液化天然ガス(LNG)の価格が世界的に高騰している。昨冬の寒波に始まり、中国の爆買いやロシアの供給絞り込み、欧州など世界の「脱炭素」による需要増など、多くの要因が重なっているためだ。
日本の電気・ガス料金も上昇が続き、家計を圧迫する事態になっている。
価格高騰の要因は地域によって違う液化天然ガス(LNG)は常温で扱える石油や石炭とは違い、零下162度に冷やして体積を600分の1にするので、液化設備の建設や運搬の費用がかさむ。このため、開発時に供給先が決まっていて、長期契約になることが多い。
ところが、世界的に需要が増え、長期契約で足りない分を確保する必要から、スポット取引が拡大している。
LNGのスポット価格は昨冬の世界的な寒波の影響などで、2021年1月に100万ブシェール(英国熱量単位)当たり30ドル超の史上最高値を付け、その後、一度は急落したものの、夏場も電力ひっ迫などで再び上昇。7、8月には15ドル以上、9月になって騰勢を強め、20ドル以上になっている。例年(5~8ドル程度)と比べ、異常な高値といえる。
高騰はさまざまな要因が絡んでいて、地域によっても理由は違う。
アジアでは、日中がスポットの確保に走った。日本は、東日本大震災で原発が停止したため発電用に急遽調達する必要に迫られたことから、スポット取引が増加。従来は10年、20年の長期契約が8割以上を占めていたのが、現在は3割程度をスポットが占めるという。
さらに、昨冬の思いがけない寒波で電力がひっ迫、大手電力は火力発電を急遽増やし、LNG確保に努めた。
影響は一般家庭も直撃し、電気料金、ガス料金の値上げが続いている。東京電力など大手電力は2021年入りほぼ毎月のように電気料金を上げ、東電の標準家庭の料金は11月も10月から133円値上げが発表されており、1月からの上昇幅は1000円を超える。東京ガスも11月に89円上げる。
中国は、新型コロナウイルスの感染拡大をいち早く抑え込んで景気が回復したのに加え、水力発電の不調などもあってLNG需要が膨らんだ。
欧州はロシア産LNGの依存度が高いが、今春にかけ低温のための需要増でLNGの在庫が減っていたところに、ウクライナ経由のパイプラインによるロシアからの供給が減ったという。ロシアは供給量を絞って価格維持を図っているとみられ、また、政治的に対立するウクライナに支払われるガスの「通過料」を減らそうとの思惑も指摘される。ロシアからドイツに直接LNGを送る海底パイプライン「ノルドストリーム2」が完成したが、実働にはなお時間がかかるという事情もある。
「脱炭素」実現への動きが影響こうした天候や足元の動きの影響を除いても、日中、欧州、さらに世界を通して構造的ともいえる要因が「脱炭素」だ。
欧州の多くの国では、発電の二酸化炭素(CO2)の排出量が多い石炭からLNGに切り替える動きが強まっている。もちろん、LNGもCO2を排出するから、再生可能エネルギーの拡大が重要だが、風力、太陽光など天候にも左右されるため、再生エネルギーが増えるだけ、それを補うためにLNG依存は高まる面もある。
中国も、習近平政権が2060年のカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)を掲げ、石炭火力の縮小に動き、LNG需要は高まる一方だ。21年1~7月のLNG輸入量は4545万トンと前年同期から約3割増えている。21年の年間では前年比16%増の7800万トンと調査会社が予測しており、前年から横バイの7450万トンと見込まれる日本を初めて抜き、世界一の輸入国になるのは確実。25年の輸入量は9300万トン、さらに2050年には日本の3倍以上に膨らむとみられる。いずれにせよ、「爆買い」が続くのは確実だ。
2050年カーボンニュートラルを目指す日本は、近く閣議決定するエネルギー基本計画で、2030年度の電源構成でLNGは現行の37%から20%に引き下げると公式に決める。ただ、再生可能エネルギー36~38%、原発20~22%と、かなり高い目標を掲げており、それらが計画どおりに進まなければ、LNGでカバーするしかない。
一方、供給面では、地球温暖化対策のため化石燃料への逆風が強まり、欧米のエネルギーメジャー(大手資本)はLNGを含め開発投資を減らし始めている。化石燃料の中では相対的にCO2排出量が少ないLNGではあるが、安定的に供給される保証はない。
足元でLNGの需要が世界で拡大し、価格も上昇が続くとすれば、日本はどういう対応が必要なのか。一定期間はLNGに頼るしかないとすれば、LNG開発への資金投入を含め、より安く、安定的に確保する戦略が必要だ。
長期的に脱炭素を図りながら電気料金も引き下げていくため、石炭、LNG火力発電の比率を下げていくとともに、再エネのコスト低減や送電網の増強などが欠かせない。
(ジャーナリスト 白井俊郎)