東京オリンピックの閉幕とともに、新型コロナウイルスの感染拡大がまたクローズアップされてきた。国内の新規感染者は連日1万人を超え、軽症者や一部の中等症の人は、入院できず、自宅療養を余儀なくされている。

あらためて新型コロナウイルスがもたらした影響や対策について、関連本とともに考えてみたい。

コロナ後の日本の社会はどうなるのか?

多くの人が関心を持っているテーマだろう。90万部超のベストセラーとなった「未来の年表」シリーズの著者、河合雅司さんの新刊「未来のドリル コロナが見せた日本の弱点」が、一つの答えを示している。コロナが示した最大の爪痕は、少子高齢化とそれに伴う人口減少の悪化だというのだ。そして、今が対策の「ラストチャンス」だとも。ドリル形式で書かれた本書の問いに答えるうちに、深刻な日本の「老化」に気が付き、愕然とするかもしれない。

そんなインパクトのある本だ。

「未来のドリル コロナが見せた日本の弱点」(河合雅司著)講談社
コロナ禍で減った婚姻、出生数

河合雅司さんは元産経新聞記者の作家・ジャーナリスト。高知大学客員教授、産経新聞社客員論説委員などのほか、厚労省など政府の有識者会議委員を務める。「未来の年表」(講談社)シリーズなどの著書で、一貫して日本の少子高齢化問題の深刻さを指摘してきた。

本書は河合さんからのクイズを解くドリル形式で書かれている。答えを読むと、日本社会の問題が浮き上がる仕掛けになっている。

最初のクイズはこうだ。

「2021年『ベビーショック』到来! それは政府の想定より18年早く、出生数が□万人ほどになるから」
A 75 B 85 C 95

答えはAの「75」万人だ。2020年が過去最低を更新して84万人だった。同年1~11月の婚姻件数は前年同期の12.3%減。これに比例して妊娠件数が1割下落すれば、2021年の年間出生数は75万人程度まで減る可能性があるという。速報値では1~3月の出生数は、「コロナ前」だった前年同期比9.2%の減だった。

政府は75万人となる時期を2039年と予想していたから、18年も早い到達が現実になろうとしている。

少子化が深刻なときにコロナ禍に襲われる「最悪の巡り合わせ」となったが、もう一つ最悪な理由があるという。2020年に女性人口の過半数が50歳以上になったことだ。多くの女性は40代で出産を終える。政府の悲観的なシナリオどおりに進めば、2065年には出生数は約41万6000人と、現在の半分以下になる恐れがある。

コロナ禍が若い女性の東京集中を進めた

人口減少だけでなく、高齢者とコロナ自粛、地方経済の疲弊、東京都の人口減少など、広く問題を設定している。

その中に、こんなクイズがあった。

「コロナ禍が地方消滅のスピードを速めるのは、若い□□の東京集中を促したから」
A 女性  B 男性

答えはAの「女性」だ。2020年の東京都は感染が拡大した5月以降、6月を除いて12月までの計7カ月にわたり転出超過が続いた。河合さんは、これを男女別にすると、東京都と地方との関係が鮮明になると指摘する。

最初の緊急事態宣言が発出された4月の東京都への転入超過数は、女性が男性の3.5倍にも上るというのだ。前年同月比でみると男性は4892人から1001人へ80%減だったのに対して、女性は8181人から3531人へ57%減にとどまったためだ。

男女で開きがあるのは、東京都への転入者の大半が20代前半だからだ、と説明する。男性は女性に比べて地元で正規雇用の仕事が見つけやすく、女性は地元に希望する就職先がないために上京するケースが少なくない。

7~12月は男女とも転出超過となったが、どの月も男性の数字が大きい。地方経済の落ち込みが激しかったため、地方に戻ったら余計に仕事を見つけづらく、東京にとどまった女性が多い、と河合さんは分析している。コロナ禍はむしろ若い女性の東京集中を促したというのだ。

コロナ禍で地方移住の関心は高まった。

しかし、実際に踏み切る人は限定的で、多くの人は地方ではなく、東京圏の中で引っ越していた。2020年の東京都からの転出者は、40万1805人と全国トップだった。行き先は埼玉県へ7万4659人、神奈川県へ9万1669人、千葉県へ5万6186人で、多くは隣接県への転出だったことがわかる。

日本を守る「切り札」5か条

こうしてクイズ形式の第1部で、コロナ禍がもたらした「人口減少後の社会」を覗き見した後、第2部では「日本を守る『切り札』5か条」を提案している。コロナ禍が浮き彫りにした「社会の老化」を防ぐには、若い世代に期待するしかないという内容だ。

(1)国政選挙に「若者枠」を新設
(2)中学卒業時からの「飛び入学」導入
(3)「30代以下のみが住む都市」の建設
(4)大学を共同キャンパス化する
(5)若い人々に英才教育をする

大学のオンライン授業など、若い世代を諦めの境地に誘う施策ばかりが導入され、やがて社会の活力は失われると危惧している。高齢者を守ることと若い世代の活動は両立可能だと、河合さんは説いている。

高齢者への対策ばかりが重んじられ、若者が軽視されたことのツケはいずれ回ってくるかもしれない。それでも河合さんは期待をかけ、若い人への手紙で本書を結んでいる。

「この国が、いまほど若い力を必要とするときはありません。なすべきは、無難さを求める『大人の理屈』に巻き込まれることなく、それぞれの夢や目標にチャレンジを続けることです。自分を信じて失敗を恐れず何度でも立ち向かうことです」

知らず知らずに我々が若者を遠ざけていたことに気がついた。こんな状況だからこそ、若者に期待する河合さんの発想に頭が下がる思いがした。(渡辺淳悦)

「未来のドリル コロナが見せた日本の弱点」
河合雅司著
講談社
968円(込)