■倒産防止共済掛金などはどうなるか?
実務上よく問題になることの一つに、倒産防止共済掛金に個人事業で加入していた場合、それを法人成りで引き継ぐ場合はどうなるか、ということがあります。倒産防止共済掛金は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する経営セーフティーネット共済の掛金で、取引先事業者が倒産したような場合の資金繰りに対するリスクヘッジの一環で支払うものです。この掛金は、毎月20万円を上限に、総額800万円までその全額を経費にできるため、高い節税効果もあります。
ここで問題になるのは、全額を経費にできるため、直前の帳簿価額がないということです。帳簿価額がないため、法人成りの際、いくらで譲渡することになるか疑問があります。
■全損の保険も同様に
この点は、個人事業において、従業員を被保険者とする定期保険に加入しているような場合も同様です。一定の従業員を被保険者とする定期保険は、個人事業においても、福利厚生の一環としてその支払保険料の全額を経費とすることが出来ます。このような保険料の全額が経費となる保険について、同様に法人成りで法人に移転する場合は、その時点での解約返戻金で譲渡した、という処理を行うことになります。
結果として、帳簿価額が零のものを解約返戻金相当額で譲渡する訳ですから、解約返戻金相当額の全額が課税されます。
■移転を受けた法人は経費とできない
一方で、解約返戻金相当額で保険を引き継ぐ法人においては、そもそもその保険は全額経費になるので、法人成りの際、支払った解約返戻金相当額の全額を経費とすることができるとお考えになる方が多いですが、それは誤りです。
一時に取得したという特殊性もありますので、それは経費にならず、解約時等一定の段階まで経費にはできませんので、注意してください。
■専門家プロフィール
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
※注意事項:記載については、著者の個人的見解であり正確性を保証するものではありません。