我が子、生徒、部下。誰かを「叱る」立場にある人、特に「きちんと叱らないとダメだ」と考えている人に、知ってほしい事実が二つある。一つは、「叱る」ということにはほとんど効果がないこと。もう一つは、「叱る」ことには依存性があり、どんどんエスカレートしていくということ。
私たちが知らない「叱る」の正体を、臨床心理士・公認心理師の村中直人さんが、著書『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)で解説している。

私たちは「叱る」をよく知らない
「きちんと叱らないとダメだ」と考える人は多い。たとえばレストランで子どもが騒いでいるときに、親に「なぜ叱らないんだ」という視線を送る人は少なくないだろう。また人に教える立場の人が、「きつく叱られる経験がないと成長しない」と考え、厳しく叱責することもある。村中さんいわく、彼らは「叱る」を過大評価している。「叱る」ことに、私たちが考えるほど成長や学びの効果がないことは、本書中で解説されている。反対に、「叱るのはよくない。かわりにほめよう」という考え方も近年人気だ。実はこちらも「叱る」の本質をとらえられていない。「叱る」ことは、「ダメ」なのではなくそもそも「効果がない」のだ。くわえて、かわりにほめようと言ったって、叱りたくなった事柄に対して、ほめ言葉は見つからないだろう。では、叱るかわりにどうすればいいのか。
村中さんは、「叱る」に対して肯定でも否定でもなく、「うまく付き合う」ことが必要だと言う。なぜなら私たちは、効果がないとわかっていても、「叱る」ことをやめられないからだ。