最近、小学校に行かずYouTuberとして活動する少年が物議を醸しています。彼はさまざまな理由から学校に行くことに疑問を持ったそうで、「自分らしく生きたい」と、YouTuberとして生きることを決めたそうです。

そんな彼への評価は賛否両論。「自分らしい生き方でいいのでは」「選択肢の1つとして認められるべきだと思う」という声もありますが、「将来のことを考えたら学校に行くべき」「義務教育を受けさせない親は何を考えているのか」などの声も根強いようです。
小学生YouTuberの行動や、義務教育を受けさせずに容認する親に法的な問題ないのでしょうか?星野・長塚・木川法律事務所の木川雅博弁護士に見解を伺いました。

問題はあるのか?
木川弁護士:「小学生白書Web版」2018年9月の調査によると、小学生の将来つきたい職業全体ランキングの3位に「YouTuberなどのネット配信者」がランクインしたそうです。
学校に行かずにYoutube配信をしている小学生もいるようですが、イジメや精神的不安等などの一見して明らかに正当とは思われない理由で学校に行かずにYouTuber活動を行う子どもを容認する保護者は、義務教育を受けさせる義務(就学義務)に違反し、逮捕されるのではないかという疑問を持つ方もいるようです。
そこで今回は、親が正当とは思われない理由で義務教育を受けさせないことに法的な問題はないのかについて解説したいと思います」

義務教育を受けさせないことは正当な事由がなければ就学義務違反
木川弁護士:「憲法26条2項を具体化した学校教育法17条2項では、保護者に子どもに9年間の義務教育を受けさせる義務(就学義務)を定めています。

保護者が就学義務に違反していると疑われ、学校に出席させないことについて保護者に正当な事由がないと教育委員会が判断したときは、教育委員会から保護者に対して学校に通わせるよう督促することになります(学校教育法17条3項、学校教育法施行令20条、同21条)
保護者が督促に従わないときは、保護者は10万円以下の罰金に処せられます(学校教育法144条)。
これら法令の趣旨は、子どもの教育を受ける権利を保障するため、虐待を行ったり、強制的に働かせたりする保護者に罰則を与えるためです。
ですから、親が正当とは思われない理由で義務教育を受けさせなければ違法行為ということになります。
一方、教育を受ける権利は子どもに保障されているものなので、子どもが正当な理由なく学校に行かなくても子どもが罰を受けるわけではありませんし、究極的には子どもの真意であれば教育を受ける権利を放棄する(ただ学校に行かないだけですが)こともできます。
そのため、文部科学省も、上記学校教育法施行令20条の「正当な事由」の例として、子どもの不登校(不登校の理由について限定なし)を挙げています」

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/06070415/003.htm
小学生の場合、学校に行くとイジメや精神的不安を受けるなど学校側に問題があるわけではないケースで、「学校に行きたくない!」という決断が真意になされたかどうかの判断が難しく、保護者の対応・説得次第でその気持ちが変わり得るといえます。
したがって、わが子がただサボりたいだけなのか、それとも本当に学校に問題があったり、強い信念のもとに既存の公立・私立の小学校に行きたくないと言ったりしているのかを、まずは保護者がきちんと判断すべきだとは思います。

そして保護者に対して学校に通わせるよう督促を出したり、保護者に罰則を科したりするときは、学校に行くようにとの説得協力をしない、というネグレクトに当たるような行為があるか、また、子どもが得た収益等を搾取していないかという観点からの検討が必要といえましょう」

学校に行かずにYouTuberをしている小学生の親が逮捕されることはあるか
木川弁護士:「上記のとおり、保護者に就学義務違反があるときは、教育委員会の督促を経て最終的に10万円以下の罰金に処せられることがあります。
ただ、罰金に処せられることと逮捕されることとは別問題です。
保護者に証拠隠滅や逃亡をする現実的な可能性が認められなければ逮捕の必要性がなく、逮捕状は出ません。
子どもが学校に来ず、家に行っても督促を出しても保護者が従わない事実は隠滅することができませんから、証拠隠滅のおそれはあまりなく、子どもや家族を置いて逃亡するような場合はまさしく虐待ですから、逮捕するとしたら児童福祉法や児童虐待防止法違反の容疑でしょうね。
したがって、学校に行かずにYouTuberをしている子どもを容認しているだけの親が逮捕されることはないと言っていいと思います。
現に、以前アイドル活動をしていた子どもを通学させなかったとして就学義務違反に問われた保護者のケースがありましたが、保護者は逮捕されていません」

小学生がYouTuberとしてお金を稼ぐこと自体の妥当性はどうか
木川弁護士:「未成年、しかも小学生だから収益活動をしてはいけないということではないので、小学生がYouTuberとしてデビューすること自体に何ら問題はないと思います。

そのようなことを言ったら子役タレント等も同様に妥当でないということになります。
ただし、YouTubeは利用規約で13歳未満がアカウントを作成することを禁じていますので、小学生がYouTubeを利用するには保護者などのアカウントでログインすることになりますので注意が必要です」

まとめ
小学校YouTuberの取り扱いについては非常に難しい問題。
今後社会全体で「学校に行かない生き方」について、考えていく必要がありそうですね。

*取材協力弁護士:木川雅博 (星野・長塚・木川法律事務所(港区西新橋)パートナー弁護士。売買代金・売掛金・損害賠償請求、不動産の法律問題、農地・農地所有適格法人のご相談、墓地・お墓のトラブル等、法人・個人(個人事業主)の様々な案件を扱っています)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)
義務教育を受けない不登校YouTuber…親が罰せられる可能性は?シェアしたくなる法律相談所で公開された投稿です。