自分を丸のみにした捕食者の体を突き破って脱出すると聞くと、「それって映画エイリアンで見たやつ」と思う人も多いが、「ニホンウナギ」の稚魚は、実際にそれに近いことをやってのけるそうだ。
とはいっても体を突き破るわけではない。
長崎大学大学院の研究チームは、動物全体でもとびきり珍しいニホンウナギの稚魚による体内からの脱出劇を、史上初めてカメラで撮影することに成功した。
その秘訣は、やはりあのヌルヌルとした細長い体であるそうだ。
ニホンウナギの稚魚は飲み込まれた後に脱出することができる
夏の風物詩のようなウナギは、私たちに日本人にはお馴染みの食材だ。だがご存じのように、「ニホンウナギ」は乱獲から数が激減し、絶滅が危惧されている。
そんなウナギを守るには、その生態を解明することがとても大切になる。
そして今回ニホンウナギの稚魚が持つ、動物界でもとびきり珍しい特技が明らかになった。大きな魚に食べられても、するりと体内から逃げていくのだ。
ニホンウナギの稚魚が大きな魚から脱出することならすでに知られていた。
ではどのように脱出しているのか?
問題はその脱出ルートだ。普通なら口から逃げていくと考えるだろう。
本当のところどうなのか、長崎大学大学院の長谷川 悠波 助教と河端 雄毅 准教授らは、ウナギの稚魚に造影剤を注入するという特殊な方法で、その大脱劇をX線撮影してみることにした。
明らかになった脱出ルートは想像の斜め上をいくものだった。
彼らもまた、稚魚は魚の口から逃げ出すのだろうと予想していた。
しかも相当にテクニカルだ。魚の胃におさまった稚魚は、尾を食道へとグッと差し込む。そのままバックしつつ、体をくねらせ尾で食道内を探る。
そしてエラを見つけるとその隙間からにょろりと尾を出す。そして最後はエラから頭をスポンと抜いて、魚から脱出するのだ。
生き残りをかけて、脱出までのタイムリミットは200秒
とは言え、それは一か八かの命懸けの大脱出だ。
長崎大学の研究チームよれば、、魚に食べられたウナギの稚魚34匹のうち、無事脱出できたのは9匹だけだ。
エラから尾を出すまではいったが、そこで力尽きた稚魚もいたし、うっかり肛門方向へ尾を差し込んだため、やはり脱出に失敗した稚魚もいた。
また魚の胃のなかは危険な場所であり、稚魚に残された時間は限られている。
魚の胃に完全に落ちてしまった稚魚はぐるぐるともがきながら脱出口を探すが、だんだんと弱っていき、200秒もすると完全に動かなくなる。
200秒と言うと3分20秒。カップラーメンが出来上がるくらいの時間しかない。
胃酸に対する耐性とヌルヌルした体、そして諦めない心
このように捕食動物に食べられながらもお腹から脱出するケースは、魚に限らず、動物全体で非常に珍しいそうだ。
小さな稚魚にそんなことができる秘訣は、強力な酸が分泌され、酸素も乏しい胃のなかの過酷な環境に耐性があることだと考えられるという。
そしてもちろんヌルヌルと滑る、あの細長い体も大きなポイントであるそうだ。
もしかしたら今年の夏口にしたあのウナギのかば焼きは、稚魚時代、エイリアンばりの脱出劇を繰り広げていた1匹なのかもしれない。そう思うと感慨深いものがある。
この研究は 『Current Biology』(2024年9月9日付)に掲載された。