またもや新型コロナが猛威を振るい始めるなか、新たな変異種の出現によって、過去最悪の感染者数が予測されている。医師が警戒する、その恐るべき特徴とはーー。
11月27日、東京都では新型コロナウイルスの新規感染者が1万346人確認された。
27日までの1週間平均では1日あたりの感染者数が1万388.4人と、前週比で120%に増加。
WHO(世界保健機関)の集計では日本の11月20日までの週間感染者数は59万3075人で、なんと3週連続で世界最多となっている。
「すでに『第8波』に入り始めたと言えるでしょう。AI(=人工知能)のシミュレーションでは、年末年始にかけてピークが訪れると想定。東京都の1週間平均での1日の感染者数は3万6000人、最大値では1日5万人とも予想されます」
こう話すのは、名古屋工業大学先端医用物理・情報工学研究センターの平田晃正教授だ。
だがじつは平田教授、本誌10月の取材では「都民の半数が屋内外でノーマスクだった場合」の想定で「約1万5000人弱」までの増加しか予測していなかったはずだが……。
「そうなんです。1ヶ月以上前のシミュレーションでは想定できなかった『新変異種』の出現が、これほどの感染者増加の見込みとなった最大の要因です」(平田教授)
加えて、10月末のハロウィンのイベントで感染者数が一気に増加し始めたことを受け、忘新年会、成人式などと、12月~1月の行事も考慮すると、最大5万人の予測が成り立ってしまうのだ。
前例に倣うと、全国での新規感染者数は東京都のおよそ8~10倍の感染者数にのぼるため……。
「全国では1日最大40万人の新規感染者数となっても驚きません。実際に、北海道では過去最多の感染者数を記録。
それほどまでに爆発的感染を巻き起こすことが濃厚な「新変異種」。
その正体を、埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科の岡秀昭教授が解説する。
「昨今、報道などで目にするようになった新変異種の『BQ.1.1』(ケルベロス、以下同)や『XBB』(グリフォン、以下同)はいずれもオミクロン株の一種です。
ケルベロスはオミクロンBA.5から、グリフォンはオミクロンBA.2系統から、それぞれ派生したウイルスとみられています」
新変異種の流行には、世界的な地域差があるという。
「ケルベロスは、アメリカやヨーロッパでの流行が主流で、グリフォンはインドやシンガポールで流行しています。日本の第8波は、どうやらケルベロスが主流になって置き換わっていくのではないかといわれています」(岡教授)
厚労省のアドバイザリーボードによると、国内では12月1週目には「ケルベロス」を含むBQ.1系統が79%を占めるという推定値が発表されている。
そんな新変異種は、従来株と比べてどんな違いがあるのだろうか。
■新変異種の驚くべき特徴とは……?
「ケルベロスとグリフォン個々の特徴の違いまでは、まだデータがありませんが、この2つの新変異種はこれまでのオミクロン株よりも感染力が強いという報告があるのです。実際、ここ最近の私たちの医療現場では、コロナ感染者1人から、瞬く間に周囲の多くの人に感染が広がる印象があります」
感染力は増強しているが、重症化率などの毒性はこれまでのオミクロン株と同等とされる。
さらに、新変異種には警戒すべき特徴があると岡教授は指摘する。
「今回の新変異種はワクチンの免疫効果をすり抜けて感染させてしまう“免疫逃避”が従来株より高くなっていると考えられています。つまりワクチンの感染予防効果が弱くなり、再感染リスクも上がってしまうのです」
オミクロン株自体の重症化率は、その前に流行したデルタ株より、大幅に下がっているといわれているが、この免疫逃避の高さから、「決して侮ってはいけない」と岡教授。
「重症化率が下がっているといっても、感染者数自体が5倍、10倍と膨らめば、重症者数や死者数も増加してしまいます。感染者数が最大になると予想される第8波では過去最大の死者数が出てもおかしくない状況です」
事実、共同通信の集計では今年のコロナ死者数は3万人を超え、2021年の1万4909人から2倍以上に増えているのだ。
さらに岡教授は「医療ひっ迫」への強い懸念を示す。
「感染力が強くなっているため、医療従事者にうつればスタッフの数が足りなくなります。現在、病床使用率が報じられていますが、100%埋められるだけの人手が足りない状況。すでに医療ひっ迫状態に差しかかっているため、感染者が増えれば、医療崩壊を招いてしまう恐れがあるのです」
そうなるとコロナ以外の傷病も含めた「死亡者の激増」という最悪の事態にーー。
「軽症や無症状感染者が増えれば、高齢の方や基礎疾患のある方に感染して重症化、あるいは死亡につながるケースが増えるでしょう。すると急病や事故で搬送され、救急対応が必要な患者さんなど、コロナ以外の医療が手薄になってしまうことも目に見えています」
冬場は、特に高齢者などに脳卒中や心臓発作などが起こりやすい。
そこにコロナとインフルエンザの同時流行となれば、体力のない高齢者や基礎疾患のある人を中心に、命を落とす人が激増する恐れがあるのだ。
それを食い止めるため、私たちができることを岡教授はこう説く。
「流行状況に応じたマスクや消毒、行動自粛を各自で見直したうえで、やはりワクチン接種が重要です。
新変異種は免疫逃避が高いとはいえ、追加のワクチン接種で一時的に感染予防効果を高めることが期待でき、重症化を防ぐ効果があります。
4回目以降は、流行のピークを読みながら、そのヤマの直前に打っておくことが望ましいでしょう」
そのタイミングとは、第8波でいえば「まさにいまから年末年始のスパンです」と岡教授。
コロナ第8波を抑制するカギは新変異種の特徴を踏まえた、私たちの日々の感染対策にあるのだ。