入管法強行採決前日、技能実習生の死亡について、安倍首相は「知らない」と笑顔で言った

入管法強行採決前日、技能実習生の死亡について、安倍首相は「知らない」と笑顔で言った
死亡した技能実習生について「(それを報告した表のことも)知らない」と言ったときの安倍総理の表情。参院インターネット中継より

 2018年12月7日深夜~翌日未明にかけて、実質的な移民政策である入管法(出入国管理法改正案)が参議院で強行採決された。技能実習生が2015~17年の3年間だけで実に69名も死亡(実習中の事故12名、自殺6名、殺害4名を含む)したという衝撃の事実が明るみに出たが、死亡原因の詳細は明らかにされないまま、法案が成立してしまった。

 前回記事では、衆院強行採決前日の酷い答弁を取り上げたが、本記事では、参院強行採決前日12月6日の参議院 法務委員会での立憲民主党・有田芳生議員と山下貴司法務大臣および安倍晋三総理の質疑を取り上げ、その回答を信号機のように3色(青はOK、黄は注意、赤はダメ)で直感的に視覚化していく(※色分けのルール詳細は前回記事参照)。

◆法相は「まともな回答」一切なし!


 山下貴司法務大臣と安倍晋三総理の答弁を集計した結果、このようになった。

<色別集計・結果>
●山下法相 赤信号63% 黄信号32% 無色6%
●安倍総理 赤信号53% 黄信号3% 青信号30% 無色14%

 2人とも半分以上を赤信号が占めており、ほとんど質問に答えていない。また、安倍総理は無色(不要な言葉、意味不明な言葉など。読み飛ばした方が理解しやすい箇所とも言える)が14%と多いため、そもそも何を言っているのか分からないことがある。

 いったいどのような答弁だったのか詳しく見ていきたい。

◆総理を指名しても出てくるのは山下法相

 これは立憲民主党・蓮舫議員がTwitterで公開した技能実習生の死亡事案一覧(法務省作成)だ。

 溺死、自殺、くも膜下出血、心不全など生々しい死亡原因が記載されている。しかも、年齢欄を見ると20代を中心とする非常に若い世代だ。

法律に基づき事業主等が届け出た報告書で、3年で69人の技能実習生が自殺などで亡くなられていたことがわかりました。長妻さんが法務省に一覧を作成してもらったものを有田芳生さんが委員会で質問したところ、法務省が各事例を把握していませんでした。命の扱いをこのままに新たな法案を通すとの姿勢。 pic.twitter.com/OOejixnPnW

— 蓮舫・立憲民主党 (@renho_sha) 2018年12月6日 当日の質疑において有田議員は、この69名死亡という事実をどのように総括するのか総理に問うた。しかし、先に答弁に立ったのは山下法相であった。その回答がこれだ。(動画の43秒~)





「えー、ご指名ですので、お答えいたします。なぜかと言えば、これは法務省において提出した資料でございますので、その前提をしっかりと踏まえた上で総理に答弁して頂きたいと思うからでございます。そして、その集計については、これは29年11月にあ、新たな技能実習法が施行される以前の取りまとめでございまして、」(※黄信号)

 冒頭の1段落目、これは回答には直接の関係がなく、質問の背景を説明しているだけのため黄信号とした。山下大臣は「前提が大事なので回答よりも先にお伝えしたい」という趣旨の答弁を頻繁に行うが、その前提は質問の回答にはさして関係がないことが多い。今回もそうであった。

「また、それに関しまして、えー、我々しっかりと実情を把握する。そういった事で今、門山政務官を始めとするプロジェクトチームにおいて、しっかりと、あら、あのー、把握するべく、今検討しているところでございます。我々としては新たな技能実習法について、しっかりと把握した上で対応させて頂きたいと言う風に考えております。」

 次に2段落目。これは解説するまでもないが、以下のようにすり替えており、赤信号。

有田議員の質問:69名死亡の「総理」の総括
山下大臣の答弁:69名死亡の「法相」の総括

 この山下大臣の答弁中、有田議員は「総理に聞いているんです!」と何度も大声で抗議したが、山下法務大臣は完全に無視して一方的に答弁をまくし立てた。さらに、山下大臣は口をマイクに密着させて発言することで自らの声を大きく拾わせ、有田議員の抗議の声は中継映像に入らないように画策していたと見受けられる。この異常な質疑の様子はぜひ動画(43秒~)でご確認いただきたい。

◆「資料を初めて見たから答えようがない」と言い切った総理

 山下大臣が「前提」を説明した後、ようやく答弁を始めた安倍総理の回答がこれだ。(動画の1分54秒~)





「あのー、今ですねー、なぜ山下大臣がお答えをしたかと言うことについて言えば、その・・、」

 1段落目、満を持して答弁を始めたのに背景説明を始めたため、黄信号とした。

 この際、すぐに野党議員たちも質問に答えるように一斉に抗議の声をあげて議場は騒然となる。しかし、総理はこの抗議の声を逆手にとって、典型的な不誠実答弁を披露する。

「すいません委員長、ちょっと、外がですね、うるさくて、あの・・、えっ、よろしいでしょうか。こういう、こういう質疑はですね、なるべく静かな、え、環境の中で、しっかりと議論するべきであってですね、委員外の方が大きな声で野次を飛ばすという、そういう事はなるべくやめて頂きたいなぁと思うわけで、えー、ございます。」

 2段落目は厚顔無恥話法(ご飯論法同様、上西充子教授が考案)そのものである。自分に非があるのに相手に責任転嫁するような発言を行い、そこだけ切り取った映像がテレビで流されることで相手の印象を悪くする。言ったもの勝ちの印象操作である。これも赤信号である。

「そこでですね、なぜ今、山下大臣からお答えをしたかと言えば、今、急に今、有田、あー、委員が、えー、お示しになった、えー、亡くなられた例でありますね。亡くなられた例については、私は今ここで、えー、初めてお伺いをしたわけでありまして、ですから私は答えようがない、わけでありまして。その例について、あらかじめ知っている山下大臣でなければ、それを踏まえて答えろ、と言うことでございましたので、それを踏まえて答えるのは私は出来ないので、山下大臣が踏まえてお答えをさして頂いたと、いうことでございますが、」

 3段落目、今度は論点をすり替えており、赤信号とした。69名が死亡しているという事実を踏まえて、どのように総括するのかを尋ねているのに、あたかも詳細な死亡理由を尋ねられているかのように答えているのだ。

有田議員の質問:69名死亡の「総括」
安倍総理の答弁:69名死亡の「詳細」

 さらに、「有田議員が急に示した」と総理が言った資料(69名の死亡事案一覧)は、法務省が作成して提示してきたものである。しかも当日午前の質疑(安倍総理は不在だったが、山下法相は出席)でも有田議員はこの資料について質問しているため、総理の認識不足と言わざるを得ない。

「いずれにせよですね、えー、現在、山下法務大臣の、おー、指示のもと法務省内で設置されたプロジェクトチームにおいて、えー、この、おー、技能実習生の実態把握のあり方の見直しを、ま、行うとともにですね、えー、聴取票から、あー、ひょう、不当な行為が認められる技能実習制度、えー、あ、え、じ、ぎ、技能実習実施機関の調査に、ま、既に着手しているものと、承知をしているわけでえー、ございまして、えー、その中においてですね、我々、今までの制度の中で、問題がなかったと思ってるわけではまったくないわけで、えー、あります。様々なご指摘も頂きましたし、そういう問題も把握をしておりますからしっかりとその中でですね、えー、山下大臣のもとに調査を行い、えー、それを踏まえて、えー、この、おー、この、え、法案を通して頂ければ、えー、省令等で、しっかりと対応していきたいと、こう考えているところでございます。」

 4段落目、総理は完全に原稿を棒読みして答弁していると思われ、内容も一般的すぎるが、質問には回答していると判断して青信号とした。ただし、翌日には法案が成立する見込みの中、これから「調査に着手」では遅すぎる。そもそも、「法案を通して頂ければ、省令等で対応」というのは、国会軽視も甚だしく、白紙委任を強要しているようなものであり、こうした表現には総理の本音が透けて見えるように感じられる。

◆人が死んだという事実についてヘラヘラ笑いながら答える異常

 この質疑の前日、「明日は法務委員会、2時間出てややこしい質問を受ける」という耳を疑うような発言をしたことが報じられていた総理。(参照:朝日新聞産経新聞

 有田議員はこの発言を引用して「ややこしい質問をお聞きします」と宣言した上で、「具体的なことを聞いてんじゃないんですよ。溺死とか自殺とか、そういうことがあるのに法務省が分からないという態勢を総理はどうお考えですか」と質問する。しかし、先に答弁に立ったのはまたも山下法相であった。(動画の4分37秒~)





「ご指名です。あのー、先ほどですねー、一覧表においては、あー、そういう風な記載をしておりますが、あ、あのー、ある程度の情報は来ております。ただ、それにつきまして、やはり人の死亡という、非常にプライバシーに関わる問題でございますので、えー、あのー、全てつまびらかに出来てないというところでございます。それが前提でございます。」

 再び前提を説明し始めた山下法相。答弁を求めた本人ではない上、論点を以下のようにすり替えており、赤信号。

有田議員の質問:実態を把握してないことの総理大臣の総括
山下法相の答弁:実態を公開できない理由

 続いて、安倍総理が答弁する。

「あのー、私ま、その表も見ておりませんから、え、お答えのしようが無いわけでございますが、あの、えー、亡くなられた、あー、事案。今、溺死された方が、えー、その、3名ですか? 3名おられるという、うー、ま、ご指摘でございますが、私は、ま、その事実をしら、あの、えー、その表も知りませんし。えー、その事実がですね、果たしてどういう結果そうなったか。実際3名おられるのかどうかも含めてですね、えー、じゃあ、どういう結果でそうなったかということについても、えー、これは、えー、存じ上げませんので、えー、お答えのしようがないわけでございますが。」

 安倍総理の1段落目、またも以下のように論点をすり替えている。

有田議員の質問:実態を把握してないことの総理大臣の総括
安倍総理の答弁:死亡理由の詳細

 有田議員は質問の際に「具体的なことを聞いてんじゃない」と念押ししたにも関わらず、「どういう結果そうなったか」などにすり替えている。

 さらに、質問中に何度も例に挙がっていた溺死者の人数が誤っており(正:7名、誤:3名)、認識不足とも言える。

「ま、これは、あのー、法務省においてですね、もしそれが、えー、異常な数値であれば当然それはどうしてそうなったかということは、あの、えー、対応していくことになるんだろうと、え、こう思うわけでございますが、」

 安倍総理の2段落目、質問には回答していると判断して青信号とした。ただし、死亡者の人数のことを「数値」と表現しており、事態の重さを理解できていないのか、もしくは人が死んだこと、外国人の技能実習生が死んだことなど「数字」としてしか考えていないのではないかと不安になる。

「いずれに致しましても、今までのですね、えー、ま、実習制度等々あるいは、え、留学生の方々がアルバイトで働くこと等々においてですね、ま、様々なご指摘が、ま、ございました。そういうご指摘を踏まえた上で、えー、今回、新たな制度を作りですね。えー、ま、法務省の中において、えー、出入国在留管理庁を作ってですね。しっかりと直接ですね、そこが指導監督を行っていくことになるんだろうとこう思います。」

 安倍総理の3段落目は「いずれに致しましても」という論点ずらしの最初に現れる典型的なフレーズから始まっている。実際、論点ずらしであり、赤信号。

有田議員の質問:実態を把握してないことの総理大臣の総括
安倍総理の答弁:新制度の概要

 その中身は、出入国在留管理庁など新たな制度の宣伝に終始している。

 結局、69名もの若い技能実習生が死亡し、しかもその実態を把握できていない事実について、安倍総理から具体的な回答はないまま質疑は終了した。

 そして、この質疑の翌日(7日)深夜から翌々日(8日)未明にかけて、入管法は与党の賛成多数で可決、成立した。審議時間は約35時間と重要法案としては短い上、本記事で視覚化したように審議では議論どころか会話が成立していない場面が多々あるような状況だったにも関わらず、だ。

 外国人労働者の人権のみならず、日本の労働者、あるいは国のあり方にまで関わる法案が、一部の財界人の要求に応じるためだけに、拙速に、かつこのような不誠実な答弁で行われたことについて、有権者は決して忘れてはならないだろう。

<文・図版・動画作成/犬飼淳 TwitterID/@jun21101016

【犬飼淳氏】
サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。最近は「赤黄青で国会ウォッチ」と題して、Youtube動画で国会答弁の視覚化に取り組む。
 犬飼淳氏の(note)では数多くの答弁を「信号無視話法」などを駆使して視覚化している。また、同様にYouTubeチャンネル(日本語版英語版)でも国会答弁の視覚化を行い、全世界に向けて発信している

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