どの街も小ぎれいなチェーン店が看板を連ねるなか佇む大衆食堂は、古めかしかったり、逆に即席感あふれるつくりだったりと異彩を放つ存在で、なんとなく気にはなるものの通り過ぎてしまう……という人も多いのではないでしょうか。
大平さんも、もれなくそのひとりだったのだそう。
うまくて安い「定食屋」には、みな物語がある
「最初は、『このご時世にあの値段で儲けはあるのか?』を探ろうと取材をスタートさせたんです。だって貸したり、駐車場にしたりすれば確実に稼げる立地にあるのに、あえてそれをせず、利益率が低いとされている食堂を粛々と経営しているわけですからね。なにかからくりというか、裏があるんじゃないかって(笑)」しかし、取材を続けるうちにわかったのは、そんなものはなにひとつなく、ひたすら手間ひまをかけること「だけ」だったという。
当然、迷いや葛藤もつきまといながら。今回の本では、それぞれの店のおいしさの奥にある背景というか、お店の覚悟を含めた魅力を掘り起こせたかな、とは思っています」
その本こそが、8月に発売された著書『そこに定食屋があるかぎり』。各店のグルメポイントもしっかりとおさえつつ、読後は少しほろっともさせられます。
大平流「うまい定食屋の見分け方」
「まず、みそ汁にこだわっているところでしょうか。みそ汁って最初に口につけるから、一瞬でこの店の良しあしを判断されてしまうんですね。
それをわかっている店は、みそ汁に真摯に向き合っていますね。そしてお漬物はたいてい自家製。揚げ物に添えるせん切りキャベツも、パリッと歯あたりがよく新鮮でした。
ほんのちょっと添えるフルーツも、旬の生のものだったり。あと、定番以外のメニューが手書きの店は、季節に合わせて旬の食材を積極的に使っている証でもあるから信頼できると思いますよ」
つっけんどんで不愛想なことも共通点!?
「料理をいかに早く提供することのほうが重要だと考えているから、笑顔を振りまく余裕なんてない、というほうが正しいかな。だから、取材をお願いしても“そんなヒマない”とつっけんどんに断られるケースも多くて。
担当編集ともどもがっくりしつつも、“取材を受ける時間があったら、お客さんのために費やしたいという気持ちも、わからなくはないよね”なんて妙に納得したりして(笑)」
「定食屋呑み」を女子のニューカルチャーに!
「ランチ時以外なら、じつは長居歓迎というお店も多いんですよ。コロナ禍に大打撃を受けた店も多く、利益率の高いお酒はお店側としてもうれしいようです。私は、ひとりのときは混雑時を避けてあとから入店し、瓶ビールといっしょに定食を楽しんでいます。複数で行くときは焼酎のソーダ割りで酔っ払って。
居酒屋呑みとの違いは、やはりバランスがとりやすいところ、そして安心できるところでしょうか。
写真家・難波雄史さんによる、さまざまな感情を呼び起こす写真に加え、いい店の見極めのコツなどもあり、読みごたえも“満腹”の一冊です。
【大平一枝】
作家・エッセイスト。長野県生まれ。 市井の生活者を描くルポルタージュ、 失くしたくないもの・コト・価値観を テーマにしたエッセイを執筆。著書に『人生フルーツサンド』(大和書房)、『こんなふうに暮らしと人を書いてきた』(平凡社)、連載に「東京の台所2」 (朝日新聞デジタルマガジン&w)など
<取材・文/女子SPA!編集部 写真/難波雄史>
【女子SPA!編集部】
大人女性のホンネに向き合う!をモットーに日々奮闘しています。メンバーはコチラ。X:@joshispa、Instagram:@joshispa