常識を「非常識」に徹底するマツダの働き方改革

常識を「非常識」に徹底するマツダの働き方改革
幾度となく倒産の危機を乗り越えながら今や年産200万台までカウントダウンとなったマツダ。その理由は生産性の徹底改革にあった
 マツダの働き方改革について書きたいと思う。あらかじめ断っておくが、マツダの働き方改革は、いわゆる総務・人事の領域の話ではない。それは徹底的にクルマづくりの話なのだ。

 非常に重要なテーマでありながら、「働き方改革」という言葉は誤解されやすい。残業をなくすことだったり、有給休暇を消化することだったり、そうやって矮小化して、ただ人が楽になるだけの話にフォーカスすると働き方改革の本質が見えなくなる。

 大手メディアを中心に、残念ながらわが国ではいまだに、搾取する大企業と搾取される労働者という対立軸でしか物事を見られない人がいる。しかし、実際に社会で働いている人なら知っているはずだ。ホントに仕事は苦役で、働かずに済むことが理想なのか?

 そんなことはないはずだ。多くの人は仕事を通じて社会貢献すること、尊敬されること、人間関係が生まれることにポジティブな喜びを感じているはずである。それが仕事の明るい側面なのだが、しかし光があれば影もある。下げたくもない頭を下げたり、長い時間を仕事に捧げたり、大切なプライベートの優先順位を下げたりという疲弊する事々は、日々の仕事の中で起きている。

 働き方改革とは、そういう仕事のネガティブな側面をできる限り圧縮しつつ、より豊かな人生のために心も体も健康に仕事をしようということである。

 充実した仕事のためには、積極的に共感できる目標が必須だが、その目標が達成できたなら、金銭的にも正当なリターンがあるべきである。だから働き方改革は働く人にとって待遇改善であるのと同時に、組織ももうからなくてはならない。組織が一方的に利益をはき出して、個人に還元するような形なら、それには継続性はない。

 つまり、働き方改革の本質は、より無理のない労働で、利益を増やす生産性の改革であり、例えばマツダのケースで言えば、より素晴らしいクルマや技術を生み出しながら、それを社員の負荷任せにしない。あるいは、もう一歩踏み込んでやりがいがある楽しい仕事に転換することである。

●無駄をなくす具体策

 さて、理想の話はそうだとして、単に「無駄をなくそう」とか「合理化しよう」という掛け声だけで変化がやってくるわけではない。テンプレートのような報告書だとか、資料だとか、現実の仕事は大抵無駄だらけだが、それをただやらなければ済むわけではない。組織の方針としてそういう手順になっていて、勝手に止めるわけにはいかない。

 しかも、今時の職場で人や予算が有り余っていることなどない。そういう状況下で、必要悪として無駄を受け入れていたら仕事なんて永遠に終わるはずがない。かくして残業も休日出勤も当たり前になってしまう。

 マツダは大きな企業だが、それでも巨人ひしめく自動車産業の中で見ると、規模はむしろ小さい。当然お金も人も足りない。2017年度決算の主要データをトヨタ自動車と並べてみるとよく分かる。

トヨタ

・販売台数:896万台(中国生産を含まず)

・売上高:29兆3795億円

・純利益:2兆4939億円

マツダ

・販売台数:156万台(中国生産を含まず)

・売上高:3兆2144億円

・純利益:938億円

 これだけ規模が違っているにもかかわらず、マーケットでは五分で戦わなければならない。精神論で頑張っても超えられる壁ではない。そのためにマツダは何をやったのだろうか?

 別にものすごく変わったことをしたわけではない。読者諸兄にはすでに予想がついている通り、生産性改革である。そのためにやったことは選択と集中だ。ただ、その選択と集中の徹底度合いが並外れているだけである。

 マツダの改革の下敷きになったのは、エリヤフ・ゴールドラット博士が提唱した「制約理論(TOC)」である。制約理論とは、多くの問題が絡み合って、簡単に序列がつけられない問題の源流を探し出す方法論だ。混乱の最中にいる人から見ると、問題は複雑にループしており、卵と鶏の関係にあって、どこから手を付けて良いか分からなくなる。それを解きほぐせれば解決方法は見つけ出せる。

 実は以前、筆者もとあるプロジェクトが混乱に陥ったとき、この制約理論に基づいて、問題の根源を探し出したことがある。簡単に言えば、プロジェクトにかかわる全ての人に、英単語カードのようなカードを大量に配り、自分が気が付いた問題を大小軽重にかかわらず思い付くだけ全部書き出してもらう。後はこれを因果関係の序列に並べていくだけだ。

 例えば「仕事が多すぎる→人が足りない→予算が足りない」のような関係に並べていくのだ。「仕事が多すぎる。なぜならば人が足りないからだ」「人が足りない。なぜならば予算が足りないからだ」というように問題を因果関係で整理していく。この構造では下流の問題点は必ず上流の問題の解決で解消する。この例で言えば上流にある「予算が足りない」を解決すれば、それ以下の人不足も仕事の多さも解決される。

 不思議なことに、大変錯綜していると思われる問題もこうして因果関係でつないでいくと、樹形図になっていく。ディレクトリ構造を持つ樹形図で、かつ上位の問題点解決が下位問題点を霧散させられるとするならば、いくつかの(あるいはたった1つの)樹形図の頂点だけに対策を絞れば良いことになる。

 マツダが繰り返し説明する「ボーリングの1番ピン」とはこの樹形図の頂点を指している。「全ての課題に通じる共通課題=ボーリングの1番ピンを見つけて集中する」というやり方はまさに制約理論の神髄なのだ。

 このやり方を聞いて「そんなにうまくいくはずがない」と思う人は多いと思う。しかしこの整理法はどんな問題でも整理できる。筆者のケースでも、スタート時点ではとても懐疑的だった。「世間のケースではできるかもしれないけれど、ウチのこの案件はちょっと特殊だから」そう思った。しかし見事にたった1つの問題点にたどり着いたのである。

 ただし、それには条件が1つだけある。因果関係を誤りなく見つけ出すのはそれなりに経験が必要だし、膨大な問題点の因果関係を解きほぐし、問題点の関係性を理解させ、下位の問題が上位に吸収されて、問題が絞られ、「これならできる」とスタッフ全員に思わせる。その手順をどれだけ早く進められるかはリーダーのセンスに依存する。残念ながらそこには属人的な領域がある。マツダには人見光夫常務という天才がいた。人見常務がいなければマツダの改革は形にならなかっただろう。筆者が言っているわけではない。マツダの中の人に聞くと、誰もが人見常務の仕事についてそういう評価をしており、それは混沌の最中に、膨大な選択肢をうち捨てて、ただCAE(Computer Aided Engineering)一点に選択と集中すると決める決断の難しさを如実に物語っている。

●鶏と卵を断ち切る

 人見常務が見出した1番ピンとは何だったのか? それはCAE、つまりコンピュータを用いた解析計算であり、平たく言えばコンピュータシミュレーションの徹底活用だ。

 以前の開発では、試作部品を作ってテストを行い、問題が出たら改善した次期試作を制作。それを延々繰り返しながら一歩ずつゴールに近づいていく。しかし開発には期限があるので、結局はやり切らないまま、勘と予測で押し切ることになる。

 その結果、量産が遅延し、遅延分の人件費がかかってコストが増加、最後の力業のせいで品質問題が多発、その改善に人手を取られて、慢性的に多忙となる。

 すると、人の意識が防衛的になって、自分の部門で難しいことを引き受けることを回避し、チャレンジを避ける。技術力は低下するし、士気も落ちる。当然人材育成も進まない。

 問題がスパイラル化して、次々と問題を起こし、しかも鶏と卵のように、サイクル化してしまっている。これでは良いものは作れないし、労働環境も改善しない。

 だから、人見常務は考えた。「試作とテスト」のサイクルを脱却しないとどうにもならない。それができる方法があるとすれば、CAEを導入したシミュレーションしかない。実物を作ってテストするというサイクルと比べれば、シミュレーション上で設定を変えるのははるかに手間が少なく、結果が出るのも早い。

 可能な限り、従来の「試作・テスト」をシミュレーションに置き換える。CAEの速さなら、これまでと違い最後までやり切ることができる。量産の遅延はなくなり、人件費も減ってコストが下がる。品質問題も減るので、改善の工数も減らせる。

 そうなれば、エンジニアは本能的に新しい技術にチャレンジしたくなる。難しい技術にチャレンジする空気になって技術力も向上する。士気は高まり、人材育成も進む。1番ピンさえやっつけることができれば、全てが解決するのだ。

 マツダではこのCAE開発をさらに発展させ、基礎的な数式モデルを作成して、個別車種ではなく全てのモデルに普遍的に適用するモデルベース開発(MBD)によってさらなる生産性改革へと昇華させた。マツダの看板とも言えるSKYACTIVはこのMBDを用いて、共通にすべき特性を固定し、個別の個性を出すべき部分を変動させることで生まれたのだ。

 マツダの場合、これらの手法を働き方改革として取り入れたわけではない。マツダが自動車メーカーとして生き残っていくために、必死で取り組んだ生産性改革の成果が、結果的に働き方改革になっているだけだ。しかし、人もお金もない中でより良い製品を作っていかなければ死ぬだけだと腹を括って徹底したからこそ、今の勢いがあるマツダにたどり着き、社員の士気を高めることに成功したのだ。

 ひとつ気になることがあった。人見常務が天才であればあるほど、余人に代えがたいことになる。しかし属人的なスキルは企業のノウハウとは言えない。筆者はその問題について、頭の中では具体的に「ポスト人見常務」という意識を持ちつつも、あくまでも一般論として、一体どうやってノウハウを組織に取り込んでいくのかを尋ねた。

 人見常務の答えである。「属人化している部分は絶対にあります。その方面は滅茶苦茶得意な人っているんですが、今までの制度では満遍なくいろいろなことができないと評価されませんでした。例えばしゃべりがダメとか。でも、問題を見つけるという能力が素晴らしかったら、それをちゃんと評価する仕組みを作って、『ああいう風にできたらしゃべりが苦手でもちゃんと処遇されるんだ』と周りが思えるように人事制度を変えていかないとダメなのです」。

(池田直渡)

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「常識を「非常識」に徹底するマツダの働き方改革」の みんなの反応 5
  • 匿名さん 通報

    トヨタを相手にしてる時点でマツダの負け。車造りではマツダの方が上なんだから自信もたないと。トヨタが売れてるのは日本人特有のブランド志向のため。良い車ではない。

    8
  • 台数? 通報

    台数は少なくても良いのでは。数が多ければ規模のメリットが出ますが、規模が小さくても利益率をあげられるならばそれに越したことはない。日本企業の多くが数を追求しすぎている。

    5
  • 匿名さん 通報

    純利益/売上が異常なクソトヨタ。

    2
  • 匿名さん 通報

    このような働き方改革は素晴らしい。天才がいなくてもできるでしょう。さぁ、自分もチャレンジだ!

    2
  • 匿名さん 通報

    なにをいまさら超基本的なことだろ。

    0
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