世の中に通説や定説が浸透するには時間がかかる。いまだに何が本当なのか、よくわからないことも少なくない。本書『その話、諸説あります。』(日経ナショナルジオグラフィック社)はそんな「疑問」「謎」の中から、世間で関心を持たれているものを選んで、「複数見解」を伝えたものだ。「フェイクニュース」が広がりやすい時代だからこそ、時機を得たものといえるかもしれない。
正解は書かれていない
本書は、「最初にお断りしておくと、この本には正解は書かれていない」という注意書きから始まる。「教科書に載る前の世界にようこそ!」という見出し。つまり、教科書に掲載されているのは、「答え」が「事実」として幅広く認定されたもの。それは世の中の過去の出来事や、現在の現象、未来に起きうる様々な事柄の中のごく一部に過ぎない。それ以外は、いまだに答えがわからない問いと、その問いに答えようとする無数の「説」だらけ。そうした状況を「この世は諸説でできている」と総括し、主なものについて紹介しようというのが本書の趣旨だ。
アインシュタインの「重力波」説は100年後にようやく証明され、「説」から「事実」に昇格した。いったん「事実」とされていたことが「実は間違っていた」こともある。本書では、「恐竜のウロコ」について語っている。恐竜は爬虫類の一種と考えられ、トカゲや蛇と同じような体表を持つとみなされていた。ところが、近年になって古生物学者が、実は恐竜は鳥類の子孫ではないかという説を唱え、それを裏付ける化石を中国の学者が発見した。ウロコではなく羽毛が生えていたというのだ。