ソーラーパネルを設置する一般家庭が増えると同時に、新たに浮上してきた問題があります。何かお分かりですか?
それは、ソーラーパネル(太陽光パネル)に関するトラブルです。

国や地方の補助金制度や余剰電力の買い取り制度などの後押しもあって、太陽光パネルの設置件数は、平成24年度末時点で126万件と、10年前の約10倍に達しています。
そうなると、トラブルも必然的に増え、最近では、滑りやすい太陽光パネルの表面に積もった雪が落下して隣地の設備を壊したとか、太陽光パネルに反射した強烈な光が隣家に被害をもたらした、などの報告もあります。
隣の家のソーラーパネルがまぶし過ぎて生活できない…裁判所の下...の画像はこちら >>

■実際の裁判ではどうなったのか
平成24年4月18日、太陽光パネルの反射光で日常生活に支障が生じたとして、隣家の所有者とパネルの設置会社に対し、パネルの撤去と慰謝料の支払を求めた裁判で、横浜地裁は、パネルの撤去と慰謝料22万円(原告1人につき11万円)の支払を命じました。
事案は、南側隣家の屋根(北側)に設置された太陽光パネルから、強烈な太陽光が照り返し、午前中から正午頃にかけて、北側の原告宅の1階、2階の各部屋と階段に太陽光が照りつけ、裁縫ができない、サングラスをかけなければベランダで洗濯物を干せないなどの被害があったというものです。
裁判所は、パネルからの反射光が原告の日常生活の平穏を損ない、その程度が社会通念上我慢すべき範囲を超えているとして、パネルの設置行為が原告の建物所有権(円満に利用する権利)を侵害していると判断しました。
本判決の特徴は、太陽光パネルの設置自体について条例を含む法令上の規制等が存在せず、行政の指導もないこと、また、被害の源が太陽光という自然現象であるにもかかわらず設置した側の不法行為責任を認めたこと、また、慰謝料だけでなくパネルの撤去まで認めるという踏み込んだ判断をしたことです。

この判決の後、パネルを設置した隣家の所有者は控訴せずパネルを撤去しました。他方、設置業者は控訴し、慰謝料の支払命令を争いました。

■二審では判決が覆る
二審の東京高等裁判所は、一審判決とは一転して、被害者の請求を退けました(平成25年3月13日)。理由は、(1)一審判決が認定した太陽光のまぶしさを裏付ける証拠が不十分で、一般の屋根材と比べてどの程度強い光かも明らかでないこと、(2)反射光が差し込む時間帯が季節によってもバラバラで、それほど長時間ではないこと、(3)カーテンを閉めれば容易に被害を回避できること、以上の理由をあげて太陽光の被害は、一般に我慢すべき範囲内のことで違法ではない、また、(4)太陽光パネルは既に撤去され、被害回復がはかられているので損害がない、というものでした。
もっとも、二審判決も、太陽光パネルの反射光が相当まぶしく感じられる場合が生じるので、設置にあたっては隣家への配慮が求められるべきであると判示しています。
本事例では、裁判所の判断が分かれましたが、太陽光パネルによる紛争という意外性だけでなく、近隣紛争が、意地のぶつかり合いにより裁判にまで発展することや、紛争予防のためには、相互の理解と思いやりの精神が肝心であることを、改めて思い知らされるものでした。


*著者:弁護士 好川久治(ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務・コンプライアンスまで幅広く業務をこなす。)