大阪の下町・庄内には、誰もが気軽に立ち寄れて、おなかも心も満たされる「居場所」がある。1つ100円の手作り惣菜は、20歳以下はすべて無料、店頭に並べたそばから消えていく人気ぶりだ。それを目当てに訪れたはずが、気がついたら自分の悩みを打ち明けている……そんな人たちが後を絶たない。家族問題に悩み、うつ病に苦しんだ過去を持つ店主・上野敏子さんの思いが詰まった、「お助け処」の物語とは―。
お惣菜は、話を聞くツール
5月上旬だというのに、梅雨を先取りしたような曇天の朝9時30分。阪急宝塚線庄内駅にほど近い『ごはん処 おかえり』(以下、『おかえり』=大阪府豊中市)では、お惣菜作りが佳境を迎えていた。店主の上野敏子さん(53)は焼き飯を炒め、アジをフライにし、慣れた手つきでハンバーグをプラスチック製の容器に詰めていく。
1日に作るお惣菜の種類は10品ぐらい。どれでも1つ100円とリーズナブル。それでいて、食の細い高齢者なら2食分はあるほどボリューミーだ。
ボランティアを務める男性がホカホカと湯気が立つお惣菜の一部に“見本”と書かれたシールを貼り、店頭に並べる。そんな見本に誘われるように、路地裏の小さな店にお客が次々にやってくる。
この日、最初に訪れたのは、買い物カートを押しつつ自宅から30分かけて歩いてきたという高齢の女性。唐揚げに焼き飯、コーンフライを手に取り代金の300円を上野さんに渡し、こう話す。