(台北 16日 中央社)台湾出身の作家、東山彰良さんが15日、台北市内で開催中の台北国際ブックフェアで新書発表座談会に臨み、台湾人作家、呉明益さんと対談した。2人は、多くの台北市民の記憶に残る往年の大型商業施設「中華商場」の話や文学談義などに花を咲かせた。


中華商場は1961年、台北駅から程近い中華路一段で開業。当時まだ地上を走っていた台湾鉄道の線路脇に3階建ての建物が8棟連なり、60~70年代の最盛期には家電や衣料、骨董、飲食などの店が林立したが、都市再開発などに伴って1992年に取り壊された。

台湾では、東山さんの小説「僕が殺した人と僕を殺した人」の中国語版が1月末に刊行されたばかり。作品の舞台となる1980年代の中華商場に対する思い出話として、東山さんは、子どもの頃夏休みを台湾で過ごし、場内のレコード店でヒット曲収録の「ベストアルバム」を作ってもらったことや、中国北部各地の味が売りのレストランで母方の祖父と餃子を食べたエピソードなどを紹介した。

一方、中華商場で幼少期を過ごしたという呉さんも、自身の小説「歩道橋の魔術師」で中華商場を描いている。対談では、1971年生まれの自分は「僕が~」の主人公と同世代で、時代背景や成長の記憶が重なると明かした。
東山さんが描く中華商場については、真偽が錯綜(さくそう)するところに興味を引かれたと感想を述べた。これに対し東山さんは、「芸術とは真実を悟らせてくれるうそである」というピカソの言葉を引用し、時にはうその方がより真実を伝えられると応じた。

2人は、純文学と大衆文学についてもトークを展開。東山さんは大衆文学はうそが多く面白みに欠けることがあり、うそが少ない純文学も味気ないと話し、作家は両者の間で自分に最適なバランスを見つけるべきという考えを提示。呉さんも、良い作品はおのずと世代を超え、ベストセラーよりも多くの読者を獲得していくものだと語り、現段階では自分の作品が影響を残すのかにはこだわらないという姿勢を示した。

(洪健倫/編集:塚越西穂)