杉田水脈議員「生産性」信仰の萌芽は、カリスマ公務員時代に傾倒したサッチャーとNPMにあり

杉田水脈議員「生産性」信仰の萌芽は、カリスマ公務員時代に傾倒したサッチャーとNPMにあり
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“(株)積水ハウス・シャーウッドを経て、西宮市役所へ就職。外部の勉強会や海外視察の経験を経て、2005年には勉強会「西宮スーパー公務員塾」を開催し、参加した公務員や学生などに大きな影響を与える。現在は専門とする次世代育成や自己啓発の分野をはじめ、様々な分野で全国的な講演や著書の出版などのマルチな活動を展開している。巧みな話術と魅力的な人間性で多くの聴衆をすぐに惹きこんでしまう、カリスマ公務員。95年の阪神淡路大震災では被災を経験。歌唱力もカリスマ級。ヒーロー戦隊モノに対する造詣の深さは学者級。1児の母。”

 これは怪文書ではない。2008年に都内で開かれた杉田水脈衆議院議員(当時は西宮市職員)の講演会での講師紹介文だ。

「次世代育成や自己啓発」を専門とし、「カリスマ公務員」と呼ばれていたらしい趣味多きこの女性は、この10年後、「『LGBT』支援の度が過ぎる」と題した人権意識のかけらもない文章を『新潮45』本年8月号に寄稿したことをきっかけに、性的マイノリティーのみならず多くの国民からの批判を浴びることになる。約5000人が集まった7月27日の自民党本部前抗議を皮切りに全国各地で杉田議員に辞職をもとめるデモが起き続けており、国民の怒りの声は一向にやむ気配はない。

 また普段ならば杉田議員の意見にこぞって同調する保守派の政治家・言論人ですら、もう擁護しきれないと大半が匙を投げているかのようで、徳島文理大学教授の八幡和郎氏のように、杉田議員を批判するメディアに批判の矛先を振り向けることで問題の本質を覆い隠そうとするアクロバティックな擁護論を展開したり(参照:アゴラ「NHK、朝日、文春が揃って杉田水脈の“人権蹂躙”」)、「杉田氏の考え方は柔軟だから、これから、あまり政治的に声が大きくない特殊な悩みを抱えている人たちの良き理解者になるとも期待したい」などと、同姓同名の別人ではないかと思われるような設定の人物についての与太話をしたりするのがせいぜいのようだ(参照:アゴラ「杉田水脈をなぜ偽リベラルはそんなに怖れるのか?」)。

 それにしても、かつてのカリスマ公務員はなぜかくも多くの人々から反感を買い、多数のデモを誘発するに至ったのか。

◆杉田水脈議員の26年前の論文

 ここに「都市近郊林について(I) ―箕面国定公園の利用についての意向調査―」と題した論文がある。

 今をさかのぼること26年前、杉田議員が改姓前の吉岡水脈の名前で、鳥取大学在学中の指導教員との共著の形で発表したものだ(『鳥取大学農学部演習林研究報告』第21号、1992)。現在ネット上に全文が公開されていて誰でも読むことができるが、その存在はほとんど知られていない。

 それもそのはずで、タイトル通り大阪府箕面市にある箕面国定公園の来園者に対して89年10月に行ったアンケート調査の報告と分析という地味な内容のものだ。公式サイトによると杉田議員は90年に鳥取大卒業、’92年より西宮市役所勤務とあるから、おそらく授業での発表か、卒論の一部を卒業後にまとめたものだろう。教員が共著者となっているのも大学が発行する紀要の慣行に基づくものだろうから、当該論文での調査と分析は杉田議員が主導的に行ったものと受け止めておきたい。

 さて、専門の研究者が書いたものではないので、具体的にどういった文言でアンケートが行われたのかが充分に示されていないなどといった不備にはこの際、目をつぶろう。このアンケートには来園目的・同伴者・気に入った場所・再来園の意思・今後期待するもの・入園料の6項目があったようだが、注目したいのは公園への入園料を取ることの是非についての設問だ。

 アンケート結果は「反対が69.7%、賛成が10.8%」とされているが、この数値はどういうわけか論文中に掲げられている帯グラフとは齟齬がある。その帯グラフの面積から算出すると概ね賛成18%、反対69%、わからない・無回答13%となる。首をかしげるほかないが、ともかくも大半が入園料徴収に反対という、わざわざアンケートをとるまでもない結果が出たこと自体はおそらく事実なのだろう。

 ちなみに箕面国定公園の総面積は963ha。その広さは東京ドーム約205個分におよぶ。アンケートには「どこからでも入ることができるため入園料をとることは無理」というじつに冷静なツッコミも書き込まれていたようで、設問自体に少々無理があったようだ。

 公園入園料に関して、論文中では以下のように書かれている。

 “施設の整備にはそれなりの予算が必要となる。近年,公共施設での費用に関して受益者負担を求める傾向がみられるようになった。しかし,本公園における設備のための費用については大部分が反対しており,少なくとも現時点では,受話者負担の考え方でいくのは利用者の減少にもつながり無理のようだ。”

 杉田議員がアンケート調査を実施した89年は環境庁(現環境省)が尾瀬の環境保全を目的として日光国立公園への入園料徴収を検討し(ただし反対意見が多く実現せず)、また大阪市が天王寺公園の有料化方針を決めるなど、たしかに公園の受益者負担をめぐる議論が盛んな時期だった。杉田議員が入園料徴収の是非についての設問を立てたのも、おそらくそうした報道等に触発されたものだろう。

◆マーガレット・サッチャーとNPMへの傾倒

 ’92年の西宮市職員への転職と、同年発行の当該論文におそらく直接的な関係はないだろう。しかし、公園整備のために受益者負担の観点から入園料を徴収するという発想そのものは、当時のトレンドにぴたりと符合する。

 80年代からいまに続く日本の行政改革は一貫して「小さな政府」を志向してきた。公費支出を削り、受益者負担を増大させることで財政健全化を図るというのは杉田議員の公務員時代を通じて国および地方自治体行政の基本的な構えだ。

 学生時代から公共施設維持のコストについて朧気ながら考えていたらしい杉田議員が、公務員時代に傾倒したのが、マーガレット・サッチャー元英国首相とNPM(ニューパブリックマネジメント)だったのも当然の帰結だろう。

 2012年4月、2年前に公務員の職を辞し、国政選挙出馬に向けた地固めを行っていた彼女は、メリル・ストリープ主演の映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』を鑑賞し、その感想をFacebookブログに投稿している。

 “マーガレットサッチャー、見終わりました☆実は私、かなりのNPM(ニューパブリックマネジメント)被れで、自治体職員時代からサッチャーの政策をかなり研究しました。”

“ご縁をいただき、行政評価の本を書かせていただいたり、実際にNPMの視察にイギリスまで行かせて頂く機会にも恵まれました。改めて、サッチャー改革の素晴らしさ、そしてそれをやり遂げ、見事国力を復活させたイギリスの偉大さに心から感動しました。それ以来、ずっとサッチャーさんの大ファンです。”

 NPMとはサッチャー時代(1979-90年)のイギリスが新自由主義的な行政改革(民営化推進、規制緩和、福祉政策の見直しetc.)を進めた際に取り入れた考え方で、企業経営の理念や手法を公的部門に導入することで行政の効率化をはかろうとするものである。ずいぶん前からよく耳にする「民間ではありえない」という物言いの根底にあるものこそNPMの発想だ。その「NPM被れ」だったという杉田議員による「研究」の成果は、彼女自身も言うように、確かに書籍として公刊されている。

◆公務員時代の自治体行政改革論文

 2005年に東洋経済新報社から刊行されたINPM行政評価研究会著・石原俊彦編著『自治体行政評価ケーススタディ』の巻末には、第二章「自治体行政評価の変遷―わが国先進事例の比較分析―」の著者として「西宮市健康福祉局福祉部子育て支援グループ係長」「杉田水脈」の名が挙げられている。

 この論文は、自治体行政へいち早くNPMを本格導入した北川正恭知事時代の三重県など複数の自治体の事例を紹介しながら、90年代以降の日本の地方行政改革の展開を整理した概論的なもので、付記によれば杉田議員が当時参加していた勉強会やメーリングリスト等での学習成果をまとめたものらしい。それだけに先の’92年時の論文に比べて文章もこなれていて、論旨も明快だ。

 同書は大部分が各地の自治体職員によって書かれている。著者名は「INPM行政評価研究会」となっているが、巻末の著者紹介では「株式会社INPM」と記されている。株式会社INPMは株式会社アイネスが2002年に設立した関連会社のようで、NPMの観点に基づく自治体行政改革のコンサルティング業務等を行っていた。ただし2007年以降目立った活動は確認できない。なお、編者の関西学院大学教授石原俊彦氏は同社のフェローでもあったようだ。

 彼女がいかなる経緯で本書に執筆することになったのかは不明だ。しかし外来語が多用された当該論文を読む限り、この時期の杉田議員は自治体行政改革への情熱を持つ〈意識高い系〉の「カリスマ公務員」という、本稿冒頭に引いた講師紹介文のイメージそのままの人のように見える。2014年にはインタビューで、公務員時代には講演等で「全国色々な所に行っていて土日は殆ど家に居なくて」とも語っているが、現在ネット上に残る情報を拾うだけでも、以下に示すように2005年頃より精力的な活動を行っていたことがわかる。(参照:「会いに行ける国会議員 みわちゃんねる 突撃永田町!」)

05年9月   勉強会「西宮スーパー公務員塾」を5か月間開催
05年10月23日 日本政策学生会議2005 ゲスト参加
06年3月   英国自治体への行政視察 ※石原俊彦・稲澤克祐編著『自治体職員がみたイギリス』(関西学院大学出版会、2008)に杉田議員によるロンドンのファッション事情に関するエッセイ掲載(第13章)
07年6月16日 講演「現場からの組織改革~西宮からのメッセージ~」
08年3月27日 「総合化へ向かう少子化政策」 総合的な少子化政策にかかわる職員、事業者、市民らによるリレートーク登壇者
08年9月20日 講演「ちゃいるど・ノンパ ~意識改革から行動改革へ~」
10年5月30日 講演「『次世代を育成する』ということ~公務員から次のステップへ進む、杉田さんを迎えて~」

 新自由主義に傾倒するカリスマ公務員だった杉田議員は、この時点ではまだ極右的発言や左派的なものへの苛烈な憎悪は明らかになっていない。

 次回、この「コストカット思考」と左派的価値観への憎悪が結びつき、現在の彼女に至るまでの後編は近日公開予定!

<文・GEISTE(Twitter ID:@j_geiste〉>

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