本州の北の端、津軽半島西岸の付け根にある青森県西津軽郡鰺ヶ沢町。日本海に面したこの町の海っぺりにある小さな店で、その人は猫を撫でながら、どっしり座ってわれわれを待っていた。
取材とあって、カメラマンが準備をする一瞬を見計らい、ささっと口紅を塗り直し、ファンデーションで顔を整える。その姿がなんとも愛らしい。飾らない仕草と素朴な語り口に、初対面でありながら、ついつい“かあさん”と呼びかけてしまった。
ここは鰺ヶ沢の焼きイカ屋さん『七里長浜きくや商店』。
そして、この女性こそ菊谷節子さん(73)。あの元祖ぶさかわ犬・わさおと、本取材後の8月14日に亡くなった看板猫・グレ子の飼い主だ。
そのかあさんが看板犬のわさおとの出会いについて、こんなふうに語り出す。
「白いわんちゃんが歩いていたんだけど、見たら首輪をつけてないのさ。釣り人や漁師からエサをもらったりしていたんだけど、そんなんでは腹こさいっぱいにならんでしょう? それで荷物を持って歩く人の袋の中身を狙ったみたいで、“これは保健所に通報されるべな”と見ていたの。それがわさおだったんだわ」