数年前、中国北京市の大手スーパーマーケットで、タール色素の黄色5号で着色された豚肉が違法販売されていることが明るみに出て大騒動になった。食肉への着色は中国に限ったことではない。
日本でも過去に何度か、着色肉が問題になった。そのたびに厚生労働省は、着色料を食肉に使用しないよう通知を出している。しかし、食肉への着色は、止まらないのが実態だ。
問題が明るみになったのは1980年代初
最初に食肉への着色が大問題になったのは1980年代初め。スーパーなどで購入した豚肉を食べた多くの人たちに、痒みや湿疹などの健康被害が発生した。原因は豚肉に着色目的で使われた「ニコチン酸アミド」という食品添加物。
ニコチン酸アミドは、栄養強化剤に分類される合成添加物(指定添加物)だ。添加すると褐変した古い肉が鮮度のいい肉のように赤味を帯び、摂取しすぎると血管が拡張し、顔面紅潮、かゆみ、湿疹などの症状が出る。
このような事態に対して、1982年、厚生省(当時)は、ニコチン酸アミドならびにニコチン酸を「食肉及び鮮魚介類(鯨肉を含む)に使用してはならない」と定めた。これでニコチン酸アミドによる食肉への着色は姿を消したのだが、着色や発色行為そのものが消えたわけではない。
2004年4月に読売テレビが、スーパーで売られている牛肉(国産サーロインステーキ、牛タン、ひき肉、焼き肉用スライス肉)に、アスコルビン酸、ポリリン酸塩、グルタミン酸塩など複数の添加物が、発色や品質保持、味の調整のために使われているとスクープしたのだ。
このテレビ報道後の同年7月、厚生労働省は再び「食肉に対して発色や変色防止等の目的で食品添加物を使用することは、食肉の品質、鮮度等について消費者の判断を誤らせるおそれのあるものと考えられるので、このような使用がなされることがないよう、改めて指導方をよろしくお願いします」との通知を全国の保健所に出した。
2007年のミートホープ社による牛肉偽装事件
それから3年後の2007年、ミートホープ社の牛肉偽装が、元幹部社員の内部告発で発覚した。牛肉に豚肉を混ぜた「100%牛肉」に偽装する際、その血を使って赤く着色していたのだ。なかには腐臭している古い豚肉を殺菌処理してから血で赤く着色し、「牛肉100%ミンチ」として卸していたこともあったという。
さらにミートホープ社は、廃棄内蔵を混ぜたミンチ肉を製造し、大手冷凍食品会社に卸していた。その多くは冷凍コロッケやハンバーグ等の原料になり、全国のスーパーやコンビニで販売。学校給食にもミートホープ社のミンチ肉を原料にした冷凍コロッケなどが供給されたこと明らかになり、親たちは愕然とした。
驚くのは、ミートホープ社がこうした違法行為を、7年間も大手冷凍食品企業相手にやってこれたことだ。相手も肉のプロだ。よく騙し続けたと思うが、農水省畜産局のOBは「肉の着色は見た目では専門家でも分からない」と言っている。
生肉の着色は本当に根絶されたか?
とはいうものの、「あれほどの大騒動になったのだから、いくらなんでも、肉の着色をしている業者は、もういないでしょう」と誰もが思うはずだ。
ところが、スーパーに行くと、あまりにも鮮やかな赤味の肉が並んでいる。いったいどうやってあれだけの赤味が保てるのか不思議に思っていたが、ある油脂会社の特許公開を見て納得した。
それは2008年2月に公開された「エノキタケ抽出物含有変色防止剤」の特許で、「本発明は、赤身魚肉、畜肉の生鮮品またはその加工品の鮮紅色を維持したまま保存できる」というのだ。
エノキタケの抽出物であるから、変色防止剤自体の影響は人体ないかもしれない。しかし、厚生労働省が指摘しているように、消費者の判断を狂わせることには変わりはない。また、食肉関係者によると「添加物のアジピン酸を肉を包装するときにかければ、肉の赤味は保てるから、やっている業者はいるでしょう」と言いる。
肉の偽装は世界共通
肉に着色をし消費者を騙そうとする手口は、何も日本に限ったことではない。
前述した中国での豚肉着色のほか、2012年にはスウェーデンでも20トンもの牛肉が「着色された豚肉」であったことが判明し、同国の食糧庁に摘発されたとBBCが報道している。食糧庁の担当者はBBC記者にこう言っている。
「この肉は赤いのだが、部分的にムラがあるから、針で注入されたのかもしれない。注射針が用いられたのであれば、バクテリアが肉の表面から内側に入り込んで、食中毒のリスクが高くなった可能性がある」
このことは、サイコロステーキのような成型肉にも同様に当てはまりる。成型肉は横隔膜肉などを集めて、巨大注射針のようなもので牛脂を注入して作られる。サイコロステーキは大半が成型肉なので、食中毒のリスクが高い。
ともかく、着色を含めた肉の偽装は世界共通だ。挽き肉など異様に鮮やかな赤い色の肉は食べないことだ。
郡司和夫(ぐんじ・かずお)
フリージャーナリスト。1949年、東京都生れ。法政大学卒。食品汚染、環境問題の一線に立ち、雑誌の特集記事を中心に執筆活動を行っている。主な著書に『「赤ちゃん」が危ない』(情報センター出版局)、『食品のカラクリ』(宝島社)、『これを食べてはいけない』(三笠書房)、『生活用品の危険度調べた』(三才ブックス)、『シックハウス症候群』(東洋経済新報社)、『体をこわす添加物から身を守る本』(三笠書房・知的生き方文庫)など多数。
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