ガキ帝国』『パッチギ!』の井筒和幸監督の8年ぶりとなる作品は、あるヤクザの組長の少年時代から任侠道を引退するまでの約30年間を描いた裏社会の男たちが送ってきた暗黒史を描いていく。
舞台は太平洋戦争敗戦直後の日本。貧困と無秩序の渦中にいた日本人は、焼け跡から立ち上がり、東京オリンピックの開催を象徴とする高度経済成長期の下で「復興」を成し遂げた。
しかし、繁栄は「浮かれ」となり、到来したバブル期は、昭和から平成へと移り変わるとともに脆くも弾け、経済は崩れていく。この移り変わりの時代に、誰にも頼らず、たった一人で飢えや汚辱に立ち向かい、社会と戦い続けた「無頼の徒」が存在した。男は、自身の下に集まったはみだし者たちを抱え、一家を形成し、ヤクザのボスとなり、裏社会で存在感を発揮していく。
井筒監督は、強烈なメッセージを下地としたエンタメ作品を撮り続けてきた。誰が見ても分かる「明確な起承転結」をシナリオに落とし込むことに長けている映画作家といえるだろう。
「こうしか生きられない生き方」それでいいじゃないか
本作は、主人公のヤクザを通した視点と、近代史を俯瞰で見た視点が混在する叙事詩となっており、さしずめ日本版『ゴッドファーザー』と呼べる構成となっている。これまでの井筒作品と一線を画す作品に、松本利夫、柳ゆり菜、中村達也といった役者陣が光彩を放つ。
「正義を語るな、無頼を生きろ」というコピーが象徴するものとは、任侠の世界に依るところだけではない。井筒監督は本作を通して、現代に蔓延るストレスをぶっ飛ばそうとしている気概を感じせざるを得ない。井筒監督は「どこから日本人はおかしくなったのか」という自問自答を繰り返し、この壮大な叙事詩を考案したのではないだろうか。「成功も名声も望まない生き方」という台詞が本作に出てくる。