「体と直接、楽器が触れていて、歌うように自然に自分の息を流れさせられる楽器だなと個人的に思っています」

5月7日放送の音楽番組『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)で、こう語ったのはモデルでフルート奏者のCocomi(21)。彼女にとって、本番組に出演するのは初めてのこと。

司会の石丸幹二(56)は、「音楽の表現でカンタービレ(歌うように)という楽語があるように、演奏と歌は深い関係があります」と説明。その上でCocomiに、「フルートと歌の関係、これはどのように考えていますか?」と質問。すると、Cocomiは冒頭のように答えたのだった。

またフルートで歌を表現する際に心がけていることは「詞」だとCocomiはいい、「“吐く息の量”で調節して表現している」とコメント。フルートの吹き方による違いも実演して見せていた。

そんなCocomiが初めて楽器を習ったのは3歳の頃に触れたバイオリン。当時鑑賞したアニメ映画『耳をすませば』(’95)で、登場人物の天沢聖司がバイオリンに夢中な姿に憧れて音楽教室に通い始めたという。

しかし11歳の時、レッスンを受けている際に、隣の部屋から聞こえてきたフルートの音色に魅了されフルートの道に進むことになったと、番組では振り返っていた。

4月29日には、デビューアルバム『de l’amour』がNYの名門レーベル「DECCA GOLD」から発表されたばかりのCocomi。これまで彼女はプロを目指して歩んできた。

「Cocomiさんは高校では音楽科に進学し、3年生時には『日本奏楽コンクール』の管楽器部門で準グランプリに入賞。現在は桐朋学園大学音楽学部でフルートを専攻しています。

また、彼女が師事してきた神田寛明氏は、NHK交響楽団で首席のフルート奏者です。デビューを果たしたことで、ますますクラシック界における期待の新人アーティストとして国内外から注目が集まっているのです」(芸能関係者)

■「優しく繊細な音色は神田寛明先生譲り」

そんなCocomiが番組内で披露した楽曲は、クラシック名曲の「アヴェ・マリア」「愛の小径」「エストレリータ」「ヴォカリーズ」の4曲。チェリストの佐藤晴真氏(24)、ピアニストの金子三勇士氏(33)、高木竜馬氏(29)も演奏に参加した。

いずれの楽曲も心が和むような穏やかな音色が印象的な演奏だったが、専門家の目にはどのように映ったのだろうか?

「Cocomiさんの誰の耳にも明らかな優しく繊細な音色は、彼女の師匠である神田寛明先生譲りです」

そう語るのは、音楽ライターの小室敬幸氏。テレビで初披露したCocomiの演奏について、解説してもらった(カッコ内は全て小室氏)。

彼女が恩師から受けた影響は楽器選びにも表れているといい、小室氏はこう説明する。

「神田先生はフルート奏者としては珍しく、(古楽器ではない)木製のフルートを使用していることで知られているのですが、その楽器を作っているのがアメリカのパウエル社。Cocomiさんは曲によって金属製のフルートを3種、使い分けているそうですが、これらは師匠と同じパウエル社の楽器なのです」

番組では“歌う楽器”として紹介されたフルート。Cocomiは番組冒頭で、ピアニストの高木氏と「アヴェ・マリア」の演奏を披露した。

そのアンサンブルについて小室氏は「放送のなかでは“いかに歌に近づくか”というこだわりにフォーカスしており、実際に演奏もその通りだったのですが、それ以上に感心したのは構成感の見事さ」と語り、こう続けた。

「最初に演奏したグノーの『アヴェ・マリア』は、同じ旋律を1回目(1番)はフルートとしてはやや低い音域で、2回目(2番)は1オクターヴ上のよりフルートらしい音域で聴かせるという流れになっています。

1回目の低い音域は、若い奏者だと単調な表現になってしまったり、まだ曲の序盤なのに盛り上げすぎてしまったりしがちなものですが、抑制された表現のなかにもしっかりとグラデーションがあって、水彩画のような繊細さが実に素晴らしい」

■“共演者を尊重する”Cocomiの音楽家としての魅力

このようにCocomiが“共演者の音楽にリアルタイムに対応している”と感じた瞬間は、2曲目に披露した「愛の小径」にもあったという。

番組で披露された「愛の小径」「エストレリータ」はCocomiのデビューアルバムに収録されており、レコーディングにも参加したチェリストの佐藤氏、ピアニストの金子氏との演奏だった。

アルバムに収録されている楽曲と聞き比べてみると、小室氏はこう感じたという。

「アルバムの録音時に解釈が作り込まれているのでしょう。基本的な方向性は変わっていないのですが、そこにライブ感が加わっていたのが印象的。

特に『愛の小径』で2番に相当する箇所では、歌い出しからアルバムよりも盛り上がっていて、それを受けトリオ全体が熱量を帯びてくると、チェロの佐藤さんが短いソロをかなり強めに歌い出したんですね。すると、すかさずCocomiさんも熱く反応し、全員でクライマックスを築いていきました」

そのようなライブ感が生まれるのは、“演奏者たちのコミュニケーションがあってこそ”だという。小室氏はCocomiの音楽家としての魅力を次のように評し、彼女と共演した音楽家たちにも期待を寄せた。

「いくら楽器が上手くても、こうした演奏上のコミュニケーションが成り立たないと、共演者はただ合わせるしかなくなってしまいます。でもCocomiさんは共演者の音楽を尊重し、引き立てるのも巧み。

番組で共演していた3名の音楽家は全員、世界に通用する実力をもっているのですが、全く引けをとっていないばかりか、年齢を考慮すれば今後もっともっと伸びる可能性があるなと思います。語学も堪能なようですから、日本だけで演奏活動をするのではなく国際的に認められる存在になって欲しいですね。4曲目のラフマニノフの『ヴォカリーズ』を聴きながら、そう感じました」

Cocomiを中心に若き音楽家たちが、クラシック界がいっそう盛り上げていくことだろう。

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