16年3月に約6年半ぶりに運転を再開したのだ。

 また、先日復旧に向けて工事がはじまったばかりのJR只見線も同様。こちらは復旧後も利用状況が改善されなければ赤字が続くことをJR東日本が懸念し、長く沿線自治体との協議が続いていた。こうしたなか、福島県や沿線自治体が復旧コストの一部を負担、さらに復旧後は線路などの施設の譲渡を受ける“上下分離”方式をとることになった。JR側の運行コストの負担を低減させるほか、利用促進にも取り組むことを表明し、復旧決定にこぎつけている。

◆復旧に二の足を踏む事業者

 これまで、被災した赤字ローカル線は事業者が黒字であるがゆえに復旧が進まないというジレンマに陥るケースが続いていた。今回の鉄道軌道整備法の改正は、この問題を解消するためのものだ。

 改正鉄道軌道整備法の成立により、黒字事業者の路線でも、①「激甚災害かそれに準ずる大規模災害」、②「路線自体が赤字で復旧費用は当該路線の年間収入を上回る」などの条件を満たせば、国が補助することが可能になった。

 さらに、国の補助率は地方公共団体と同額、復旧費用の4分の1が基本だが、只見線のように上下分離などで運営形態が変更される場合は3分の1まで引き上げられるという特例つき! 被災路線を抱えている沿線にとっては、朗報以外の何物でもない法改正なのである。

 現在も、JR九州の豊肥本線や日田彦山線など「事業者は黒字だが赤字路線がゆえに復旧が困難」という状況の路線がある。この改正鉄道軌道整備法成立によって、これらの路線の復旧にはずみがつくという期待も膨らんでいるのだ。ただ、一方で事態はそれほど簡単ではないという見方もある。ある鉄道関係者は言う。

「事業者にとって、一番の問題は復旧コストではありません。名松線や只見線の例でもそうでしたが、問題は復旧後に再び自然災害で同じ事態を繰り返すことや、復旧後も利用者が回復せずに赤字継続、さらに拡大してしまうこと。特に、ローカル線沿線は人口が少なく自家用車による公共交通に頼らない移動が定着しています。長期にわたる運転見合わせが一層鉄道離れを促進し、運転再開しても利用者は以前の水準に及ばないことも珍しくない。こうした事態が予想できる限り、いくら国が補助してくれるといっても簡単に事業者が復旧に踏み切るとは思えません」

 実際にこうした事態になりかねないのが、JR九州の日田彦山線。昨年7月の九州北部豪雨の影響で現在も添田~夜明間の不通が続いている。この区間について、JR九州サイドはバス転換も想定に入れた上で沿線と協議を進めたい構え。しかし、沿線自治体はJR九州による鉄道としての完全復旧を求めており、折り合いがつく気配はない。

「JR九州は一昨年秋に上場したばかり。そのため、膨大なコストをかけて赤字路線を復旧させることに対して、株主への配慮もあるのは間違いないでしょう。そもそも“需要が極めて低いものに膨大なコストをかける”ことがおかしい。今回の法改正で国の補助が得られるようになったとはいえ、国民の税金ですから、何の見通しもなく復旧に踏み切ることは難しいですよ」(前出の関係者)

 たしかに、今回の法改正によって「被災鉄道は何があっても国のお金で復旧してくれる」と思うのはあまりにも早計だ。赤字路線を簡単に黒字化することは難しいだけに、地域にとってどれぐらい路線が必要なのか、そして復旧後にどう利用促進に取り組んでいくのかを、事業者と沿線自治体、住民たちがともに考えて結論を導いていく必要があるだろう。

 先日起きた大阪北部地震を見てもわかるとおり、鉄道機能が停止したときの影響は多大だ。では、そんな鉄道が被災したとき、いったい誰が直すのか? 台風やゲリラ豪雨が頻発する季節は目前に迫っている。決して他人事な話ではないのだ。

<取材・文/境正雄>

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