6月1日、俳優の横浜流星さんが第35回日本映画批評家大賞にて映画『国宝』での演技が評価され、助演男優賞を受賞しました。

 昨年には大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合)の主演を果たし、トップ俳優の仲間入りをしたばかり。
今や日本映像界の至宝となった横浜さんですが、その華々しい活躍の裏には、半年間仕事が途絶え、オーディションに落ち続けた空白の季節がありました。

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特撮で脚光を浴びるも、仕事は全くなかった

 2009年に芸能界入りした横浜さんは、2014年の『烈車戦隊トッキュウジャー』(テレビ朝日系)ヒカリ役で最初に脚光を浴びました。ですが、そこから思わぬ苦戦を強いられます。横浜さんは2019年に出演したNHK『あさイチ』(NHK総合)で当時を振り返り、同作後、オーディションに落ち続けた過去を回顧。「(仕事が)半年間くらい全く無くて」と明かしたのです。

 その原因は、子供向けを意識したいわゆる“戦隊芝居”で、あらゆることを大げさにやってしまったためだと分析。そこから芝居のワークショップに参加し、基礎から学び直し徐々に演技を磨いたと言います。

『トッキュウジャー』から5年後、懸命な努力を続けた横浜さんは2019年のドラマ『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)にて、ピンク髪の不良高校生・由利匡平役で一大ムーブメントを巻き起こします。

 30代女性講師との禁断の恋に踏み込み、柔らかく甘い囁きが印象的な愛称“ゆりゆり”は大人気に。横浜さんのInstagramのフォロワーも、14万人ほどから一気に50万人以上増加しました。

 横浜さんはこのブレイクに浮かれることなく、仕事が無かった時代を糧に常に危機感を持ち、報われない時間を知るからこその“静かな強さ”とも言うべき芯を宿していきます。

「ゲスい野郎」を怪演、フォロワー3万人が減るリアリティ

 ドラマ『あなたの番です -反撃編-』(日本テレビ系)では無愛想な理系男子役から一変、恋に揺れ、人間味を帯びる青年を演じ高視聴率に貢献した横浜さん。

 その後も、執着心を持ち危険な香りを纏う名家跡取りを演じた『私たちはどうかしている』(日本テレビ系)、心に傷を抱えながらも茶目っ気も見せる料理人を演じた『着飾る恋には理由があって』(TBS系)など、立て続けに話題のドラマに出演。

 さらなる転換期となったのが、2022年の映画『流浪の月』です。
広瀬すずさん演じる女性への想いが歪み、暴力を振るう恋人役でその狂気を最大限に表現。壊れた優しさを一切の誇張なく、自然に滲ませたためリアリティがありすぎて、Xでは「本気で嫌悪感が湧く最悪の粘着DV男」「くっそゲスい野郎を怪演する横浜流星」と驚きの声があがりました。

 当時277万人いた横浜さんのInstagramフォロワーは3万人減ったそうですが、本人は「役者冥利に尽きる」と手応えを感じたそう。徹底した悪役への入り込みが評価され、日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞するなど、アイドル的俳優から本格派俳優への道を切り拓いていきます。

最優秀主演男優賞から、ついに大河ドラマ主演へ

 さらに役への没入度を極限まで高めたのは、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞など、数々の映画賞を受賞した2024年の映画『正体』。死刑囚・鏑木慶一として、5つの顔を使い分け逃亡劇を繰り広げました。

 見た目だけでなく、姿勢、歩き方、声のトーンといった細部まで演じ分け、1人で全く別の人物に次々となり切っていきます。その中でも、触れ合う人々に「信じたい」と思わせる心根の優しさを持つ鏑木。

「くっそゲスい野郎」横浜流星を変えた転換期 仕事がない“空白の時期”から“真の国宝級俳優”になるまでの約10年
画像:映画『正体』公式サイト
「死に物狂い」だったというアクションもさることながら、彼の必死の訴えは、生きようとする執念が激しくほとばしり、観る者を圧倒しました。

 こうした映画界での活躍から、ついに手にした2025年の大河『べらぼう』での主演という大役。横浜さん独特の「影」や「クールさ」は一旦封印し、情熱で仲間を巻き込み、時代を切り拓く江戸のメディア王・蔦屋重三郎を軽やかに好演しました。

『国宝』で表現した壮絶にもがき苦しむ葛藤

 そして迎えたのが、邦画実写史上初となる200億円突破という歴史的快挙を達成した映画『国宝』です。もとより横浜さんは、中学生時に極真空手の世界大会で優勝するほど一つの事を極めることに長けており、役作りでスキューバダイビングやプロボクサーのライセンスも取得してきました。

「くっそゲスい野郎」横浜流星を変えた転換期 仕事がない“空白の時期”から“真の国宝級俳優”になるまでの約10年
画像:ソニー企業株式会社 プレスリリースより(PRTIMES)
 そうした経験で磨き上げた静から動への振り幅と美しい所作を武器に、吉沢亮さんと1年半の修練を経て、歌舞伎女形を吹き替え無しで演じきります。


 また、歌舞伎の名門に生まれた大垣俊介として、血筋と才能の狭間でもがき苦しむ葛藤も痛いほどに表現。作中でも役者としてもライバルとしてしのぎを削ってきた吉沢さんと共に、歌舞伎という題材を超越した壮絶な「人間ドラマ」を創り上げたのです。

『国宝』の爆発的ヒットに大きく寄与した横浜さんは、主演でも助演でも作品全体を引き上げられる日本映画界を担う世代の中心的存在となったと言えるでしょう。

「腐らなくてよかった」という言葉の重み

 10月には『流浪の月』と同じ凪良ゆうさんが原作を手掛けた映画『汝、星のごとく』が控えています。再び広瀬さんと恋仲となり、15年にわたる愛と選択の物語が描かれます。

 実は低迷期の只中にいた2016年公開の広瀬さん主演映画『ちはやふる』のオーディションにも参加し落ちていたそうですが、後にそこで「腐らなくてよかった」とも明かしています。その言葉の重みこそが、横浜さんが真の“国宝級俳優”へと登りつめた最大の理由ではないでしょうか。

 仕事が無かった下積み時代があったからこそ、数多の作品で孤独や痛みを抱えた人物に説得力を持たせてきた横浜さん。空手で培ったストイックな精神と、絶望を知るからこそ放てる繊細な輝きを武器に、彼はこれからも観客の心を震わせ続けるのでしょう。

<文/こじらぶ>

【こじらぶ】
ライター・コラムニスト。上智大学大学院外国語学研究科修了・言語学修士。ドラマ、男性&女性アイドル、スポーツ、エンタメ全般から時事ネタまで。
俳優、アイドルなどのインタビューも。X: @kojirabu0419
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