第196回国会が閉幕してから早くも1か月が過ぎた。異質で異様だった前国会を、改めて時系列で数回に渡り振り返ってみたい。(※国会の議事録の性質上、全発言を引用するととても冗長になるため、一部抜粋しているものがあるが、大意は変わっていない)
前々回、前回に引き続き、今回は、災害対応そっちのけで宴会に励み、カジノ法案を強行採決した自民党の姿勢を中心に7月の国会を振り返ってみたい。
◆総理の本音
この時期になると、総理の弱気な発言も度々メディアに取り上げられた。
“もう集中審議は勘弁してほしい”安倍晋三 総理大臣(自由民主党)(参照:首相「もう集中審議は勘弁してほしい」言及 ステーキ店で:朝日新聞デジタル)
「総理はこう言っていたよ」と記者団に語った河村建夫衆議院予算委員長は、後に「そういう発言はなかった」と撤回する羽目になった。
官房長官まで努めた党の重鎮であるにもかかわらず、事実を言っただけで訂正させられる委員長も大変である。
◆豪雨と「赤坂自民亭」
“地元秘書から、地元明石淡路の雨は、山を越えたとの報告を受けました。秘書、秘書官と随時連絡を取り合いながらの会でした”西村康稔 官房副長官(自由民主党)本人のTwitterで(現在は削除)
6月末から7月にかけ、中国地方を豪雨が襲った。これらの災害対応も批判を浴びることになる。
すでに気象庁が未曾有の事態であることを会見で述べていたのもかかわらず、安倍総理をはじめ多くの議員が、自民党の会合で酒宴をしていたことが問題となった。
また、国防で重責を担う官房副長官が「山を越えた」などというツイートをしたことも問題となった。
山を超えるどころか、その後も豪雨は拡大し、多数の死者を出す平成最悪の豪雨災害となった。
安倍政権の「危機管理能力」とはなんだったのだろうか?
◆2度目の党首討論
2度目の党首討論では、前回ほとんど質問への回答がなかった枝野代表が安倍総理との討論を諦めて長演説に走るなど、終始「討論」と呼ぶ雰囲気にはならなかった。
その中でも真摯に質問をした議員もいる。短い時間ではあるが、岡田克也無所属の会代表はこう問うた。
“総理、良心の呵責を感じませんか”岡田克也 代表(無所属の会)
安倍総理は、委員長から「時間が来ております」と何度も注意される中、長々と答弁して岡田氏の時間を浪費し、最後に質問しようとした岡田代表に対してこう言い放った。
“やっぱり岡田さん、ルール守んなきゃ”安倍晋三 総理大臣(自由民主党)
党首討論終了直後の安倍首相
「やっぱり岡田さん、ルール守んなきゃ」
これが時間の超過もまったく気にせずにベラベラと
言いたい事だけ喋り続けた人間の捨て台詞です。#kokkai pic.twitter.com/3qUz7hZ01g
この国の総理がいかなる人間なのかということが明確になった、という意味では、意味のある党首討論であったと言えるのかもしれない。
◆カジノ法案の成立へ
豪雨災害の被害も明らかにならない中で、カジノ法案が採決されることになる。
とりわけ、災害対応の陣頭指揮を取るべき国土交通大臣がカジノ答弁に縛り付けられることが問題視された。
野党からは「退席してもいいので災害対策してほしい」という提案がなされるほどであった。
それでも、政府の強い意向によりカジノ法案は成立することになる。最後まで強硬に抵抗したのは自由党の山本太郎共同代表だった。
“今回のカジノ法案ではほとんどカジノのこと聞けていないんですよ。それはおまえが質問しなかったからだろうって言われるかもしれないけれども、それどころじゃないんだよってことなんです。どう考えたって優先順位は災害対応だろうって。”山本太郎 共同代表(自由党)――7月19日 参議院内閣委員会(参照:12日内閣委員会で山本太郎がぶつけた、極めて真っ当な正論について:ハーバービジネスオンライン)
いずれにせよ、政府の優先順位が何なのか、この上なく明確にしたのが終盤国会であったと言えるだろう。
◆枝野幸男代表の不信任案
“安倍内閣が不信任に値する理由は枚挙にいとまがありません。安倍総理も、せっかく五年半も総理をやられたんですから、後の歴史に断罪されるようなことがないように、一刻も早く身を引かれることをお勧め申し上げます。”枝野幸男 代表(立憲民主党)――7月20日 衆議院本会議
国会の最終盤、話題になったのは枝野幸男代表(立憲民主党)の3時間に渡る安倍内閣不信任案に関する演説だ。
枝野氏は、災害対応、森友・加計問題など七つの論点を挙げて安倍総理が信任に値しない理由を説明した。この演説は話題を呼び、急遽解説付きで緊急出版された。
不信任案に関して、自民党議員の対応は深く失望せざるを得ないものだった。
もし仮に、官僚システムの崩壊や様々な不祥事に対して真摯であれば、態度は違ったとしても、謙虚にその指摘に耳を傾けるだろう。
しかし、実際は、安倍内閣の閣僚のみならず、自民党議員は「聞いてなかった」「罵詈雑言」などと口々に発言するなど、真摯に指摘に耳を傾ける姿勢は皆無だったのだ。(参照:なぜ安倍総理は、不信任案に嗤うのか:読む国会)
カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法は20日夜の参院本会議で自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決、成立しました。野党6党派は安倍内閣不信任決議案を提出しましたが、衆院本会議で与党などの反対多数で否決されました。通常国会は22日の会期末を前に事実上閉会しました。 pic.twitter.com/ULNjOm5fRd
— 毎日新聞写真部 (@mainichiphoto) 2018年7月20日◆今国会が明らかにしたものここまで、【1~4月編】、【5~6月編】、そして今回の【7月編】と3回にわたり第196回国会を振り返ったが、まだまだ書ききれないことがある。水道法や国際観光旅客税、経済政策、選挙制度改革いわゆる合区の議論などについてもそうだ。
また、与野党が共に賛成した法案も多数あったが、ほとんど取り上げてこなかったことも事実だ。
今国会を通じて明らかになったことの一つは、安倍総理が病的な嘘つきであること、そしてその嘘を、政府や党をあげて隠蔽しているということだ。
自由民主党は、党内で上がった自然な声すらも抑圧し、「実は言っていなかった」と隠蔽する組織になってしまっている。(参照:政治家・安倍晋三とは何者なのか ー 病的な嘘つきが我が国の総理大臣である事実について:読む国会)
また、財務省という巨大官庁が機能不全に陥っていり、他省庁の文書を改ざんするほど腐敗していながら、財務大臣がそれを解決する能力も意思も持ち合わせていないことも明確になった。
文科省や厚労省もしかりである。
霞が関に、複数の省庁に渡って、これほど多くの問題が発生したことは、記憶の限りなかった。
本来、この国会、あるいは次の臨時国会では、腐敗した国家システム、あるいは崩壊したガバナンスをどのように立て直すかというプランが、政府から出てきてしかるべきなのだ。
しかしながら、そのような動きは全くない。
現状は、あちこちで火事が起きながら、誰も消火しないままに総理大臣が傍観している、というような状況である。
確かに、全焼すれば火は消えるかもしれない。しかし、それは国家そのものの価値を根本的に毀損する行為に過ぎない。
嘘をつき通せば確かにその場は乗り切れるかもしれないが、そのことによって省庁のガバナンスや生産性、あるいは国家を担保している信頼性そのものが傷つけられるのだ。
いずれにせよ、この国会、そしてこの政府が、これまでの為政者と比べても異質であるということが、時系列を追っていくと、明らかになるのではないだろうか。
◆我々は何をなすべきか
裁量労働制のデータの誤りを指摘された法政大学の上西教授を中心に、「国会パブリックビューイング」と呼ばれるプロジェクトが立ち上がっている。(参照:「国会が終わったからって知らんぷりさせない」 上西充子法政大教授が語る、「国会可視化」の意味:ハーバービジネスオンライン)
同プロジェクトの最新情報はTwitter:@kokkaiPVで確認可能だ。
国会が終わったあと、忘れてしまうことが一番の問題である。我々は覚え続けなければいけないし、語り続けなければいけない。
なお、今国会の議事録は、国会会議録検索システムで把握できる。(参照:国会会議録検索システム)
<文/平河エリ@読む国会 Twitter ID:@yomu_kokkai)
ひらかわえり●国会をわかりやすく解説するメディア「読む国会」を運営する政治ブロガー。