家庭用ゲーム機として一大ブームを巻き起こした「ファミリーコンピュータ」が登場したのは、1983年7月のこと。1985年に発売された『スーパーマリオブラザーズ』をはじめ、多数のタイトルが“ファミコンブーム”を牽引しました。


そして同時期に、少年心を大きく揺さぶったブームがもうひとつありました。それは、「ゲームブック」です。ゲームブックの多くはいわゆる書籍で、本を読み進めることで冒険や物語を楽しむことができました。

ただし普通の本と違い、ゲームブックは“主人公の行動”を読者が決められます。読者の選択が物語に影響を与え、自らの手で結末を掴み取る。例えるならば、ページをめくるたびに“あなただけの冒険”が広がっていく遊びなのです。


もちろん、選択肢や結末は用意された範囲のものとなりますが、経過と結末が完全に固定されている一般的な小説とは異なり、自らの選択が物語に干渉する醍醐味を味わえる、新たな遊びと言える存在でした。

このゲームブックの盛り上がりは、しかし1980年代のピークを過ぎると、徐々に下降線を辿っていきます。2000年代に「創土社」がゲームブックの復刊・新作のリリースを行うといった流れもありましたが、最盛期の勢いを取り戻すには至りません。

その時代からもさらに時間が経った2020年現在、ゲームブックはどうなったのかといえば・・・最新デバイスの環境下で、今も現役の娯楽として楽しむことができます! 往年の名作のみならず、平成・令和に登場した完全新作作品もあり、その熱は今も決して途絶えていません。

そこで「2020年にも脈打つ“ゲームブック”の息吹」と題し、ゲームブックの今に迫りたいと思います。今回お送りするのは、【電子書籍編】。
Amazon kindleで購入できる、電子書籍化されたゲームブックの一部をご紹介! ゲームブック文化を力強く支えている「幻想迷宮書店」の作品から、3本をチョイスしてお届けします。

今回取り上げた作品は、いずれもKindle版がリリースされているので、当然iOS/Androidでもプレイ可能です。往年のファンの方々はこの機会に、スマホで「ゲームブック」と再会してみてはいかがですか。また「ゲームブック」未経験の貴方は、“めくるめく冒険”ならぬ“めくる冒険”と出会ってみてください!

国産ゲームブックの基本にして金字塔!「ドルアーガの塔」三部作

大手通販サイトのamazonにて、「ゲームブック」で検索をかけると、実に多数の作品がリストアップされます。ですが、その中には「ゲーム」を扱かった書籍なども混じるため、そこから面白いゲームブックを探すのはなかなか大変です。

そこでまず、「ゲームブック」の入り口として相応しい名シリーズから紹介したいと思います。
その名は、「ドルアーガの塔」三部作の名でも知られている「悪魔に魅せられし者」「魔宮の勇者たち」「魔界の滅亡」です。

アーケードやファミコン版など、様々なプラットフォームに登場した『ドルアーガの塔』をモチーフとしたこのゲームブックは、原作と同様、60階を踏破するボリュームたっぷりの冒険を展開。囚われたカイを救うため、黄金の騎士・ギルガメッシュが危険極まりない塔へと挑みます。

この三作で大きなひとつの物語を描いており、各巻でそれぞれ20階分の出来事を収録。また作中のストーリーは、原作を取り入れた部分こそあれ、迷宮に挑む冒険譚が軸となっています。反射神経を要するバトルと、アイテムを出現させる謎解きがメインだった原作ゲームとは違い、塔の中で出会う人物とのやりとりや、危険な仕掛けが待つ迷宮での探索などにも重点を置いており、“あなただけの冒険”を味わうにはうってつけです。


あくまで傾向としてですが、コンピュータRPGで描く“冒険”は、敵を倒して経験値を稼ぐことでレベルアップし、手に入れたお金で装備品を整えてダンジョンに挑戦。そして宝箱を見つけながら、最後の部屋で待つボスと戦う──こういったケースが多いように思います。

ですが、冒険の醍醐味はそれだけではないはず。迷宮のドアひとつを取っても、「罠が仕掛けられてたらどうしよう」「扉の向こうに、手強いモンスターが待ち受けているのかも」「ここは素通りした方がいいのか?」と、そこには様々な可能性が潜んでいます。

その上で、自分がどの選択を選ぶのか。下した決断と、もたらされる結果の連続もまた、“冒険”が持つ醍醐味のひとつ。
そしてゲームブックでは、この醍醐味をダイレクトに味わえる娯楽なのです。

「悪魔に魅せられし者」「魔宮の勇者たち」「魔界の滅亡」は、ゲームブックの魅力が詰め込まれたお手本のような作品であると共に、名作と語り継がれるに相応しい出来映えを備えています。ゲームブック初心者の入門用としても、申し分ありません。

ただし、戦闘やアイテム管理などもしっかり行うタイプなので、別途メモを取る必要アリ。こうした手順もゲームブックらしい楽しさなので、がっつり取り組んでみではいかがでしょうか。各階層はマッピングできるほど理路整然としているので、『世界樹の迷宮』などが好きな方にもお勧めです。
出来上がったダンジョンの地図は、あなただけの宝物になること間違いなし!

■幻想迷宮書店「悪魔に魅せられし者」(ドルアーガの塔 第1巻)
http://gensoumeikyuu.com/gb01/
■Amazon「悪魔に魅せられし者 」
https://www.amazon.co.jp/dp/B01BPTUYKU/

<cms-pagelink data-text="過ぎ去りし時代の日本で、少年は忘れられない夏の日を過ごす──" data-page="2" data-class="center"></cms-pagelink>

日本古来から続く伝奇要素と、少年少女のひと夏を描いた「送り雛は瑠璃色の」

紹介する2作目のゲームブックは、「ドルアーガの塔」三部作とは違う魅力を放つ、「送り雛は瑠璃色の」です。「ドルアーガの塔」三部作は、いわゆる中世ファンタジー風な世界観でしたが、「送り雛は瑠璃色の」の舞台は、昭和の日本。中学最後の夏を過ごす少年少女たちの物語となります。

作中の時代が昭和なので、現代と比べると古さ・懐かしさを感じることと思います。しかし、読者が感じるであろう時代の隔絶感は、時間が経過したから生まれたものではありません。「送り雛は瑠璃色の」が発売されたのは1990年で、時代的にはすでに平成。つまり、発売当時から“過ぎ去りしかつての時代”を綴った作品だったのです。

かつての時代を思わせる雰囲気は、時代設定だけではありません。本作では、謎めいた同級生・ハルカの動向や抱える秘密、巻き起こる異変などの断片について、古典や和歌を通して表現する場面が多数存在し、ジャパニーズ・ホラーにも通じる独特の雰囲気作りに成功しています。そして、伝承や民話といった文化的要素を“伝奇”として昇華させた「送り雛は瑠璃色の」は、過去と今を繋ぐ奇跡をゲームブックで表現し尽くしました。

「わらべ歌の“かごめ、かごめ”は、“かがめ、かがめ”というより“籠目、籠目”という呪的言葉で、“九字”の格子や五芒や六芒星の魔術的紋様を刺しているのではないか」──これは作中で主人公が目にする資料の抜き出しですが、この世界を構築する雰囲気作り(伏線含む)が折々に盛り込まれており、日常に潜む“境界の向こう側”を巧みに演出します。

ありふれた日々を異変が侵食する中で、歌や伝承の一片から真実を解き明かし、少年と少女が交差する一瞬を見事に切り取った「送り雛は瑠璃色の」。本作は、ゲームブックではかなり希少で、そしてコンピュータゲームでも珍しい“伝記+ボーイミーツガール”を堪能できる、貴重な作品です。

■幻想迷宮書店「送り雛は瑠璃色の」
http://gensoumeikyuu.com/gb08/
■Amazon「送り雛は瑠璃色の」
https://www.amazon.co.jp/dp/B086VYKG7Y/

<cms-pagelink data-text="復刊だけじゃない! 終わりが近づく平成の世に、一大叙事詩を描くファンタジー作品が登場" data-page="3" data-class="center"></cms-pagelink>

ページをめくるたびに、時間と空間を超える冒険が広がる「護国記」

ここまでは、ゲームブック最盛期を彩り、電子書籍で復刊を果たした名作たちを取り上げてきました。ですが、本記事の締めくくりを飾るべくピックアップしたのは、2018年に登場した完全新作──その名は、「護国記」です。

本作は、サイコロを振って戦うといったゲーム的な要素はなく、それまでの行動と戦闘中の選択肢が結果を左右します。バトル面でのルールがないため、文章を読み、選択肢を選ぶことだけに集中できるので、没入感も抜群です。

後半で単語をメモする場面こそありますが、そちらは頻度も少ないので、スマホの機能を使って書き留めておくもよし、手帳などにメモしておくのもよし。物語を読み進め、主人公の行動決定だけで、本作の99%を楽しめると言っても過言ではありません。

そして肝心の物語ですが、読者は「壱の国」の書物編纂室員・ライゼ=インカルナとなり、他国からの急襲に立ち向かうことになります。一応の訓練を受けているとはいえ、兵士としての熟練度は決して高くないライゼ。しかも敵の先陣は、この世界でも名が知られた英雄ばかりで、まともに戦っても返り討ちに遭うだけです。

ちょうど、城の守りが手薄になったタイミングでの強襲。守りの要である防衛機構も停止するなど、あまりに不可解な事態が続きますが、一介の書物編纂員がその真実を知ることなど到底叶いません。──そう、ただ一度きりの人生であれば。

ある出来事を通じて、ライゼは死ぬたびに時間を遡り、襲撃直前に輪廻する力を手に入れます。この「繰り返し」を通じて、襲撃の目的や裏事情、そして世界の危機と真実に近づいていくのです。

当初は、大事な人を守り抜くのが精一杯だったライゼですが、同じ時間を繰り返していく中で、英雄たちに対抗できる武器を手に入れ、使いこなす術も学び、頼もしさが増していきます。巻き戻る時に持っていけるのは記憶だけですが、“情報”の積み重ねこそを武器にして国を揺るがす事態に立ち向かう姿に、精神的な成長と英雄の資質を見出すことでしょう。

その歩みを知り、時間の繰り返しを「ページをめくる」動作として実感する読者は、徐々にライゼとの一体感を覚えるはず。同じ時間を繰り返す物語自体は、映画や漫画、小説などにもありますが、ゲームブックだからこそ味わえるこの同一性は、他のメディアでは味わえない楽しさと言えます。

ライゼは、あなたの判断と選択によって様々な活躍を見せてくれますが、その道のりは平坦ではなく、そして意外な展開を迎えていきます。彼がどのように、「壱の国」を守り、護国を成すのか。エンターテインメント性とゲームブックの魅力が結びついたこの名作の結末を、ぜひその指で、めくってみてください。

■幻想迷宮書店「護国記」
http://gensoumeikyuu.com/gb31/
■Amazon「護国記」
https://www.amazon.co.jp/dp/B07J3K4M22/

昭和時代に最盛期を迎えた「ゲームブック」という娯楽は、停滞や沈黙が訪れた時もありますが、しかし途絶えてはおらず、今もその灯火が輝き続けています。

完全新作の「護国記」が登場したのは、2018年10月。令和の幕開けまで残り1年を切ったタイミングでリリースされており、平成を締めくくるに相応しい作品となりました。

また、「送り雛は瑠璃色の」の電子書籍版は、2020年4月に配信開始。今回は取り上げられませんでしたが、「幻想迷宮書店」ゲームブックの最新刊であり、通算3作目の完全新作となる「ラグーサ城攻防戦」も、その1ヶ月後に配信がスタートしています。

昭和、平成、そして令和と3つの時代を駆け抜けている「ゲームブック」。その市場は決して大きいとは言えませんが、今も新たな風が吹き続けているジャンルです。懐かしくも新しい風を受けながら、冒険のページをめくってみるのも一興ですよ。