■力士の後ろで「シー」

相撲を観戦したことがない人でも、横綱の土俵入りを見たことがある人は多いと思います。露払いと太刀持ちを従え、綱をしめた横綱の姿は勇壮ですね。
ついつい横綱ばかりに目が奪われてしまいがちですが、行司の所作にもしっかりと意味があるのです。

まず、行司は土俵の仕切り線の後ろで蹲踞(そんきょ)をしています。横綱が徳俵(土俵の東西南北、四ヶ所にある出っ張り)の付近で蹲踞したまま柏手を打ちます。そして土俵の中央に進み、行司に背を向ける状態で仁王立ちになります。

テレビでは聞こえない?力士の後ろで「シー」行司がひっそり行っ...の画像はこちら >>


実はここで、行司は「しー」という声を出しながら、紐房を時計回りに1回、反時計回りに1回まわしているんですね。

この「しー」(すぃーと聞こえることも) という声は「警蹕(けいひつ)」といって、「静かにしなさい」という意味の一種の警告なのです。


■不敬を未然に防ぐための掛け声

起源は中国。天子が通行したり建物に出入りするとき、先払い(先導役)が辺りに声をかけて、道筋の人々が不敬な事をしないように諫めることを言いました。「警」は気をつけなさいという意味で、天子が出るときに民に向かって言い、「蹕」は止まりなさいという意味で、入るときに言いました。
それが広く天皇や貴人が通行するときにも、使われるようになったのですね。

また、神職の方が神前へ供物を奉るときや神楽を奏するときなどにも行われます。行司は神職も兼ねていますから、警蹕は行司の行う所作として相応しいものなのです。


ちなみに房を回すのは邪気を払うためとされています。房を回す動作は確認できても、声はテレビ中継ではほとんど聞こえないかもしれません。

横綱が四股を踏む際には観客が「よいしょ~!」と 大きな声をかけますが、本来はそれまでは 静かにしているべきなのですね。現場にいると興奮して名前を連呼したり大声で話したりしてしまいがちですが、一呼吸置いて、横綱の動作を見守りながら静謐な空気を感じてみてはいかがでしょう。

その後の順序としては、横綱は柏手・四股を踏み終わった後、上体を徐々に競り上がらせて起き上がります。そのとき行司は土俵に房を降ろします。


横綱が再び徳俵の近くに下がると同時に、行司は中央付近に進み出て、軍配を捧げ持ちつつ蹲踞します。横綱が柏手を打つと露払い・太刀持ち・横綱・行司が同時に立ち上がり土俵に一礼して下がり、土俵を降ります。

ついつい派手なパフォーマンスの横綱に目が行ってしまいますが、行司も役割を全うしているのです。土俵入りを見る機会がありましたら、注目して見てくださいね。

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan