地球上のほとんどの生物を支えている光合成について、新たな発見があった。
北極の氷の下にいる藻類は、晴れた日の10万分の1の光というほとんど暗闇のような状態ですら光合成をやってのけるのだそうだ。
これまで光合成が可能となる最低レベルの光量について理論値は推定されていたが、実際にそのレベルで光合成をする生物が発見されたのは史上初のことだ。
このことは、これまで生物が生きることは不可能とされていた場所にも、生物が存在する可能性を伝えている。
光合成に必要な最低限の光はどのくらいか?
酸素を作り出す光合成は、地球上の生物を支える欠かすことができないプロセスだ。それは少なくとも17億5000万年前には行われていた。
では植物や藻類は、光合成を行うためにどのくらいの光を必要としているのだろうか?
これまで研究者たちは、光合成に最低限度必要になる光の量を推定してきた。
そうして導き出された理論値の問題点は、それに近い光で光合成を行う植物・藻類がどこにも見当たらなかったことだ。
だがそれが今回ついに発見されたのだ。
北極の氷の下の暗闇で光合成をおこなっていた藻類
アルフレッド・ウェゲナー研究所の海洋地質学者クララ・ホッペ氏はプレスリリースで、「藻類がこれほど少ない光を効率的に利用できるのは非常に印象的です」と述べている。
ホッペ氏らは光合成の真実を知るために、2019年9月から北極の氷に船を停泊させ、1年間滞在している。
その間、氷にあけた穴から海中にセンサーを下ろし、光合成の結果作られるバイオマスと、光の量を計測し続けた。船内と氷の上に設置されたテントでの孤独な研究生活だ。だがその甲斐はあった。
最下層に届く日光は、水面のほんの1%
研究によれば、海での光合成は、太陽光が届く海水の一番の層でのみ行われるという。そのうちの最下層に届く日光は、水面のほんの1%だけだ。
しかも北極では、数ヶ月にわたって太陽がまったく昇らない極夜まである。暗い環境に適応した植物プランクトンや藻類といえども、さすがにこの期間には光合成をしていなかった。
ところが極夜が終わると、まだまだ闇は色濃いというのに、ほんの数日でバイオマスの増加が確認されたのだ。それは紛れもない光合成が行われている証だ。
雪でおおわれた氷の真下に生息する藻類たちが利用できたのは、私たちが晴れた日に浴びる日光のわずか10万分の1程度でしかない。
彼らはそれでも光合成を行なっていた。それは光合成が可能な下限の理論値におおむね一致するレベルだ。
これまで生物が住めないとされていた環境にも存在するかも
この研究は北極の特定のエリアを取り上げたものだが、ホッペ氏によれば、ほかの光に乏しい環境にも当てはまるだろうとのこと。
つまり、これまで生物が住めないとされていた環境でも、酸素やエサが存在し、それを利用する生き物がいるかもしれないのだ。
人類が光合成を知ったのは17世紀のことだが、今でもその仕組みについての意外な発見は続いている。
この研究は『Nature Communications』(2024年9月4日付)に掲載された。