木曽川周辺も大雨や台風が起きると洪水や土石流、鉄砲水が発生していた。地域にはヤロカ水のほか、橋や堤防を作る際に選ばれた人柱の人魂が大雨のたびに「雨に注意」と呼びかけて飛び回っていたという怪談も伝えられている。
ヤロカ水の話が残り、水害除去などの祈祷をする愛知県一宮市の堤治神社の宮司、五十嵐二郎さんにヤロカ水は妖怪なのか尋ねたところ、
「妖怪ではありません」
ときっぱり。声の正体は、
「ヤロカヤロカという不可解な声は濁流に石がのみ込まれたり、土地が侵食されたりするときの音の可能性があります。この音が聞こえたら早く逃げるようにと、その知恵としてこの話が生み出され、伝えられたのでしょう」
水害多発地域の民話や妖怪は被害を食い止めるため、早めの避難を平成の世まで訴えているのではないだろうか。
■津波の襲来を知らせた人魚
さらに身近な生物が災害を伝えた伝承も残る。沖縄県各地に伝わる人魚だ。
琉球王朝の時代、石垣島の漁師の網に人魚がかかった。人魚は漁師に“逃がしてくれたら大切なことを教えてあげます”と告げた。漁師が逃がすと“津波がくるから避難してください”と言ってきたというのだ。漁師たちは急いで村に戻り、逃げると巨大な津波が村をのみ込んでしまった。
人魚の正体はジュゴンと言われており、人魚と津波とが関係する民話は沖縄県宮古島、石垣島などの島しょ地域中心に各地に残っている。
NPO法人沖縄伝承話資料センターの大田利津子さんはこんな仮説を立てた。