全国各地に存在する「地方の道交法」の中でも有名な「名古屋走り」を知っていますか?
ウィキペディアによると、「愛知県の名古屋市およびその近辺で見られる特有の行儀の悪い運転マナーおよび道路交通法違反運転の総称」とされています。名古屋だけではなく、このような地方の道交法は日本各地にあり、有名な物だと「松本ルール」「山梨ルール」などがあります。

もちろん道路交通法はひとつしかなく、全国で同じルールとなっているのですが、暗黙の了解として地方の道交法に基づいた運転がされているのが現状です。
しかし、そのルールの中には道交法に違反するケースもあります。今回は、名古屋ルールの代表的な運転が法律上ではどのように扱われるのかを検証してみたいと思います。
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●黄信号でためらいなく進入し、赤信号に変わってもたまに進入
信号機の表示する信号の意味は、道路交通法施行令で定められています。
「黄色の灯火」は、車両が停止位置(通常は停止線の直前)を越えて進行してはならないことを示し、例外的に、黄色が表示されたときに停止位置に近接し、安全に停止することができない場合に限り、そのまま進行してよいことになっています。
名古屋走りでいうところの「黄信号にあってはためらいなく進入」する行為は、例外にあたるかどうかに関わりなく黄色で進入するということですから信号無視(信号機の信号等に従う義務違反)になります。

「赤色の灯火」は、 車両等が停止位置を越えて進行してはならないことを示し、これには例外はありません。したがって、「赤信号に変わっても状況判断によっては進入」する名古屋走りは、例外なく信号無視になります。
信号無視に対しては、違反点数2点、反則金が大型車で1万2,000円、普通車で9,000円、二輪車で7,000円と定められています。反則金を納めない場合は、3カ月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられます。
また、赤信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転して人を死傷させた場合は、危険運転致死傷罪に問われ、負傷事故の場合15年以下の懲役に、死亡事故の場合は1年以上20年以下の懲役に処せられます。

●スピードを出しまくる
車両は道路標識等によって最高速度が指定されている道路ではその最高速度を、その他の道路では政令で定める最高速度(一般道での自動車の法定速度は60キロ)を超える速度で進行してはならないことになっています。

速度違反に対しては超過速度に応じて違反点数が定められています。
例えば、25以上30キロ未満(高速道路40キロ未満)で3点、30以上(高速道路40以上)50キロ未満で6点、50キロ以上で12点などです。
反則金についても同様で、例えば、一般道25以上30キロ未満で、大型車2万5,000円、普通車1万8,000円、二輪車1万5,000円、高速で35以上40キロ未満で、大型車4万円、普通車3万5,000円、二輪車3万円などです。
反則金を納めない場合は、6ヶ月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられます。
速度超過で注意しなければならないのは、一般道で30キロ以上、高速で40キロ以上の違反には反則金制度の適用がなく、いきなり刑事手続に付され前科者となることです。
また、車両の進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させて人を死傷させた場合は、危険運転致死傷罪に問われ、負傷事故の場合15年以下の懲役に、死亡事故の場合は1年以上20年以下の懲役に処せられます。


●ウィンカーを出さずに車線変更
車両の運転者は、進路を変更するときは、開始3秒前に方向指示器で合図を出し、進路変更が終わるまで合図を続けなければなりません。
名古屋走りの「ウィンカーを出さずに車線変更」することは、これに違反します。
合図不履行の違反点数は1点、反則金は大型車7,000円、普通車・二輪車6,000円と定められています。反則金を納めない場合は、5万円以下の罰金に処せられます。

●車線を変えながら走行
車両は、追い越しなどでやむを得ない場合を除いて、その進路を変更してはならないことになっています。したがって、殊更に通行帯からはみ出したり、二つの通行帯にまたがったりして通行することも許されません。

名古屋走りの「車線またぎ」は、これに違反します。特に、後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、後続車の車両の進行を妨げ、事故の原因ともなりますので、非常に危険です。
後続車に危険を及ぼす進路変更があった場合、違反点数は1点、反則金は大型車7,000円、普通車・二輪車6,000円と定められています。反則金を納めない場合は、5万円以下の罰金に処せられます。

●前の右折車を後ろから抜かして右折
道路交通法は、車両は、交差点とその手前30メートル以内での追い越しを禁止しています。
交差点内は、多数の車両や歩行者、自転車が行き交う場所であるため追越しは極めて危険です。

この「前の右折車を後ろから抜かして右折」する行為も、交差点及びその手前30メートル以内での追い越し禁止違反にあたります。
違反点数は2点、反則金は大型車1万2,000円、普通車9,000円、二輪車7,000円と定められています。
反則金を納めない場合は、3カ月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられます。

●横断歩道で手を上げている歩行者を無視
車両は、横断歩道に接近する場合には、歩行者や自転車がいないことが明らかである場合を除き、横断歩道の直前で停止することができる速度で進行しなければならないとされています。また、歩行者や自転車が横断歩道を渡り、又は横断しようとしているときは、横断歩道等の直前で一時停止し、その通行を妨げないようにしなければならないとされています。
したがって、「横断歩道で手を上げている歩行者がいても無視して止まらずに進む」行為は、歩行者の横断妨害禁止違反にあたります。

違反点数は2点、反則金は、大型車1万2,000円、普通車9,000円、二輪車7,000円と定められています。
反則金を納めない場合は、3カ月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられます。
無謀運転はどこにでもあります。本人にとって違反切符を切られ、事故を起こす原因になることはもちろんですが、他の車両の迷惑となり、渋滞の原因になるだけでなく、ルールを守って車を運転している人を事故に巻き込む危険がありますので、努めて注意したいものです。

*著者:弁護士 好川久治(ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務・コンプライアンスまで幅広く業務をこなす。)