インフルエンザは例年11~12月頃に流行が始まり、1~3月にピークを迎えるのが普通だ。国立感染症研究所が11月15日に公開した調査結果によると、10月31日~11月6日の期間中の感染症発生動向調査では、インフルエンザウイルス感染者が昨年の5倍以上になっているという。
地域別に患者数をみると、沖縄県の120人が非常に多く、以下、栃木県(79人)、茨城県(75人)、岩手県(60人)、埼玉県(56人)、東京都(41人)と、関東・東北の一部出の感染が目立っている。また、富山県(36人)、静岡県(36人)、岐阜県(29人)、愛知県(22人)と北陸と中部地域が続く。
インフルエンザウイルスは1年中、地球上に生存しているが、なぜ冬だけにに「暴走」するのはなぜだろうか?
理由はいくつかある。
第1に冬の気象条件である温度20℃内外、湿度20%内外の低温度・低湿度は、インフルエンザウイルスが空気中に長時間にわたって生息できる最適な環境だからだ。
一方、寒い冬は人間にとっては不利な状況になる。鼻・のど・気管などの血管が収縮し、気道の粘膜細胞を覆っている線毛の動きが鈍くなる。線毛はウイルスや細菌の侵入を防ぐように働くので、その働きが悪くなればウイルスの侵入が早まる。
さらに、冬は窓を閉め切った部屋で過ごすことが多いため、感染した患者の咳やくしゃみによってウイルスがまき散らされ、感染が広がりやすくなる。
ウイルスが気道の粘膜細胞に付着すると16時間後に1万個、24時間後に100万個の猛スピードで増殖するので、粘膜細胞が破壊され、非常に短い潜伏期間でウイルスの強い感染に曝される。
インフルエンザウイルスのA型、B型、C型のうち、A型は人間と動物(鳥類、ウマ、ブタなど)の共通感染症だ。最初はカモなどの水鳥の腸内に感染する弱毒性のウイルスだったが、遺伝子の突然変異によって人間の呼吸器に感染する形質を獲得した。
現在、インフルエンザのルーツと考えられているのは、アヒル・豚・人間が共同生活する中国南部だ。WHO(世界保健機関)のパンデミックインフルエンザ基本構想(PIP-Framework)に基づき、国際協力のもとでインフルエンザ監視対応体制(GISRS)が敷かれている。
免疫防御をかいくぐって生き残るA型ウイルス
人間は体内に侵入したウイルスを排除する適応免疫や獲得免疫と呼ぶ免疫機構を備えている。これは恒常性維持と生体防御に大活躍する生体の生命線だ。そのため、たとえウイルスに感染しても、いったん回復すると抗体が生成されるため、再感染はしない。
しかし、突然変異を起こしやすいA型は、ウイルスの表面にある2種類の突起、HA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ酵素)の抗原性を毎年、変化させるので、免疫防御を巧みにくぐり抜けて生き延び、流行を繰り返す。これを連続抗原変異という。
抗原性の変化が大きれば、以前にA型に感染して免疫があっても、再び別のA型の感染を受け、症状も重くなる。
さらに、A型は10~30年ごとに突然、別の型に大変身し、大流行をもたらす。これを不連続抗原変異という。香港A型の流行から29年、ソ連A型から20年がすでに経過しているので、パンデミックは近いかも知れない。
しかし、ウイルスによって形成された免疫記憶は、2回目の遭遇には増強される。この獲得免疫のプロセスこそが、インフルエンザワクチン接種の根拠だ。
(文=編集部)
当時の記事を読む
トピックス
もっと読む
-
インフルエンザ 首都圏でも猛威 この冬は何か違う?
首都圏でも今シーズンは季節性インフルエンザが早い時期から猛威を振るっています。12月の関東地方は気温のアップダウンがかなり大きくなっています。患者数ハイペースで増加季節性インフルエンザが猛威を振るって...
-
呼吸だけでもインフルエンザに感染! ウイルスの空気感染を防ぐには「強制帰宅」?
インフルエンザ感染者が単に呼吸するだけでも、ウイルスは周囲に拡散し、同じ部屋内にいる人にも「空気感染」してしまう。その可能性は予想以上に高いことが判明した――。あまりにも日常的な光景(要因)であるぶん...
-
早すぎたインフルエンザの流行 1月はどうなった?
今シーズンはインフルエンザが早い時期から猛威を振るいました。2020年の第2週(1月6日~12日)の患者数の推計は約78.5万人。2020年の第2週の定点当たり報告数は18.33で、お正月休みにあたる...