杉田水脈議員、ネオリベと反左翼の果てに辿り着いた“保守のジャンヌ・ダルク”

 杉田水脈議員は、公務員時代にサッチャーとNPMに傾倒していたことは前回言及したとおりだ。しかし、そんな杉田議員だが、公務員を辞めてから今に至る過程で、ネオリベ思想に加えて、「右派思想」へも歩み寄っていくことになる。(前回参照:杉田水脈議員「生産性」信仰の萌芽は、カリスマ公務員時代に傾倒したサッチャーとNPMにあり

◆「市民と取っ組み合い寸前」の意味

 8月3日の神戸新聞の報道「市民と取っ組み合い寸前 問題発言の杉田水脈議員、市職員時代から騒動」を受け、八幡和郎氏は杉田議員が公務員時代に起こした「取っ組み合い寸前」騒動の顛末について、杉田議員側の情報に基づいて以下のように記している。(参照:アゴラ「NHK、朝日、文春が揃って杉田水脈の“人権蹂躙”」

“保育所民営化を議論する健康福祉委員会で、中核派の活動家を支援するために、全国から仲間が集まり、傍聴席に座わり、ヤジを飛ばしていたので、係長だった杉田水脈が傍聴席に「ヤジは辞めてください!」と注意した。

すると、委員会終了後、傍聴席にいた活動家に囲まれ、「お前はなんの権限があってあんなことを言ったんだ!」「ルールを守らないから注意したのみ」「なんだと!貴様!」と、掴み合いになりそうなところを上司に押さえられたという事件のことらしい。”

 前回まで見てきたように新自由主義的な行政改革を信奉していた杉田議員の眼には、保育所民営化は絶対的に正しい政策として映ったはずだ。だがいくら傍聴者の不規則発言があったからといって、当時、自治体職員の杉田議員が委員長を差し置いてそれを注意するというのは、それ自体が明白な不規則発言であって、これも例によって何の擁護にもなっていない。

 この騒動と関係するかどうかは不明だが、杉田議員は公務員を辞めた直後の2011年より、関西を拠点に複数の民営保育園を運営する株式会社セリオの顧問を務めている。ちなみに同社は国家戦略特区の規制緩和により、17年10月に豊中市立ふれあい緑地に保育所を設置した事業主体でもある(参照:建設ニュース「あけぼの会とセリオを選定/民間保育所を誘致する設置・運営者の公募/豊中市」)、関西広域連合「特区について」)。

◆自称保守界のジャンヌ・ダルクへ

 2010年5月に公務員を辞職し、政治家への道を歩みはじめた杉田議員は、みんなの党の支部長を務めるかたわら当時吹田市議であった神谷宗幣氏が2010年に設立した政治団体である龍馬プロジェクトの初代女性局長(10年9月より)となり、同プロジェクト編・岬龍一郎監修『100人の龍馬―地域から政治改革のうねりをつくる』(PHP研究所、2010)には「未来をつくる仕事」と題する文章を寄稿している。

 2012年12月の衆院選で日本維新の会より立候補し初当選を果たす(比例復活)が、日本維新の会の分裂後、次世代の党の公認候補として迎えた2年後の衆院選では最下位落選、現在の地位は17年10月の衆院選で自民党の中国ブロック比例単独候補として当選したことによる。

 初当選前から現在まで関係の深い龍馬プロジェクトは保守色の強い団体であり、また次世代の党所属議員などからの影響もあって、杉田議員は次第に右派的な傾向を強めていったものと思われるが、彼女の初期のブログやSNS上の発言を読む限り、労働組合や市民活動、共産党などへの違和がときおり表明されている程度で、後年のような左派的なものへの苛烈な憎悪は見られない。

 杉田議員とは初当選同期の河野正美元衆院議員は『週刊文春』の取材に対し、杉田議員から「維新の先輩たちから言われて、予算委員会で右寄りの質問をしなければならない」と相談を受けたと証言している(『週刊文春』8月9日号)。おそらくこれは杉田議員が慰安婦問題を初めて取り上げた13年4月1日の予算委員会のことだろう。

 杉田議員が右派的言説に過剰に傾倒していくのはちょうどその頃からで、翌14年からは『JAPANISM』『Will』『正論』といった保守論壇誌に露出するようになり、アパ日本再興財団主催の「真の近現代史観」懸賞論文で杉田議員は最優秀賞を獲得することになる。その後の活躍は周知の通りで、彼女は保守派のアイドルとして祭り上げられてゆき、味わい深いコラージュ画像まで出回るようになる。

日本の政治を前に進めましょう。時計の針を巻き戻し、20世紀に戻るのは民主党政権で懲りたはず。
台湾やインドの動きに呼応して、香港にもエールを送り、新しい時代を動かしましょう。 pic.twitter.com/BO485pJW7H

— 西村幸祐 (@kohyu1952) 2014年12月4日“日本の政治を前に進めましょう。時計の針を巻き戻し、20世紀に戻るのは民主党政権で懲りたはず。
台湾やインドの動きに呼応して、香港にもエールを送り、新しい時代を動かしましょう。”

 ただし元の画像はエリザベス1世の伝記映画『エリザベス:ゴールデン・エイジ』(2007)のワンシーン、また画像に書き込まれた「FOLLOW ME!!」の元ネタは『ジャンヌ・ダルク』(1999)でミラ・ジョヴォヴィッチ演ずるジャンヌのセリフであるから、カオス過ぎてもはや何が何だかわけがわからない。ただそうした点も含め、この画像には自称保守界隈の杉田議員に対する得体の知れない期待感が込められていることは間違いなく、評論家の西村幸祐氏も意気揚々と同画像を拡散している。

◆新自由主義と反左翼の果てに

 いくつもの政党を渡り歩いてきた杉田議員だが、彼女の思考は「カリスマ公務員」時代から現在まで、あらゆる物事を徹底してコスト意識で捉えるという点で一貫している。問題となった「生産性」が典型的だが、同様の見解は2年前に『新潮45』に寄稿された「「LGBT」支援なんかいらない」ですでに示されている。

“国や自治体が少子化対策や子育て支援に予算をつけるのは、「生産性」を重視しているからです。生産性のあるものと無いものを同列に扱うのは無理があります。これも差別ではなく区別です。”
“(LGBT支援は・引用者注)人手を割いて取り組むほど重要な課題ではありません。もっと一般の市民の方々の生活に直結する問題でやらなければいけないことがたくさんあるはずです。”
“このままいくと日本は「被害者(弱者)ビジネス」に骨の髄までしゃぶられてしまいます。”

 杉田議員は自身が差別に加担し、人権を侵害しているという意識がきわめて薄い。自分が問題にしているのは、あくまで公的支援の是非、そしてマンパワーも含めたNPM的なコストマネジメントだと考えているようなのだ。今年2月以降の科研費騒動(参照:HBO「足立康史衆院議員による是枝裕和監督『万引き家族』と科研費バッシングへの対応の圧倒的な正しさ」)も当人にとっては単に税金の使途を追及しているだけのつもりなのだろう。

学問の自由は尊重します。が、ねつ造はダメです。慰安婦問題は女性の人権問題ではありません。もちろん#MeTooではありません。それから、国益に反する研究は自費でお願いいたします。学問の自由は大事ですが、我々の税金を反日活動に使われることに納得いかない。そんな国民の声を受け止めてください。 https://t.co/yucCcI0bVd

— 杉田 水脈 (@miosugita) 2018年4月11日“学問の自由は尊重します。が、ねつ造はダメです。慰安婦問題は女性の人権問題ではありません。もちろん#MeTooではありません。それから、国益に反する研究は自費でお願いいたします。学問の自由は大事ですが、我々の税金を反日活動に使われることに納得いかない。そんな国民の声を受け止めてください。”

 国家の有限なリソースの配分には、つねにコスト意識を持つべきだという主張は確かに共感を集めやすい。実際そうした新自由主義的な発想は世界中で猛威をふるっている。しかし、かつての民主党政権の事業仕分けもそうだったように、昨今の新自由主義的な改革・規制緩和は、「既得権益打破」の名目のもと国内に恒常的に敵をつくり出し、それを叩き続けることを強制する。改革という名の敵探しは新自由主義の宿命であって、時に自分自身をも切り刻むことも辞さない(「痛みを伴う改革」)。

 もちろん誰の目にも明らかなムダをそぎ落とし行政を合理化すること自体には一定の意義を認めなくてはならない。しかし、杉田議員のように新自由主義的な敵探しが、左派的なもの一切への憎悪と結びついた途端、本来決してコスト云々で語ってはならない対象までもが、安易にコスト問題として処理されてしまうことになる。

無駄といえば科研費」との発言もある杉田議員にとって、マイノリティをはじめ自己の権利を主張する者、政府と少しでも異なる見解を持つ者は、「国益」を毀損する「無駄」なのだろう。モラルなき反左翼の権化にしてNPM信奉者である杉田議員に対しては、おそらく「差別」や「権利」などの理念を持ち出して理解を求めようとしても、徒労に終わる可能性が高い。彼女の主観ではすべてカネのやりくりの話なのだから。

 杉田議員はそのような自身の立場を「保守」だという。だが人間の尊厳や諸権利、思想信条までもコスト削減の対象とみなし、国民に分断をもたらす政治家は断じて「保守」と呼ばれるべきではない。

◆杉田議員は国民への説明責任を果たせ

 自民党は一連の騒動を受けてHP上で8月1日に杉田議員へ「指導」を行ったことを公表したが(参照:自民党)、翌2日には訪韓中の二階俊博幹事長がこの「指導」について「内容は何も聞いていない」と述べたとされる(参照:「産経新聞」)。

 党の幹事長が「聞いていない」「指導」が存在するとはお笑いぐさで、実際、『週刊文春』8月16日・23日号によると、党の総裁である安部晋三首相も杉田議員の言動に対し「なんでみんな騒いでいるんだろうね」などと述べたというから、おそらく自民党としては9月の総裁選が終わるまでにほとぼりが冷めていればよし、そうでなくともこのまま事態は収束したことにして頬被りするつもりなのだろう。

 杉田議員は朝日新聞の取材に対し、「真摯に受け止め、今後研鑽につとめて参りたい」とのコメントを出している。だが一体何を「真摯に受け止め」、いかなる「研鑽」につとめるのか、そもそも自身の主張のどの点に問題があり、どの点は問題ではないと考えているのか、また削除済のツイートにおいて杉田議員が主張した「大臣クラスの方を始め、先輩方」から「間違ったこと言ってない」とお墨付きを貰ったという事実と、今回の「指導」との関係をどう理解しているのかなど、国民に対してまともな説明をするのが、国会議員としての最低限の責務だろう。先にも述べた通り、杉田議員は何が問題なのか理解していない可能性が高い。だが仮にそうであったとしても、差別問題や国民の諸権利に関する彼女の理解の浅さが会見等で可視化されること自体には一定の意義がある。(削除済みツイート参照記事:HBO ろくな少子化対策も論じずに「生産性」という言葉でLGBTの人権を毀損する杉田水脈議員は今すぐ辞職すべきだ

 杉田議員は今回のLGBTをめぐる発言のみならず、これまでにいくつもの事実誤認や問題発言を繰り返しており(参照:HBO「児童虐待への処方箋は戦前道徳の復活」? 珍説をのたまうエセ保守議員の伝統軽視を斬る)、それらに関して一切釈明も訂正もしていない。自己の言動に責任を負わない人間を国会議員にしておくという法外なコストを、かつてNPMに心酔した杉田議員は、はたしてどのように考えておられるのか。ぜひご意見を拝聴したいところだ。

<文・GEISTE(Twitter ID:@j_geiste〉>

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