(東京 12日 中央社)台湾のエスニックグループの一つ、客家の文学を日本に紹介するプロジェクトとして、客家を代表する作家の日本語訳作品計5冊が今年日本で出版され、15、16両日には東京都内で作家を交えた座談会も開かれる。中央社は、50年近く前に台湾文学の価値をいち早く見いだした台湾文学研究者、河原功氏にインタビューを行った。


5冊はそれぞれ、鍾肇政「ゲーテ激情の書」、李喬「藍彩霞の春」、曾貴海「曾貴海詩選」、利玉芳「利玉芳詩選」、甘耀明「冬将軍が来た夏」。座談会で40代後半の甘が登壇すると知り、「楽しみだ」とうれしそうに目を細めた河原氏。日本でも知名度がある客家人作家として「アジアの孤児」の呉濁流や「パパイヤのある街」の龍瑛宗など日本統治下の台湾で生まれた作家の名前を挙げた。

河原氏の専門は日本統治時代の台湾文学。台湾に題材を取った作品を残した佐藤春夫や、佐藤の作品に影響を受けて台北の旧制高校で学んだ中村地平など日本人作家のほか、楊逵や張文環、吳新栄など当時活躍した台湾の作家から文学史に至るまで、研究対象は多岐にわたる。

台湾文学との出会いは、大学在学中の1969年。
台湾の人類学者に嫁いだ高校時代の恩師の招きで初訪台したのがきっかけだった。戦後の台湾で出版された小説類はほとんどが国民党政権の意向に沿って書かれたものか仏教関連の作品ばかりで台湾の特色がないと感じ、日本統治時代に着目。以来、日本における台湾文学研究の開拓者としてまい進してきた。

河原氏は日本における台湾研究の充実・発展を目指して設立された「日本台湾学会」の発起人にも名を連ね、後進の育成にも取り組んでいる。同学会の会員数は現在約400人で、このうち台湾文学研究者は40~50人。以前に比べて増加したものの、もっと多くの研究者を育てたいと願う河原氏は、研究過程で資料の入手に困った自身の経験に鑑み、文献の復刻出版などにも力を入れ、台湾文学に関心を持つ人々を引き付けたいと考えている。


河原功:1948年東京生まれ。著書に「台湾新文学運動の展開 日本文学との接点」(1998)、「翻弄された台灣文學 検閲と抵抗の系譜」(2009)、「台湾渡航記 霧社事件調査から台湾文学研究へ」(2016)などがある。

(楊明珠/編集:塚越西穂)